ハレの日に晴れない気分
久々に書いてみました。
王城から聞こえる祝いの空胞に、煌びやかな衣装で集う人々。
オスタニア王国の王立庭園では、毎年この時期になると王家主催の園遊会が開かれる。
ここにはほぼ全ての貴族はもちろん、前年度で優れた功績を挙げた、庶民出身の著名人達も招待されており、彼等を讃えるセレモニーもこの園遊会の見どころであった。
次々と名を呼ばれ、国王自ら授けられる勲章を胸に着けた彼等に、参加者達は皆拍手でそれを讃える。
まさにこの園遊会で最高潮の盛り上がりを見せる中、1人浮かない顔色の若者がいた。
煌めく銀髪にアメジストの瞳、名のある彫刻家をも唸らせる完璧な造形美のこの若者は、憂いた顔すら女性達の視線を集める。
けれど、うかつに声を掛けられないという事は、貴族の間では誰もが知る所であった。
何故なら今迄どの様な美女が近付いても、誰一人として成功した試しはなく、それどころか皆手酷く振られて来たのだから。
国内に三家しかない公爵家の内の一つ、ウォルシャー公爵家の嫡男である彼は、名をリアム・コーヴィル・ウォルシャーという。
先代国王の妹、美貌の王女エレイナを祖母に持ち、父は現国王と従兄弟同士という血筋もさることながら、幼少期から優れた頭脳と容姿を兼ね備えたリアムは、神の愛子と呼ばれていた。
それ故彼を狙う女性は後を絶たず、少年期には何度も襲われかけた苦い思い出を持つ。
お陰ですっかり女嫌いに育った彼は、25歳になった現在でも結婚する気が全くない。
後継の心配をした両親が、何度か見合いの話を持って来ても「後継なら嫁いだ姉上の産んだ子でいいでしょう」と、独身を貫く意思を示し続けていた。
が、そんな彼の意思を曲げざるを得ない出来事が訪れる。
「あ、いたいたリアム!君は目立つから探し易くて助かるよ〜!」
学生時代からの友人の一人、ダニー・レジストンが陽気に声を掛けた。
ハァーと深い溜息を吐いたリアムは、眉間に皺を寄せた顔でダニーに問いかける。
「本当にやらなければいけないのかダニー?君がフレッドを説得してくれたら助かるんだが」
「無理だね!今のフレッドには何を言ったって無駄だよ。なんせ彼の中では、君以外の適任者はいないと思い込んでるんだから。まあ、腹をくくれば簡単だろ?だって君は神の愛子なんだから」
「愛子って‥そんなの勝手につけられたあだ名じゃないか。第一私は、その分野を徹底的に避けて来たんだからな!どう考えたって上手くいくとは思えない」
「そうは言っても"アレ"がフレッドの手元にあるんじゃしょうがない。君が断れば、フレッドは即座に行動に移すと思うよ。この前は落ち込んでいたけど、今は復讐に燃えてるからねぇ」
苦笑いでなんとか宥めようとするダニーに、リアムはまた溜息を吐く。
何しろ今からやろうとしている事は、彼が心底嫌悪して来た、女性に関する事柄だからだ。
フレッドというのはもう一人の友人で、ダニー同様学生時代からの付き合いがある。
昔から下心ありきで近付いて来る輩の多かったリアムだが、この二人にはそれを感じなかった所為だろう。
尤も彼等の家柄を考えると、下心等持つ必要もないのだが。
ダニーは現宰相の息子だし、フレッドは貿易業で財を成した名門侯爵家の嫡男だ。
お互い共感する所が多いこの二人とは、何かと集まっては酒を酌み交わす。
そう、あの日もいつもの飲み会のつもりで、ダニーに誘われフレッドの家へ向かったのだ。
それがまさか、今の追い込まれた状況を生み出す原因になるなんて、誰が予測出来ただろう?
読んで頂き、ありがとうございます。