1話
昔々、あるところに小さな村がありました。その村の端っこの方におじいさんとおばあさんが住んでいました。2人には子供がおらず、領主から村に課された多くの税金を納めるために毎日年老いた体に鞭打って働いておりました。食べ物も少なく、貧乏でしたが、2人で仲良く暮らしていました。
ある日、いつものようにおじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
「ふう、これだけ刈ればしばらくは持つだろう、柴だけに。なんつって!ハッハッハ!……おい!誰か笑ってくれよ!…あ、俺1人だった。」
と、こんな感じでおじいさんが柴刈りをしていたその頃、おばあさんはなかなか落ちない油汚れに苦戦していました。
「チッ、なんだい、全然落ちないじゃないかい。まあこれはじいさんのだからいいか。」
と、おじいさんの服の汚れ落としを諦めたその時、川上から大きな桃がどんぶらこどんぶらこと、流されて来ました。
「おや、桃じゃないか、こっちへ来るね。近くに来たら引き上げてみようか。」
と、おばあさんが桃が近くに来るのを待っていましたが、桃はすぐに小さな岩に引っかかって止まってしまいました。
「なんだい、根性がない桃だね、岩ぐらい砕いてみせな!」
と、おばあさんが言うと、不思議なことに桃に言葉が通じたようで、急に岩に体当たりをし始めました。
「あああ!待ちな!傷んでしまうじゃろ!やめんか!」
と、いろいろあっておばあさんは桃を手に入れました。
「しかしまあ、なんと大きな桃だね、洗濯物もあるし担いで持って帰るのは無理だね。転がして行こうか。」
そうして、おばあさんは桃を転がしながら家に帰りました。
「おお、ここからは下り坂か、このまま転がしてしまおう。」
おばあさんは桃を坂の上から転がしました。
ゴロゴロゴロ!
「ああっ!しまった!わしらの家に激突してしまう!」
しかし、おばあさんももう結構な歳だったので、追いつくことは叶わず、桃はそのまま家に激突し、扉をぶち抜きました。
「おお、やってしまったわい…」
おばあさんは家に駆け込み、桃の下敷きになっていたおじいさんを見て言いました。
「じいさんや!わしの桃は無事かい⁈」
「…なんでわしの心配はせんのじゃ。まあ、桃もわしも幸い柴の山のおかげで無傷じゃよ。というか、何がわしの桃じゃ、独り占めする気か!」
「じいさんや、見つけたのはわしなんじゃ、当然わしの物であるだろう。」
「むっ!たしかにそうじゃが、こんなに食べ切れるのか?太るぞ」
「あんた、レディに向かってなんてこと言うのさ!あんたは皮でも舐めときな!」
「なっ!すまんかった!わしにも果肉をくれ!」
「へー、謝れば済むと思ってんのかい?まあこれでも夫婦じゃ、種もつけてやろう。」
「やったね!種だけに!って、種は食いもんじゃねぇ!」
おじいさんとおばあさんが下らない言い争いをしていると、突然桃が破裂しました。
パァン!
「「ああっ、桃が!」」
「おい、桃より俺に気を遣ってくれ、目が回って吐きそうだ…」
なんと中から喋る子どもが出てきました。
「やめんか!吐いたらまた川に流すよ!まだ食べれるところはあるな⁈3秒ルールじゃ!急げ!」
「任せろばあさん!おい坊主!ちょっと邪魔だ!端っこにどいてな!」
桃の破片はおじいさんとおばあさんが美味しくいただきました。
「ちょっとまだ硬いの。」
「うむ、まだ熟してなかったようじゃ。全然甘くない。」
「…悪かったな、未熟でよ…。」
「「赤子だけに(笑)」」
「うるせえやい」