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第七話 突然の仇敵との再会(戦闘になるとは言っていない)

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 20XX/03/12

 [システムメッセージ]:『221671/225109』

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 旧友ゾンと再会し、二人で{パールスロート遺跡}を攻略してから一月後。つまりはイクリプス・オンラインの世界に取り込まれてから二月ほどが経った頃。この世界での生活に適応した二十万強のプレイヤーは大きく二つに分かれていた。


 一方は『ゲームをクリアした者は元の世界に帰還できる』と信じて攻略を進める連中。

 もう一方は『誰か一人でもクリアすれば、その時点で全員が解放される』と信じて最低限の生活費を稼ぎながら、とにかく死なないように(つと)める連中。


 この二者はさらに生存戦略で細分化される。


 非攻略組の方は特に多彩だ。低難度ダンジョンに潜って宝箱を開けて回る者、格下のモンスターを狩ってドロップ品で稼ぐ者、鍛冶やポーション作成、裁縫、料理などのスキルで金を稼ぐいわゆる生産組――他にも色々いる。だが、ある程度リスクを(おか)さなければろくな稼ぎにならないという点だけは共通していた。

 街の中だけで完結できそうな生産組にしてもそこは例外ではない。同業者が多すぎるため、品質で他と差をつけなければ買い叩かれて素材代さえ捻出(ねんしゅつ)できないからだ。生産品の質を上げるにはスキルレベルとステータスを上げねばならず、結局はダンジョンに潜ってレベル上げを行うハメになる。


 つまり、この世界でリスクを(おか)さずに生きるすべは皆無ということだ。


 命がけだと噂されるこの世界で、狂暴なモンスターの徘徊するダンジョンへ潜ることがどれだけのストレスであるか。


 中にはそのストレスに耐えかねて金を稼ぐのを完全に諦め――つまりは唯一の安全領域である宿屋に泊まるのを諦めて、街中で寝泊まりする層も一定数出てきているという。この世界では食事を取らなくても死にはしない。ただ酷い空腹で気分が悪くなり、一時的にステータスが下がるだけだ。よって路上で生活するだけなら金はまったく掛からない。

 そういう連中は数名から数十名ほどで一団となり、交代で見張りをしながら睡眠をとっているらしい。





    ☆




 という話を事前にゾンから聞いていたため、久方ぶりに訪れたアランダシルの街で通りの片隅に寄り集まって眠っている集団を見てもさほど驚きはしなかった。

 ただ騒がれると面倒なので、できるだけ人目につかない道を選んで街の中心部に向かう。俺の頭上のネームプレートはいまだに灰色だ。大金がかかるのでやる奴はいないと思うが、衛兵NPCを呼ばれる危険性もある。


 俺がわざわざリスクを犯してここへ舞い戻った目的はこの街の1チャンネルでしか手に入らない特殊アイテム<(SR)中級冒険者の証>の入手だ。ジョブチェンジを行えるようになるアイテムなのだが、イクリプス・オンラインの仕様上、このさき戦力を伸ばしていくにはこれが必要不可欠なのである。


 面倒な前提クエストはすべてクリアしてきた。あとはそれを報告してアイテムを受け取るだけ。

 問題はそのアイテムを渡してくれるNPCがいるのが、街の中央広場のど真ん中という点だ。


 狭い路地から顔を出して確認すると、これまた事前にゾンに教えてもらっていたとおり中央広場には十名ほどのプレイヤーがたむろしていた。その頭上のネームプレートには例外なく『白十字騎士団』というギルド名がついている。


 思わず『うへえ』と顔をしかめてしまう。できれば目にしたくない名前だった。


 『白十字騎士団』はイクオンがゲームであった頃にも存在していた大規模ギルドだ。過激派PKKプレイヤーキラーキラーギルドの代表格であり、イクリプス・オンラインに秩序をもたらすことを活動理念に身勝手なマナーやらモラルやらを押し付けてくるヤバい奴らだった。ここにたむろしている理由はもちろん、罪人(クリミナル)に<(SR)中級冒険者の証>を渡さないためだろう。


 俺とも因縁浅からぬ連中である。殺し合いをした回数は覚えてもいない。『ちょいと通してくれませんか』と頼んだところで聞いてもらえるはずはない。それどころか俺の名前を見た瞬間に殺しに来るだろう。

 もちろん策は考えてきた。


「誰か! 誰か来てくれ! PKが出たぞ!」


 二つほど離れた通りから男の声がする。男の声というか、協力を依頼しといたゾンの声だけど。

 白十字騎士団の連中はこぞって声のする方へ走っていった。残ったのはたった二人。全員行ってくれるのが理想だったが悪くはない。

 しめしめとほくそ笑みながら冒険用鞄から<(R)発煙筒>をいくつか取り出し、無造作に投げ込む。中央広場はあっという間に白い煙幕に包まれる。

 居残り組の二人は悲鳴にも似た怒号を上げた。だが何が起きたかは察せていない様子。その隙に広場のNPCのところまで走っていく。手早くクエスト完了を報告すると、<(SR)中級冒険者の証>が俺の所持品に加わった。

 そこで煙幕の効果が切れた。それなりにレアなアイテムの割に持続時間が短いのだ。


「PKだ! 証を交換された!」


「集合ー! 集合ー!」


 居残り組の二人が警笛を鳴らすのを背中に聞きながら、俺は一目散に逃げ出した。

 狭い路地からさらに狭い路地へ。

 背後からは追ってくる靴音と怒号。その数は次第に増えていく。


 白十字騎士団はこの街のこのチャンネルを拠点にしている。いくら増えても不思議ではない。ウルトの街へ戻る転移門(ゲート)に向かうわけだが一直線には目指さない。フェイントとして一度街の奥へ向かい、それから折り返す。この小細工が功を奏したのか、背後の足音は次第に聞こえなくなった。

 しかし代わりに脇に建ち並ぶ二階建て安住居(アパート)の屋根を飛び移りながら追いかけて来る気配が一つ。

 それと隣の路地にも気配が一つ。そちらも俺と並走するように走っている。


「止まって」


 声は頭上から降ってきた。氷のように冷たい女の声だ。ともすれば聞き逃しかねない程にか細い声だが、同時に異様な迫力と存在感があった。

 猛烈に嫌な予感を覚えてその場で急停止する。

 直後、俺が駆け抜けるはずだった場所に直剣(ロングソード)が振り下ろされた。その剣を手に地面に降り立つのは軽鎧の美女。


「レンカか!」


「……ヨシヤ」


 女は複雑な感情の入り混じった声で俺の名を呼んだ。


 “白き純潔”のレンカ。


 『白十字騎士団』の創設者にしてナンバー1。背中まで伸ばした白銀(プラチナブロンド)の髪に、人形のような丹精な顔立ちと透き通るような白い肌。右側の前髪だけ長いいわゆる“片目隠れ”で、露出している左目は日本人離れした翡翠(ひすい)色だ。他の全員が生身の肉体で活動しているこの世界でただ一人、ゲームの世界から抜け出してきたかのような容貌(ビジュアル)をしている。

 こいつとはゾンと同じようにオフ会で何度も顔を合わせたことがある。たぶん歳は二十歳(はたち)かそこらだ。イクオンがゲームであった頃はゾンと同じか、それ以上に有名なプレイヤーだった。俺とは因縁どころではない関わりがある。

 今回、出くわす可能性が高いだろうと覚悟はしていた。

 しかし対策らしい対策はない。


「よぉ奇遇じゃねーか。こんなところで()うなんてよ」


 油断を誘う笑みを浮かべる。もちろん背中では冒険用鞄をまさぐって投石機(スリング)を探している。


「動かないで」


 こちらに届くギリギリの声量で言うとレンカは直剣(ロングソード)の切っ先を俺に向けた。能面のような表情は相変わらずだ。怒りや敵意はレンカの声や顔からはうかがい知れない。ただ刺すような殺気だけはひしひしと伝わってきた。

 装備品から察するにコイツの今の(ジョブ)は[勇者(ブレイブ)]だろう。ゲームであった頃と同じだ。()ける人数が限られているレアな中級職であり、転職条件が極めて厳しい代わりに能力も高い。所持している直剣(ロングソード)も産出量が限定されたレアアイテム。剣身は魔力を(まと)って淡く青色に発光している。

 どうやらコイツもゾンと同じく、この世界でもトップをひた走っているらしい。レベルは今の俺よりだいぶ上だろう。


「……殺した?」


 眉を(ひそ)めてレンカが目を向けたのは俺の頭上に浮かぶ[ヨシヤ]というネームプレート。

 俺は口端を吊り上げ、肩をすくめる。


「バカこくんじゃねえよ、まだ灰色だろーが。この段階で黒から灰まで漂白する手段がねーってこた、お前も知ってんだろ」


 灰色表示は軽犯罪者の証。一人でもPK(プレイヤーキル)していれば黒字になる。そして黒から灰に戻す方法はウルトの次の街に行けるようになるまで存在しない。つまりこの名前の色は現段階では俺が一人も殺していないことを証明してくれている。

 しかしレンカは直剣(ロングソード)を下ろしてくれなかった。


「ゲームではそうだった。でも、この世界でもそうとは限らない」


「かもな。ゲームとこの世界じゃ色々細部が違うわけだし。だがどっちゃにしろ白十字の方針は『黒字は抹殺、灰字は放置』だろ? 今の俺は対象外じゃねーのかよ」


「……ゲームではそうだった」


 レンカは同じ言葉を繰り返した。

 背筋がぞくりとする。


「まさか、灰字(グレイ)も討伐対象に変えたのか?」


「違う。……でも、これでいいのかとは思ってる」


 レンカの瞳には迷いが滲んでいた。

 清廉潔白。理想主義。

 言葉数が少なく感情が表に出てこないだけで、こいつの考え自体は分かりやすい。


「ハッ、なーるほど。この世界は命がけかもしれねーわけだからな。軽犯罪でさえ死につながる可能性がある。例えば罪貨(カルマ)窃盗(ルート)とかな。そりゃお優しいレンカ様は見過ごせねーわな」


「ヨシヤが犯した、罪はなに?」


「襲ってきた白字を返り討ちにしただけだ。なにせこちとらテメーらが流した悪評のせいで、初対面の白字にも襲われる身の上だからよ」


「……返り討ちにしただけ? 本当に?」


 疑わし()なレンカの眼差し。

 うんざりした気分になって俺は(かぶり)を振った。


「別に信じてくんねーでいいけどよ。ただのゲームならともかく、命がけかもしれないこの世界で誰が好き好んで犯罪行為なんてするかよ」


「する奴らはいる。残念だけど」


 レンカの瞳には燃えるような激しい怒りが、ちらりと垣間見えた。

 この世界に取り込まれてからの二か月で二十万強のプレイヤーは攻略組と非攻略組の二派に別れた――が、その分類とは別に極めて異質な存在も現れ始めていた。


 他のプレイヤーを狩り、その所持品を奪う者たち。

 つまりはプレイヤーキラーである。


 そういった連中はウルトのどこかのチャンネルの暗黒街(スラム)でコミュニティを形成しているらしい。まだごく少数であり俺も遭遇していないが、次第に数を増やしていくことだろう。時間が経つに連れ、()()()()()()()()()()()()と考えるプレイヤーが増えていくだろうから。


 レンカは警告とも疑いともとれる声音で再度聞いてきた。


「これからも、PKをする気はない?」


「しねーよ! 別に信じてくんねーでいいけどよ」


 黙り込んだレンカは少しだけ直剣(ロングソード)の切っ先を下げた。

 それで気づいたが、この美女の顔には少なからぬ疲労の色がうかがえた。

 ――考えてみれば無理もない。


「レンカ。ゾンから聞いたぜ。白十字の団員、ゲームだった頃と比べてずいぶん減っちまったらしいじゃねーか」


「仕方がない。この世界で、こんな活動をするのは危険すぎる。強制はできない」


「ハッ、よーするにテメーの御大層な理念に本気で共感してたやつなんて、ほとんどいなかったってこったろ。正義は振りかざしてぇけど自分がリスクを負うのはごめんだって連中ばっかだったわけだ」


 あからさまな安い挑発。

 だがこんなものでも、この女はスルーできない。


 レンカの足が石畳を蹴る。

 二人の距離が一瞬で詰まる。


 反射的に逃げたくなる。そこをぐっとこらえて目を凝らし、レンカの動きを見極める。

 初太刀はやはり上段からの振り下ろし。ゲームであった頃と変わらないコイツの癖だ。


 タイミングを見計らい、左腕につけた小盾(スモールシールド)を横から叩きつけてレンカの剣をはじく。


 響く甲高(かんだか)い金属音。

 体勢を崩すレンカ。


 【受け流し(パリィ)】が完璧なタイミングで決まった。すぐさまレンカの間合いから離れる。

 元から対人戦(PVP)でのコイツに対する相性は抜群にいい。だがそれにしてもこんな簡単にいく相手ではない。


「レンカ。ビビってんだな、オメーも」


 追撃を受ける前に言葉で牽制する。

 レンカは悔し気に唇を震わせるのみで、その場を動かなかった。


「そうじゃねーかと思ってたんだ。さっきの上からの奇襲攻撃もマジで当てる気はなかっただろ。結局オメーも人間殺す勇気はねえんだ。だから<中級冒険者の証>をPKに渡さねーとかくだらねー妨害しかできねえ。……どうせお前、この世界に来てから一人もロストさせてねーんだろ」


 レンカは悔しそうに歯噛みする。それは答えも同然だった。

 こいつがそうなら、こいつの指示に従っている白十字全体も同じだ。相手が灰字だろうと黒字だろうとロストはさせない、そういう方針に変えたのだろう。


「これでいいのかとは思ってる」


 レンカは先ほどと同じ言葉を繰り返した。

 その瞳には迷いがある。深い恐れも。

 そんな中途半端な状態でPKKなどやるものではない。崇高な理想を掲げるならば、それに見合うだけの覚悟が必要だ。


「おいレンカ。前に俺が教えたとおり、ヤられる前にヤれよ。本当に必要な時は躊躇(ためら)わずな。……だがよぉ、会ったこともねえ奴らのためにPKKプレイヤーキラーキラーすんのは本当に今のオメーがやんなきゃならねーことか?」


「違う。でも誰かがやらなければいけない。誰かがやらなければ世界は渾沌の底に落ちる。――これは本当ならヨシヤが」


 そこでレンカは初めて人並みに感情を(あら)わにした。

 責め立てるような恨みがましいような、そんな顔。


 だが続けて発しようとした言葉は絹を引き裂くような女性の悲鳴で(さえぎ)られた。

 近くからではない。しかしそう遠くからでもない。


「ぴ、PKです! PKが出ました! 誰か来て!」


 若い女の声である。レンカは悲鳴の聞こえた方角と俺の顔とを見比べた。

 今度は俺の仕込みではない。本当だ。だがこの妙にタイミングがいい悲鳴をまったくの偶然だと断定するほどコイツはバカではないだろう。

 どちらにせよ、こいつの性格からして捨て置くことはできないだろうが。


「行けよ。俺みたいな灰字(グレイ)に構ってる暇があったら、黒字(ブラック)潰すべきだろ」


「……次に会うときまでに、黒にならないでね、ヨシヤ」


 レンカは最後に俺を睨んでそう吐き捨てて、悲鳴のした方に走っていった。

 その背が角を曲がって見えなくなるまで待ってから、深く大きく息を吐く。


「ふぅ、ったく」


 どっと疲れが湧いてきた。代謝のないこの世界でなければ、滝のような汗を流していたことだろう。

 久々に緊張感のある対峙だった。


 腕組みをして、しばし待つ。


 トットット、という元気な足音。先ほどレンカの気配を感じたときに、同時に感じたもう一つの気配の足音だ。

 レンカは行動が分かりやすいが、こいつはホントに何をするか分からない。


 通りの角からその人物、さっきの悲鳴の主がひょっこりと姿を現わす。


「お久しぶりですね、ヨシヤさん!」


 右手を挙げ、満面の笑みでそう挨拶をしてきたのは迷彩(カモフラ)柄の司祭服を着た女子高生[司祭(プリースト)]――ミューだった。


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【ミュー】

LV:21

クラス:[司祭(プリースト)]

HP:201

MP:131


筋力:22

知力:13

器用:12

敏捷:13

意志:37

幸運:23


【料理LV6】【たき火LV3】【食料採集LV4】


武器:<(R)司祭の錫杖+2>

足:<(R)シルフのブーツ>

腰:<(R)エルブンケックス>

胴:<(N)アールディアンアルバ+5>

頭:なし

装飾:<(R)地竜のペンダント>

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