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第五話 感動的な旧友との再会(茶番でないとは言っていない)

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 20XX/02/05

 [システムメッセージ]:『223548/225109』

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 およそ一年前にサービス終了したMMORPG、イクリプス・オンライン。その作中世界である{十二の月が巡る大地オー・ダン・イリュアド}に二十万強の人間が閉じこめられてから一月あまりが経過した頃、俺は第二の街であるウルトを訪れていた。


 ここはイクオンの主な舞台である魔法王国(マナオラ)の中央に位置する大都市である。焼き煉瓦(レンガ)の建物が多かったアランダシルと異なり、ウルトは石造りの建造物がほとんど。蜘蛛の巣状に張り巡らされた通りのそれぞれに尖塔を持つ大聖堂があり、街の中心部には見上げるほどに立派な城がそびえている。魔法王国(マナオラ)の古都という設定らしいが、まるで中世の建築物が残るドイツやイタリアの都市のような雰囲気だ。


「なっつかしいなー」


 ホームタウンの街並みを一年ぶりに眺めて、俺は感慨と共に呟いていた。もちろんゲーム画面で見るのとこうして自分の足で歩きながら眺めるのとでは大違いではある。

 この街にはアランダシルにはない施設もたくさん存在するため、普通のゲームであった頃は多くのプレイヤーがここを拠点に活動していた。しかし現在はNPC以外の姿はほとんど見かけない。理由は簡単で、レベルを20まで上げないと受けられない特殊クエストをこなさないと入場できないためである。

 おかげで今は俺のような悪名高いプレイヤーでも大手を振って通りを歩けるわけだが、この段階でここに来てる連中は例外なく手練(てだ)れということでもある。警戒は(おこた)れなかった。


 俺はまず裏路地にある冒険者の店へ向かい、受付嬢NPCに所持アイテムの大部分を売却した。アランダシルではダンジョン探索受付所以外の場所は行けなかったし、ダンジョンにいる商人NPCは買取り価格が詐欺レベルに安いため、これまでずっとアイテムをため込んでいたのだ。{人狼(ウェアウルフ)の密林}での固定箱開け、例の女子高生とのキリングゴーレム狩り、それから一か月続けた邪道なレベリングの副産物――それらすべてを合わせるとかなりまとまった額になった。

 しかし続けて店の商人NPCからこの街で買える最上級の武器と最低限の防具、追加の折り紙と食料を購入すると財布はだいぶ心もとなくなった。


 次に俺は1ch(チャンネル)のウルトの街に移動した。それからメインストリートの狭い路地に入って、向かい側にある『ギルド設立申請所』という役所風の建物を監視する。

 ギルドというのはプレイヤー同士の互助会だ。俺が見張っているのはそれを設立するための建物なのだが、あれはアランダシルにはないし、この街ではこのチャンネルにしか存在しない。ゆえにギルドを作ろうとする者はまず最初にここに足を運ぶ。

 冒険用鞄から高級折り紙を取り出して、手裏剣を作って暇をつぶす。長丁場になる覚悟はできている。


 だが異変はすぐに訪れた。


 路地の奥の方で何者かの気配がした。

 とっさに振り返ろうとする。しかしそちらから男の声が届く方が先だった。


「動くな。手を上げろ。ボウガンでお前の頭を狙っている」


 言われるがまま両手を上げる。

 抑えられた声量。その声に緊張や気負いは感じられない。かなり場慣れしている――と普通だったら推測しただろう。


 男の声は足音と共に近づいてくる。


「極悪プレイヤーのヨシヤだな? ゲームの頃はずいぶんと世話になった。借りは返さないといけないな」


 俺は『はぁー』とこれ見よがしに溜息をついた。

 警告など無視して振り返る。


 そこに立っていたのは金属鎧を着込んだ男だった。俺よりいくらか年上の、絵に描いたようなイケメンである。言わずもがなボウガンなど持っていない。


「なんなんだよ、この茶番は。……ゾン。アンタ、昔からそういうところあるよな」


「ハハ! 待ちくたびれたんだから、これくらいの悪戯(いたずら)は許してほしいね」


 鎧のイケメン――“イクオンの良心”こと[ゾン]は腹立つくらい(さわ)やかな笑みを浮かべて、握りこぶしを突きだしてきた。

 俺はそこに握りこぶしを合わせることで(こた)える。仲間の挨拶であるハンドシェイクだ。


 俺も自然と笑みをこぼしていた。こいつとは古い馴染みであり、オフ会で何度も顔を合わせている仲でもある。


「ここで待ってればそのうち来ると思ってたけど、ずいぶん遅かったね、ヨッちゃん」


「うっせー。こっちは悪名のせいで正規の攻略ルートが使えねーんだ。キリングゴーレムとかで強引にレベリングして、やっとの思いで来たんだっつーの」


「あっはっは! ホントに!? マジックワンドでキリゴー狩るの、ホントにやったの!?」


 ゾンが手を叩いて大笑いをする。

 あのレベリング方法は元々『イクオンのデータがリセットされたら、どうレベリングするのが最速か』という雑談を仲間内でした際に出た案である。その頃には俺たちはもう十分なレベルに達していたので実際にあそこでキリゴーを倒すのは数回やってみただけなのだが、その経験が役に立ったというわけである。

 あの時一緒に話をした仲間たちの顔が頭に浮かぶ。


「なぁゾン、暗黒街(スラム)の連中とは会えたか?」


「いや、二十万人もいるとさすがにね。僕んとこのギルド員は十人くらい会えたけど、この街まで到達できたのはまだ僕だけだ」


「ハッ、そりゃそうだ。アンタの廃人プレイについてこれる奴がそうそういるかよ」


 ゾンはイクリプス・オンライン最大手ギルド『ディスクアウト』の創設者でありマスターだった。来るもの拒ますがこの男のモットーであり『ディスクアウト』も非常に珍しい白黒混合――犯罪歴不問の方針を掲げるギルドだった。おかげで一部の過激派PKやPKKプレイヤーキラーキラーからは非難されてたが、この男は意にも介していなかった。

 コイツ自身は犯罪行為は一切しないプレイヤーだ。その証拠に今も頭上のネームプレートは純粋な白字(ホワイト)である。しかしこのウルトの街にある黒字(ブラック)たちの居住区――暗黒街(スラム)にもよく出入りしていたため、連中にも顔が利いた。

 専門の情報屋ほどではないが、かなり耳(ざと)い男だ。信用できる情報源として聞いておきたいことは山ほどあった。


「なぁ、<罪貨(カルマ)>切れで死んだプレイヤーの体が灰になって消えるってのは本当か?」


「ああ、僕はまだ見てないけど信頼できる筋から聞いたから間違いないよ。PKされた場合でもモンスターに殺された場合でも、キャラロストの条件を満たしてしまうとこの世界から完全に消えてしまうみたいだ」


 ゾンは沈痛な面持ちで(かぶり)を振る。


「毎日システムメッセージで残りプレイヤー数が表示されるだろ? もう1500人も死んでるんだ。うちのメンバーはまだ一人も欠けてないけど、それもいつまで続くか」


「……死んでる(・・・・)? はーん、アンタもこれがデスゲームだと信じてるのか」


「ヨッちゃんは信じてないのか?」


 ゾンは意外そうな顔をした。


「断定はできねぇだろ。この世界から消えた奴がどうなったかなんて俺たちにゃ知りようがねーんだから」


「現実世界で死んだ人間がその後どうなるか分からないのと一緒か。確かにね」


 ふむ、と顎に手を当てて考え込むゾン。

 コイツの口ぶりからしても、やはり他のプレイヤーたちの間では『この世界はデスゲームである』というのが共通認識になっているようだ。


「ところでヨッちゃん、それ」


「ん? ああ……」


 ゾンが揶揄(からか)うような調子で指さしたのは俺の頭上、軽犯罪者の証である灰色のネームプレート。さすがにスルーはされないだろうと思っていたが、説明するのはなんとも気まずい。


「あー、信じてもらえるかわかんねーけどよ」


「分かる分かる。どうせ君のことだから、白字に襲われかけて先制攻撃で撃退したとかだろ?」


「……そのとおりだけどよ。現場を見てたかのように言い当てるの、マジきめえな」


「ハハハ! 何年の付き合いだと思ってんのさ!」


 ゾンは嫌みの欠片もないさわやかな笑顔で肩をバシバシ叩いてくる。俺が灰字でもこの男は非難してこないだろうと信じてはいたが、それでもやはりホッとした。


 積もる話はまだまだある。だがそれは道中ですればいい。

 俺は路地からメインストリートに出ると北の地平を見やった。


「さて、ここで俺を待ってたってこたぁ、目的はアレだろ?」


 ゾンはニヤリと笑うと同じ方角を向く。


「察しがよくて助かるよ。あそこはうちのギルド員とだと厳しいからね。ヨッちゃんに手伝ってもらえたらと思ってさ」


 俺たちの視線の先には白亜に輝く逆円錐形の遺跡が(そび)え立っていた。

 {パールスロート遺跡}。イクオンのメインストーリーである十二の試練の最初のダンジョンであり、多くのプレイヤーが最初に(つまづ)く難所でもある。


 ゾンには恩というか、借りがある。

 さっきの茶番のこいつの台詞(せりふ)じゃないが、借りは返さないといけないだろう。


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・Tips

【マナオラ王国】

冒険の舞台となる国。通称“魔法王国”。

大賢者ユリアーネが三百年に渡って宮廷魔術師を務めているため、“賢者の国”とも呼ばれる。


大陸南西の巨人半島(ジャイアント・アーチ)の南端に位置しており、国土はおおむね縦長の長方形。

勇者側勢力(ヨシュア・サイド)指折りの大国であるが敵対国家に囲まれており、多くの魔族の領域とも国境を接しているため、常時侵略に悩まされている。

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