第四十六話 試練の対価(成功率は悪くない)
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20XX/12/31 23:59:59:71
[システムメッセージ]:『42/225109』
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「つまり……これも全部ゲーム内設定と同じだったってことですか?」
ミューが発した最初の一言、それを聞いた途端にレンカが指をパチンとはじいた。
「そっか。分かった」
「待て待て待て」
慌ててレンカの手を掴む。ミューが考えてた1分間にコイツも考えていたのだろう。たぶん、たどり着いた答えは正解だろうが。
「お前2周目だろうが。最後はミューに譲ってやれよ」
「分かってる。私は分かったって言っただけ。ミューちゃん続けて」
ムッとした顔でレンカが俺の手を振り払う。
ミューはそんな俺たちのやりとりには目もくれず、胸の下で腕組みをして情報を整理し始めた。この世界での出来事をすべて思い出すように。
「まず大賢者様は田神さんの会社に潜り込んでこの世界の管理者権限とかいうのを手に入れました。田神さんがこの世界を作るのを力づくで止めることもできたけど、それをしても別の場所が世界接触点になるだけだから、どうせだから逆に利用することにした。
そしてこの世界を命がけではないように改ざんした上で、世界が始まってすぐに《時の凝縮》をかけて1分間を1年にした。
それからヴィーちゃんの姿であたしたちに接触して【錬金術】でサポートしてくれた。
これが大賢者様がやったこと」
ミューは一息入れて指を一本立てる。
「逆にやらなかったこと。大賢者様はこの世界をだいたいなんでもできる力があったのに、田神さんの作ったゲームが進行するのを邪魔しなかった。本当は命がけではない、ということも周知しなかった。
それとヴィーちゃんの姿でプレイヤーとしても参加してたけど、攻略の最前線には極力立たないようにしてた。それができるくらいの実力はあったのに。さっき理由を聞きそびれた『ラスボスに挑むわけにはいかなかった』っていうのも、たぶんその一環。
これらを総合して考えると大賢者様は『あたしたちプレイヤーに自力でこの世界をクリアしてもらいたかった』――と思えます。では、それはなぜなのか」
話している内に自信が湧いてきたのかミューの語りは次第に熱を帯びてきた。
「ヨシヤさんにはこのダンジョンの道中で話しましたけど、ゲーム内NPCの大賢者様があたしたち訪問者に試練を課したのは、それが魔術だからだと思うんです。試練を設定し、それをクリアしたら、それに相応する対価を得られる類の魔術。大賢者様はそれを使ってあたしたちが元の世界へ帰還するすべを用意しようとしたし、ゲーム内の魔族の野望を打ち砕く手段を得ようともした。
『最後の試練を乗り越えることが二つの世界を分かつ、ただ一つの刃となる』。このダンジョンに入るときにNPCの大賢者様はそう言いました。つまりあたしたちが試練を踏破することで『世界蝕を強制終了させる』対価が得られるってことです。
そして現実の大賢者様がしたことも、全部ゲーム内設定と同じ――そう仮定すると大賢者様がしてきたこと、しなかったことも全部説明がつくと思うんです」
ミューはコホンと咳払いをすると冒険用鞄から金貨を一枚取り出した。それからペンも取り出し、床に二重の円を描く。
「ゲーム内の大賢者様の話を聞いてて似たようなことは割と身近にもある気がしてたんですよ。なんてことはありません。見立て占いだったんですよ。極地法の前とかにヴィーちゃんがやってたアレです。
見立て占いは疑似的な行為から本番の結果を導きますが、試練と対価もそれと同質です。試練という疑似行為の成否をそれに見合う対価に結び付ける。
だとすれば大賢者様の魔術も達成困難な試練を踏破させるほど、得られる対価も大きくなるはず。だから大賢者様は田神さんが作ったこの超高難度な世界をそのままにしたし、ヴィーちゃんの姿での手助けも必要最小限にした。……というより本当はそんな形での手助けもするつもりなかったのかな。ラスボス戦の切り札になる<(LEGEND)賢者の石>を作れる【錬金術】――それを上げる人が1周目と違ってヨシヤさんの周りにいなかったせいで、急遽ヴィーちゃんとして出てくるハメになった、というのが正しそう。最後のPVPの時に偽装死したのはラスボス戦で手助けしたくなかったからでしょう。
まとめると。この世界をあたしたちが自力でクリアすれば現実の世界蝕を止められる――そういう魔術を大賢者様は使ったんです! これがあたしの結論です!」
「おー!」
俺とレンカは感嘆の声を上げて拍手をした。
ミューはホッとした様子でそれに手を振って応えて、また口を開いた。
「ここからは補足ですけど。魔族はあたしたちがこの世界で感じた恐怖や怒りをのちの大規模魔術に利用するつもりでいて、より激しい感情を得るために命がけという設定を田神さんに付け足させた――とヨシヤさんはさっき推測してました。
大賢者様はそれをそっくり横取りするために、この世界が“命がけでない”ことを公表しなかった。命がけという設定による恐怖や怒りを得るには、実際に命がけである必要はない。ただそうだとプレイヤーに信じ込ませればいいわけですから。
それとこの世界に《時の凝縮》をかけて1分間を1年に引き延ばしたのも、より濃度が濃い感情を取り出すためだと思います。
『呪術の根幹は人間の持つ魂から流れ出る感情である。この呪術は濃度の濃いそれを得るために、他の呪術を使う前の下準備としても使われる』と、《時の凝縮》のTipsにはありました。あたしたちの1年分の感情を52万5600分の1に凝縮することで、“試練と対価の魔術”をより強力な物にしようとしたんだと思います。
ああ、そうか。今話していて気づきましたけど、さっき大賢者様が言ってた『プレイヤーの体は現実世界に残して魂のみで来てもらった』っていうのも純度の高い感情を取り出すためなのかな。肉体情報もセットで来てるとそれが雑味になる――とか。これはあたしのただの想像ですけど」
ミューは再び自信なさげになって上目遣いでヴィブティを見た。
ヴィブティはにこやかに微笑みながら拍手をした。その姿が再び万華鏡のように変化して大賢者に戻る。修道服を思わせる黒のワンピースドレスを着用した背の低い灰色髪の女に。
「素晴らしいですミューさん。最後のイベントを見ずによくその答えにたどりつきました」
「あ、あってましたか?」
「はい、おおむねは。99点です」
「え。と、取りこぼした1点は?」
「私が皆さんからいただきたかったのは怒りや恐怖といった暗い感情ではないのです。死という絶望に抗おうとする皆さんの“勇気”と“希望”、どんな試練にもくじけない強い心、人の魂が持つ善なる光。そういった輝ける感情こそが世界を救うという尊い魔術には相応しいのです。
それでは1周目と同じイベントを行いましょう」
大賢者は床からふわりと浮き上がり、再び5メートルほどの高さに停止すると鷹揚に両手を広げた。
『よくぞ試練を乗り越えました、訪問者たちよ』
『十二の月が巡る大地の民を代表して深き感謝を』
『あなた方のおかげで我が魔術の極地――“《約束された試練》”は発動にこぎつけました』
『ここまで試練を乗り越えてきたあなた方を突き動かしてきたもの。善なる人の想い。何よりも尊い、黄金の意志』
『それらを折り重ね、束ね――今こそ現出せよ、“世界断ちの剣”』
大賢者が首元にある梟の形状の大きな入れ墨――“叡智の聖印”を指でなぞり、続いて右手に持っていた賢者の石に触れる。
金属が圧縮されていくような甲高い音が鳴り響くと共に、最終フロアすべてを覆うほどの凄まじい光を石が放った。
腕で目を覆い、顔を背ける。
その光からは熱量すら感じた。あるいは体を押されるような圧力すらも。
十秒か、二十秒か。
音の収束と共に光もおさまった。
腕を降ろして視線を戻す。
再び両手を広げた大賢者。
その前に青白い剣身を持つ美しい直剣が浮いていた。
<(MYTHIC)世界断ちの剣>。
1周目ではそのアイテムが俺たちそれぞれの冒険用鞄に入り、それを用いて世界蝕を終わらせるムービーが俺たちそれぞれの画面に流れた。
ここではもちろん違う。
この世界の一年と二十二万の人間の想いの結実である剣を指さす。
「それがありゃ現実世界での世界蝕を止められるのか?」
「そうですね。可能性は五分五分といったところです」
「ハァ!? 100%じゃねえのかよ!?」
「正直言えばこれでも私の想定よりは高いのですよ。皆さんが追加の試練までクリアしてくれたので精度の高い剣を現出することができましたので」
大賢者が嬉しそうに目を細め、俺たちの前にシステムメッセージを出す。
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【ワールド・リザルト】
・十二の試練をクリアする。+30%
・灰谷都羽の正体を看破する。+8%
・ヴィブティのサポートを受ける。-5%
・ヴィブティの正体を看破する。+2%
・現実で起きていることを看破する。+8%
・田神大悟の蟲を排除する。+8%
・世界時間圧縮を見破る。+1%
・命がけの嘘を見破る。+1%
『世界断ち成功率53%』
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「こ、これだけ頑張って53%なんですか」
メッセージを見ながらミューがうめく。
大賢者は目を伏せ、首を振った。
「世界と世界の接続を断ち切るのはそれだけ困難なことなのです。確実に止められるなどということはありえません」
「もし誰もこの世界をクリアできなかったらどうなってたんです?」
「その時は剣自体を現出できなかったのでどうしようもなかったですね」
あっけらかんと告げる大賢者。
眉根を寄せて顔を見合わせるミューと俺、それとレンカ。
そこで苦し気なうめき声が耳に届いた。
「そ、その剣をボクに貸してくれ……」
目を向ける。田神大悟が〔始原竜〕の亡き骸に背を預けたまま大賢者に右手を伸ばしている。
「ボ、ボクの残りの命をすべて魔力に変換して注ぎこむ。それなら成功確率を上げられるはずだ」
「……この世界の創造主である貴方がそうするのなら『成功率は悪くない』くらいにはなるでしょうね。+25%といったところでしょうか」
大賢者が苦虫を噛み潰したような顔で答えた。
それを見て田神大悟は喉を鳴らして笑った。
「ボ、ボクがこういう申し出をするところまで貴方の計算通りか、大賢者ユリアーネよ」
「ええ」
「ど、どうせもう一瞬で死ぬはずの命だ。気に病むことはない。……彼女に代わってくれるか?」
大賢者の姿が灰谷都羽――金髪の黒スーツ姿に変わる。
悲哀を隠さぬかつての右腕を見て、田神大悟はふっと笑った。
「い、色々世話をかけたね、灰谷くん」
「手のかかる子ほどかわいいものです。……私はあなたのことも救ってあげたかった」
「じゅ、充分だよ。本懐は遂げた。君の助力のおかげだ。本当にありがとう」
田神大悟は灰谷都羽に深々と頭を下げ、ついで俺たちにも同じようにした。
「すまない。何をどう謝ればいいか分からないが――」
蟲に支配されていた頃のこの男は世界蝕で元いた世界がどうなろうと構わないと思っていた。
だが本来はこういう男なのだ。性格は悪いが、悪人ではない。
「許すよ。俺はな。謝る奴には優しいんだ」
俺の言葉に同調するようにレンカとミューが頷く。
それを見て、田神大悟はふっと笑った。
「ヨ、ヨシヤくん、君のことは同類だと思ってたが、あ、あれは間違いだったね」
「そりゃそうだ。つーか、こっちこそ裏切られた気分だぜ。冤罪体質仲間だと思ってたのにアンタ違ったじゃねえか」
「くくく……ど、どうやらそうだったらしい。すまないね」
田神大悟は不可視のコンソールを叩くように指を動かした。
「ボ、ボクの無敵属性を解除した。て、手間をかけてすまないがヨシヤくん、その剣でボクを刺してくれ」
部下上司の関係での以心伝心なのか、灰谷都羽の元から俺の手元に世界断ちの剣が送られてきていた。
スルーするわけにもいかないので両手で柄を掴んで受け止める。ずっしりと重い。
「……アンタやっぱ性格悪ぃな。他に方法ねえのかよ」
「な、ないよ。別にいいだろう? じ、実際君は一度ボクを殺したことがあるんだ。ここはひとつ、あの時のノリで頼むよ」
MMORPGだった時にぶっ殺したのを根に持っていたらしい。きっちり仕返ししてきた癖に。
介錯のようなものだろうが人の命を断ち切ることに抵抗がないわけではない。が本人の頼みならば仕方がない。
大きく深呼吸をして割り切り、剣を水平に構える。
「楽しかったぜ。アンタのゲーム」
「なによりだ」
田神大悟は最後にニカッと白い歯を見せて笑った。
相変わらず子供じみたところがある男だった。
踏み込み、体重を込めて剣を突きだす。しかしそんな必要はなかった。
まるで手ごたえがないのに剣は確かに男を貫いた。
田神の体は青白い光の集合に変わると剣の刀身に吸い込まれていき、そこに宿った。
「見事な、最後の魔術でした」
目を伏せたまま灰谷都羽がそうつぶやいたのが耳に残った。
☆
「さて、あと少し時間がありますので、私が田神社長に代わって“大賢者への請願”を行いましょうか」
「え、マジかよ」
「もっとも私の魔力は先ほどその剣に注ぎこんでほぼ空なので、できることは限られますが――」
再び大賢者の姿に戻りながら話す女の視線はレンカに向けられていた。例えば向こうへ連れていかれた者を連れ戻す、などは不可能なのだとその視線は告げていた。
俺たちは三人揃って沈黙する。
1周目では俺とゾンとレンカの三人は結局何の願いも叶えてもらわなかった。あれはサービス終了を二週間後に控えたゲーム内での出来事だからだ。できることは限られるというが、少なくとも今の方が選択肢は多いだろう。
一つだけ、願いを思いついた。
「例えば、例えばだけどよ。俺もあっちの世界に行きたいと願ったら可能なのか?」
「可能です。私はこれからこの蝕を利用してあちらの世界へ帰還しますのでそれに同行すればいいだけです」
「へぇ。うぉっ!」
急にミューが腕にしがみついてきた。そのまま唾を飛ばすくらいの激しい剣幕でまくし立ててくる。
「嘘でしょヨシヤさん! あっちに行ったらたぶん二度と帰ってこれませんよ!? 行くわけないですよね!?」
「うるせーバッカ、ちょっと訊いてみただけだっつーの」
ミューの額にデコピンをして引きはがす。
レンカはレンカでなんとも形容しがたい目で俺を見てたが、明らかに好意的なものではなかった。気まずいので話を逸らす。
「大賢者――つーか灰谷都羽さんよぉ。オフ会の時にアンタが言ってた『この地に残れるかどうかは仕事次第』って、仕事が上手くいかなきゃ帰れないって意味かよ」
「ええ、そうです。蝕を魔族に押さえられたら通るのは難しいですからね。嘘はついていないでしょう?」
ニヤニヤしている大賢者。
こいつ、あの時もだいぶ楽しそうにニヤニヤしてたがそういうわけか。
「えーっと、それじゃあ、あたしは」
ミューが手招きをして大賢者を呼び寄せ、何かを耳打ちする。
「それなら、ええ、容易いことです」
大賢者は何やらほくそ笑むとミューに耳打ちを返した。
それを聞いたミューもほくそ笑む。
なんか嫌な予感がした。
「つぎ、私」
レンカが手を上げ、俺を指差してくる。
「ヨシヤを白に戻してあげて」
「それもお安い御用です」
大賢者が俺の頭上のネームプレートを指さす。瞬きする間にその色が黒から白に戻り、同時になぜか賞金首の証である赤いオーラも消えた。
実に半年ぶりに漂白されたネームプレートをポカンと見上げる。
「レンカ……ひょっとして、お前のせいで俺が黒になったの気にしてたのか?」
「違う。私はただ、ヨシヤが黒のままこの世界を終えるのが許せなかっただけ」
レンカは俺の白いネームプレートを見つめて満足げだった。
よー分からん。
「ヨシヤさん、貴方の願いは?」
一年ぶりの二度目の問い。
何も思いつかなかったわけではない。が、出てきた返事はそれらとは無関係なものだった。
「俺は、いいや」
「そうですか」
俺の歯切れの悪さに思うところはありそうだったが、大賢者は何も聞かずに最後の男を見た。
「ゾンさんにはこちらで勝手に付与しておきましょう」
大賢者は倒れたままのゾンの額に指で触れた。青白い光がその指からゾンの体へ吸い込まれていく。
何をしたんだか分からんが、大賢者は満足そうに立ち上がり、頭上に広がる蝕の大穴を指さした。
「それでは皆さん、代表者一名を選んでください。今からその方を魔力の海へとお連れします。そこでその剣を振るって世界蝕を断ち切ってください」
「俺たちがやんのかよ!」
「もちろんです。ゲームの時もムービーではそうだったでしょう? <(MYTHIC)世界断ちの剣>は困難に立ち向かった当事者のみが振るえる剣。ですので私には無理ですよ」
ニヤリと笑う大賢者。ああ、こいつやっぱ社長に負けず劣らず意地が悪い。
嘆息をして頭を掻き、女二人に提案する。
「しゃーねえ、じゃんけんで決めるか」
「いや、多数決で決めよ」
「そうですね」
レンカとミューは視線を交差させると阿吽の呼吸でスッと俺を指さしてきた。
「おいオメーら!」
「民主的」
「そうですよ。二対一なんだから決定ですよ」
「くそっ……」
分が悪い。駄々をこねても通りそうにない。こういう責任重大な案件はゾンに押し付けたかったが、残念ながら今も気持ちよくお昼寝中だ。
横ですやすやしているゾンを見下ろし、ふと思う。
まさかコイツ、ここまで全部読み切った上で、これを俺に押し付けるために最後気絶したんじゃあるまいな。
「……マジで俺がやるのか」
失敗すれば俺たちの世界はめちゃくちゃになる。大勢の人が死ぬ。一人、二人の命を抱えていたこの世界とはスケールが違う。本当に、一つの世界の命運がかかっている。
それを自覚してしまうと、柄にもなく剣を持つ手が震えてきた。
そこにレンカが両手を重ねてくる。
「ヨシヤはやっぱり、世界に秩序をもたらす選ばれた存在だったんだよ」
「テメーがいま自分で選んだんだろうが」
「そうだよ。私が選んだ、私の救世主。ヨシヤは昔からずっとそう」
レンカの手に力が入る。熱のこもった眼差しで俺をまっすぐに見つめてくる。
その視線から、その手から、熱が俺に伝播する。
「ヨシヤなら絶対大丈夫。私は信じてる」
「……そうかよ」
震えは止まった。
今更気づく。誰にも信じてもらえなかった冤罪体質の俺の人生の中で、一番最初に、一番まっすぐに、一番強く俺を信じてくれたのはコイツだったのかもしれない。
その信じ方自体には文句をつけたくあるものの、気持ちは嬉しい。気恥ずかしさで目を逸らしてしまうほどに。
長い長い一秒の終わりが近づいてきた。
「さぁ、この世界の世界蝕の時です」
大賢者が伸ばしてきた白い手。
それを握ると俺の体はふわりと浮かび始めた。
導かれるまま空を進み、向かう。
まだ蝕の大穴の残る天の頂へ。
大賢者はヴィブティの姿に戻り、振り返る。
「さようならレンカさん、ゾンさん! ……さようなら、ミューちゃん! みんなとの冒険、楽しかったコン!」
「あたしも! あたしも楽しかったよ! 元気でね、ヴィーちゃん!」
ミューが涙声で叫び、全身を使って大きく手を振る。
ヴィブティは目端に涙を浮かべながらにっこりと笑って手を振り返し、また大賢者の姿に戻った。
最終フロア“世界接触予想点”が遠ざかっていく。
俺を見つめるレンカの眼差しが、俺を信じて託してくれたゾンの姿が遠ざかる。
遠く、遠く。
それでも最後のミューの叫び声はしっかり届いた。
「帰ってきてくださいよヨシヤさん! 絶対に! あたし、待ってますから!」
一瞬だけ返事に迷った。
だからそれが言葉になる前に視界が暗闇に閉ざされた。
いつものようにローディングに入ったわけではない。
この仮想世界の外に出たのだと俺は直感的に理解した。
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・Tips
【世界断ちの剣】
真なる魔王を討伐するために始祖勇者が振るったとされる剣。
別名“分かつ剣”。
その本質は希望であり、
可能性の死に抗う、ただ一つの手段である。
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【あとがき】
読者の皆様こんにちは。作者のティエルです。
『イクリプス・オンライン』をお読みいただき、まことにありがとうございます。
また更新が死ぬほど遅れて申し訳ありません。
あと少し、本当にあと少しです。
死ぬ気で頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。
2026/02/23 作者ティエル
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