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インターミッション ~女子高生との雑談~

 ダンジョン{宝石鉱山}の5つ目のチャンネルでキリングゴーレムを狩り終え、転移門(ゲート)へと戻る合間のこと。薄暗い坑道を並んで歩きながら俺はミューと色々雑談していたが、その中でふと彼女に()われた。


「そうだヨシヤさん! せっかくだし、この世界で生き残るのに必要なアレコレをレクチャーしてくださいよ!」


「まぁ……いいけど」


 ということで、まずはこの世界の元となったと思われるMMORPG――イクリプス・オンラインの導入部について軽く。


 ゲームの参加者は現実世界から{十二の月が巡る大地オー・ダン・イリュアド}と呼ばれる異世界へ転移してしまった訪問者(プレイヤー)という存在である。訪問者(プレイヤー)はオープニングで大賢者なる女性に会うのだが、彼女は元の世界へ帰還する(すべ)を教える条件として十二の試練を提示する。


「要するに十二個のダンジョンをクリアするのが目的のゲームなわけだ」


「十二個。多いような、少ないような」


「実際に行くことになるダンジョンはもっと多いぞ。あくまで必ずクリアしなきゃいけないのが十二個ってだけだ。例えば俺たちが会った{人狼(ウェアウルフ)の密林}は試練のダンジョンじゃねーけど、第二の試練で役立つアイテムが手に入るからだいたいの奴は行くことになるし、この{宝石鉱山}も中盤以降はよく来ることになる。そういう試練以外のところは“寄り道ダンジョン”って呼ばれてた。

 街の図書館行けばオープニングムービー見れるはずだから、一度は行っとけ。本当は初回ログイン時に流れるんだけど、この世界に取り込まれたときには流れなかったな」


「はぁ。分かりました」


 ミューはメモを取るような感じで自分の左の手のひらに右手の人差し指を走らせる。それで覚えられるものなのだろうか?


「あの、これも街の人が噂してたんですけど……このゲームをクリア、つまりラストダンジョンをクリアすれば元の世界へ帰れるとかなんとか。ヨシヤさんどう思います?」


「それはそうなんじゃねーの? 最初のシステムメッセージでも『賢者の試練を乗り越えし冒険者に望みの報酬を』って言ってたしな。望みのってのがホントなら元の世界への帰還も含まれるだろ」


「や、やっぱりそうですか。それ以外で帰る方法あると思います?」


「わかんね。そもそもどうやってこの世界ができたのかも、俺たちがどうして取り込まれたのかもわかんねーしな。一人でもクリア者が出たら全員帰れるかもしれねーし、俺たちが恐れてる“キャラロスト”こそが帰還の方法って可能性もないとは言えねえ。

 ただ俺はその辺に賭ける気にはなれねーな。どのみち攻略して強くならなきゃPK(プレイヤーキル)される危険性がバンバン上がっていくんだし」


「そうですよねぇ……」


「参考までに言っとくと、イクオンのラストダンジョン{天空神殿}が最初にクリアされたのはサービス開始から丸四年以上後だ。この世界だとすべてのダンジョンが最初から実装されてるみたいだが、前から順番に攻略していかないといけないのは変わんねーからな。……ま、二年はかかると見たほうがいいだろう」


「嫌ぁああああああああああ!!!!!!!! こんなとこに二年もいたくないいいいいいいい!!!!!!」


 頭を抱えて絶叫するミュー。

 気持ちは分からんでもない。だが『命がけではない』という確証さえあれば俺はむしろこの世界にずっといたい。


 ミューは一頻(ひとしき)り叫んだあと、胸を押さえて荒い呼吸を繰り返した。それから両手で握りこぶしを作り、キッと目に力を込めて俺の方にずいっとにじり寄ってきた。


「ヨシヤさん! もっと! もっとこのゲームのこと教えてください!」


「お、おう、いいぜ」


 なんだろう。最初はオドオドしてたり他力本願だったりで貧弱そうに見えたが、案外たくましい少女なのかもしれない。

 ともかく好きなゲームの話をするのを嫌がる奴はいない。俺は()われるまま、講義を続けた。MMORPG全般に共通する基本知識、イクオンのシステム、テクニック、サービス終了までの四年間の歴史……話すことはいくらでもあった。


「そういやさっき話に出たけど、<罪貨(カルマ)>な。あれ、どんくらい持ってるか見た目で分かるぞ」


「え、そうなんですか!?」


「頭の上よく見てみ」


「あ、これかぁ!」


 ミューは自分のネームプレートの横にコインマークがあることに気づくと、すぐさまそこへ手を伸ばした。が、もちろん触れず、すり抜ける。

 それから俺のネームプレートを見て、ごくりと息を飲んだ。


「ヨシヤさん、ホントに<罪貨(カルマ)>持ってないんですね」


「残念ながらな。ちなみに最初の街であるアランダシルだと<罪貨(カルマ)>の入手手段が限られてるから、十分な量を用意できないのが普通だ。要するに死とキャラクターロストの距離が近い。大事にしろよ、その一枚」


「は、はい。次の街へ行けばマシになるんですか?」


「だいぶな。慎重に行動すりゃほぼロストしないくらいにはなる。ただそれでも月に一度くらいは誰だかがロストした、みたいな噂は耳に入ったな」


「ヨシヤさんはロストしたことないんですか?」


「ない」


「させたことは?」


「……あるけど、全部相手から襲ってきたケースだから」


 ミューは苦虫を噛み潰したような顔を一瞬したが、聞かなかったことにしてくれたらしい。俺の頭上のネームプレート――正確には本来コインのマークがついてるはずのあたりを凝視しながら、しばらく考えこんだ。


(ひらめ)きました! このゲームには必勝法がありますよ、ヨシヤさん!」


「ほう?」


「いやまー、必勝法っていうか絶対にPKされない方法なんですけど」


「言ってみ?」


 ミューは腕組みをして胸を張る。禁欲的な修道服であるが、そういうポーズをされると割と発育がいい胸が強調されてよろしくない。

 俺は見ない。鉄の意思で見ない。得意げなミューの顔から視線をそらさない。


「いいですか、ヨシヤさん。プレイヤーキラーがPKするのは強奪(ルート)するためですよね? だったらアイテムを何も持ってなければいいんです! メリットがないことをする人はいない理論!」


「はーん? 賢いじゃねえか。そういうの自力で(ひらめ)けるのは素直にすげえと思うよ。けど残念だが、イクオンはそんな甘くねえんだ」


「……ダメなんです?」


「第一にPKすると相手から一定割合の経験値を奪えるから、それだけでもやる理由になる。第二に自分が何も持っていないとプレイヤーキラーに証明する方法がない。

 そんで第三だが、プレイヤーキラーの中にはPKという行為自体が好きでやってたやつらがけっこういる。メリットとか関係なしにな。だからどんな方法使ったところで襲われる危険性はなくならねえよ。この世界も二十万以上の人間がいるんだし、愉快犯でPKしてるやつもすでに何人かはいるかもな」


「そ、そうですかね?」


「“命がけの世界である”ってのはあくまで最悪の想定でしかねーからな。“ただのゲームの延長”と捉えてるやつならやっててもおかしかないんじゃねえかな。

 あ、PKするメリットもう一つあったわ。イクオンにはPKした回数に応じて攻撃力が上昇する剣とか、PKを推奨する要素がいくつもある」


「このゲーム作った人、性格悪すぎません!?」


「それは否定せんけど。……作った人と言えばだが」


 まだ話していないことがあるのに、ふと気づく。


「ミューはRPGやったことあんのか?」


「ありますよ! お姉ちゃんが割とオタクだったから、けっこうやってますよ!」


「ほーん。……例えばどういったのを?」


「ん-と。そうですね」


 ミューが指折りしながら挙げたのは誰もが知ってる国民的RPGなんかが多かったが、コアなゲーマー向けのものも混じっていた。意外である。


「んじゃ『イモータルリング』ってアクションRPG知ってるか?」


「知ってますよ! 有名な死にゲーですよね! あたしはやったことないけど、お姉ちゃんがやってるの見たことあります!」


「ほう、なかなかセンスのあるお姉ちゃんじゃねえか。なーるほど、マニアックなもんやってるのはその姉ちゃんの影響か。

 イモリン三部作はイクリプス・オンラインのプロデューサー兼GM(ゲームマスター)の田神大悟(だいご)ってクリエイターの出世作なんだよ。まぁ3は最後までは関わってねえんだが」


「はえー。なるほど。たしかにアレと雰囲気似てるような」


 ミューは感心した様子で坑道を見渡す。


「背景世界は別もんだけどな。この暗くて殺伐としてる雰囲気は共通だよな。世界観の作りこみとシビアなゲームバランスに定評があるクリエイターなんだが、これが俺は好きでなぁ……」


「ファンなんですね、その人の」


「まーな」


「……このゲーム作った人、性格悪すぎとか言ってすみません」


「いや、実際性格悪い気がするし、それはいいんだけどよ」


 田神大悟(だいご)についてはこの世界絡みで色々と思うところはあるが、そこは黙っておく。この少女に話すようなことじゃないし、そもそも話したところで(せん)無いことだ。


「田神はな。ストーリーやシステムについてあまりにも説明不足だったり、理不尽や不親切も高難度の一部とはき違えてたりクリエイターとして欠点も多い奴なんだが、代わりに唯一無二のセンスを持ってんだよ。だから作るゲームは『ここは直せよ!』ってクソみたいな部分と『最高!』って部分が同居してて、トータルでは120点って感じ」


「へー。昔のゲームってそういうの多いですよね。作った人のセンスがモロに出るようなやつ」


「むか……し? ……まぁ無印イモリンはプレステ3だからな。昔っちゃ昔か」


「いいですよねぇ、レトロゲー」


「レトロゲー……? プレステ3がレト……ロ……?」


 絶句した俺に対して、無邪気に首を傾げるミュー。

 無印イモリン発売時のこの少女の年齢を計算し、胸を押さえる。心臓がキュッと収縮する音がした。


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・Tips

強奪(ルート)

蘇生待ち状態のプレイヤーからアイテムやゴールドを奪う行為。

非犯罪者に行う場合は中程度の罪状となるが、犯罪者に行う分には不問とされる。


奪うアイテムは対象の全所持品から選択できるが、高レアリティの物ほど成功までの待機時間が長くなる。

待機時間中に他からの攻撃を受けると強奪(ルート)は失敗となるため注意が必要である。

複数人が同一対象に同時に強奪(ルート)することは可能である。


なお、この待機時間は盗賊系(シーフ・クラスタ)のジョブで習得可能な【強奪(ルート)】スキルを成長させることで短縮できる。

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― 新着の感想 ―
>暗くて殺伐としてる雰囲気 あまりにもオー・ダン・イリュアドに似つかわしくない形容で笑っちゃうけどここまでの五話だけ見れば確かに殺伐
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