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第三十五話 最終ダンジョン突入(対策なしとは言っていない)

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 20XX/12/31

 [システムメッセージ]:『501/225109』

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 終末の日の朝7時。予告どおり、最後の生存者501名は同時にラストダンジョン{天空神殿}へと転送された。

 読み込み時間に当たる真っ暗な空間。いつものようにムービーのような映像が目の前で展開される。この世界が大詰めを迎えているように、作中ストーリーもまたクライマックスを迎えていた。



 魔法王国(マナオラ)の大賢者ユリアーネ・アシェク。

 この物語のキーパーソンが訪問者(プレイヤー)に語り掛ける。


『魔族は総力を挙げて天空神殿へ突入しました』


『神殿の最奥に眠る“世界接触予想点”。これを確保し世界蝕(ワールド・イクリプス)を永続化するために』


『二つの世界の重なりが永遠となればすべてのバランスは崩壊し、大いなる破局が訪れます』


『お願いします、訪問者(プレイヤー)よ。どうか最後の試練を乗り越えてください。それこそが二つの世界を()かつ、ただ一つの(やいば)となるのです――』





    ☆





 気づいたとき、俺は長い回廊のただなかに一人で立っていた。

 回廊の幅は5メートルほど。右手には幾何学(きかがく)模様に光が走る金属製の壁が前後に伸びており、左手には青い空がどこまでも広がっている。

 左手へ歩く。回廊の端には手すりなどなく、直接空へとつながっている。高度は不明だが、下方に白い雲海が見えるので普通に考えれば酸素や気温を気にしなくてはならない高さなのだろう。が、もちろんこの世界では活動に支障はない。雲の切れ間からは広大な海と大きな半島――巨人半島(ジャイアント・アーチ)が垣間見えた。その南端に位置する魔法王国(マナオラ)の姿も。


 この{天空神殿}は俺たちが冒険してきたあの国の遥か上空に存在する超古代文明の遺跡。ダンジョンの仕様としては、前半最大の山場だった第四の試練{青の同盟の地下迷宮}とよく似ている。

 チャンネルは一つ。内部構造はすべて自動生成(ランダム)。開始位置がプレイヤーごとに変化する上にメッセージ機能も禁止されるので、パーティを組むには内部で偶然出会うほかない。

 もちろん第四の試練と同じ対策は効く。今回も共同攻略の賛同者たちには俺が【ペーパークラフト】で作ったハンドバンド――同一製作者の物に反応して発光するあのアイテムがゾンやレンカの手によって渡されている。


 さっそく手首に巻いた紙を確認するが、どの方角にも光っていない。

 しかし俺は迷いなく、ある方向に向かって歩き出した。


 MMORPGだった1周目にここにたどり着いたのはサービス開始の四年後。それが結局一年でここまで来た。感慨深いが、のんびりはしていられない。

 世界閉鎖まで残り17時間。そのすべてを消費してもボス部屋までたどり着けるか分からないほど、このダンジョンは道中も難しいのだ。


 人狼(ウェアウルフ)

 邪眼鬼(ゴルゴン)

 吸血鬼(ヴァンパイア)

 悪魔(ディアブロ)

 不死騎(デュラハン)

 歌人(セイレネス)

 竜人(ヴィーヴル)


 魔族が総力を挙げているという大賢者の言葉どおり、この{天空神殿}にはこれまで登場した魔族七門のすべてが出現する。そのどれもが強敵であり、とても一人では相手できない。立体感のある迷路のような複雑な構造の中を逃げ回りながら目的地(・・・)を目指す。

 その途上、進行方向から男の絶叫が耳に届いた。初期位置と同じように左手に空が見える回廊でのことである。


「だ、誰かぁ! 助けてくれぇ!」


 誰だか思い出せんが、なんか聞き覚えがある声だった。ハンドバンドを確認するが発光はしてない。とすると黒の可能性が高いのだが、見に行かないのもなと一応走る。

 少し先に曲がり角があり、そこから一人の男が駆けて出てきた。戦士系(ファイター・クラスタ)の黒ネである。

 男は必死の形相で後方をしきりに気にしながら走ってきたが、前方に俺が立ってるのを見て瞳を輝かせて足を止めた。

 が、相手が誰だか分かった瞬間、悲鳴を上げた。


「げぇ! ヨシヤァ!?」


「……いや、マジでビックリだわ。まだ生きてたのかよ、お前」


 奇妙な縁を感じる。俺の前で立ち止まったのはこの世界で最初にPVP(対人戦)をした二人組の片割れ、ギルだった。


「も、もうお前でもいい! 助けてくれよ! ……うわっ!」


 突如ギルが体を硬直させてその場に倒れ、ぱったりと動かなくなった。死んだのではない。麻痺したのだ。

 ギルの奥へ目をやると、床の上を滑るように迫りくる身の丈三メートルはある女の姿が見えた。かつて{青の同盟の地下迷宮}で俺やレンカを苦しめた怪物〔狂える邪眼鬼(ゴルゴン)モルディベート〕――遠距離の『麻痺毒』と近距離の『罪貨(カルマ)浄化』――二種類の魔眼を持つあのレアモンスターだ。

 このラストダンジョンにアイツも出るのは知ってたのでその点は驚いてなかった。しかし、ホント奇妙な縁だ。


「さーて、どうすっかな」


 麻痺毒の蓄積を表すゲージが目の前に出た。モルディベートの黒い瞳がこちらに向いているからだ。しかしかつて喰らった時と比べてその蓄積速度は遥かに遅く十分に猶予(ゆうよ)がある。今は毒耐性を十分に装備に積んでいるからだ。

 このまま回れ右して逃げてもいい。そうすりゃモルディベートはギルの罪貨(カルマ)を浄化する方を優先するだろう。

 が、そうするのはやめた。モルディベートのさらに奥。曲がり角の向こうから元気のいい靴音が聞こえてきたからだ。


「とりあえずアイツ倒してから考えるか。……なぁ、ミュー!」


「はい!」


 角を曲がってミューが駆けてきて、無防備なモルディベートの背中に棘付きメイスをフルスイングをしてクリティカルを入れた。

 モルディベートは即座にそちらに振り向き、ガード不能の掴み攻撃を繰り出す。

 ミューは屈んでそれを(かわ)し、追撃の一撃をモルディベートの腹に決めた。同時に俺が投石器(スリング)でモルディベートの後頭部に石を当てる。

 振り向きざまに恐ろしい熱量の光線を手から放ってくるモルディベート。(かわ)せる速度ではなかったので、腕につけた小盾で普通に受けた。ダメージはもらったが深手ではない。魔力防御が足りているからだ。

 かつて俺たちの心胆(しんたん)(さむ)からしめたコイツのモンスターレベルは90オーバー。しかし今の俺たちなら互角以上に渡り合える。

 ミューと挟撃できた点も(さいわ)いし、殴り倒すのには三分もかからなかった。


「いやー、運がよかったですね、ヨシヤさん。こんなに早く合流できるなんて」


「……そうだな!」


 やけに元気な俺の返事にミューは一瞬怪訝そうな顔をした。その髪についてる花の形の飾り――<(LEGEND)聖母(リース)のお(まも)り>――俺が昨夜渡したあれには『所持者の居場所を製作者に伝える』隠し効果がある。なので合流できたのは運でもなんでもないのだが、その辺を追及される前に俺は背後を振り向いた。


「さて。もう逃げてるかな、とも思ったが」


 ギルは最後に見た時と同じで床に這いつくばったままだった。毒耐性装備がないと回復するのも遅いのだ。

 ミューがギルのそばに歩み寄り、《状態異常回復(リフレッシュ)》を唱えた。

 体の自由を取り戻したギルが上半身を起こす。その前後で腕組みをして見下ろす俺とミュー。

 ギルは俺たちを交互に見やってうめいた。


「お、お前ら、どんだけ強くなったんだ」


「何度かワールドファースト取るくらいにはな。その口ぶりだと俺たちが組んで行動してることは知ってたみてえだな」


 装備品を見る限り、コイツは街の閉鎖に巻き込まれなかったギリギリのラインくらいだろう。つまり現在の生き残りの中では最底辺だ。

 ミューが咳払いをする。

 ビクっと体を震わせギルがそちらを向く。

 ミューはこれまで見たこともないような冷ややかな表情を浮かべていた。


「久しぶりですね、ギルさん。いや、ほんっと久しぶり」


「あ、ああ、久しぶりだな。……へへ」


「今日は(おとり)役の子連れてないんですか?」


 ギルがぎこちない愛想笑いのままフリーズした。

 ミューの視線がギルのネームプレートに向く。質問が変わる。


「どうして黒になったんです?」


「じ、事故だ! やむにやまれぬ事情ってやつでよ」


「へぇ、そりゃお前らに先制攻撃されそうになった時の俺みたいな感じか?」


 横から口を挟むとギルはぶんぶんと首を左右に振った。しかしろくな言い訳も思いつかないらしい。代わりに両手を合わせて懇願してくる。


「た、頼む! ボス部屋の前まで一緒に行ってくれよ! こんなところに一人でいたらいくつ命があっても足りやしねえ!」


「お前みたいなん連れていっても俺たちにゃ何の得もねえんだが」


「それこそ(おとり)にするくらいしかないですよね」


 ミューの辛辣な言葉に震えあがるギル。コイツに恨みがあるのはミューの方なので俺はもう任せることにした。

 ミューはしばし空を眺めて考えるそぶりを見せたが、やがてにっこり笑顔を作ってギルをまた見下ろした。


「今からする質問に正直に答えたら助けてあげます。……{人狼(ウェアウルフ)の密林}に一緒にいったあの時、ホントにあたしのこと(おとり)にする気だったんですか?」


「ち、ちがっ……!」


 ギルは否定しかけたが、ミューが笑みを引っ込めて再び冷ややかな目をしたのを見て答えを変えた。


「い、いや、そうだ、そのつもりでアンタを連れてった……! だがありゃルピ―の方が言いだしたんだ! 俺は乗り気じゃなかった!」


「へぇ?」


「わ、悪かったと思ってる。……な? 正直に話したんだから助けてくれよ!」


「そうですね。分かりました」


 ミューが腕組みを解き、ぽつりとつぶやいた。


「――嘘つき」


 フルスイングされるトゲ付きメイス。

 頭をクリーンヒットされたギルは吹っ飛んでいき、回廊の端から飛び出して空へ落ちていった。ある程度落ちたところで落下死の判定が出ると思うが、そもそもミューに殴られた時点でHPが0になってた気がする。

 これも事前にシステムメッセージで通達されてたが、今日はこのダンジョン内で死ぬと初期位置付近のどこかで蘇生(リスポーン)するらしい。罪貨(カルマ)所持を示すコインマークはついてたのであいつもその辺で蘇生(リスポーン)するだろうが、あの様子だとボス部屋まではとてもたどり着けそうにない。

 どっちしろ、あんなんと一緒に行く気は俺もなかったからいいのだが。


「正直に答えたら助けてやるって話はなんだったんだ?」


「悪かったと思ってるって部分は嘘だったじゃないですか。相方の方が提案したっていう話も。あたしももうそれくらいは見抜けるようになりましたよ」


 すっきりした顔で武器をしまってミューが言う。


「それに正直に答えたら助けるとは言いましたけど、一年前に(おとり)にされかけた分を許すとは言ってませんから」


詐欺(さぎ)みてえなこと言いやがる」


「どっかの悪い大人の影響ですよ。あーあ!」


 ミューはけらけら笑いながら、肘で俺の脇腹を小突いてくる。

 九か月前、ギルドを結成する時に『やるからには俺と組まなかった場合より生存率が上がるようにビシバシ鍛える』とは言った。だが、ここまでたくましくなるとは想定外だ。

 しかし、ま。嬉しい誤算と思っておこう。


「んじゃワールドファースト取りに行くか」


「はいっ!」


 メニュー画面を出し、ミューとパーティを組む。

 ラストダンジョン{天空神殿}。ここを攻略するのにこれ以上の相棒はいないだろう。 


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【ヨシヤ】

LV:75

クラス:[根源呪術師(カアス・グル)]

HP:315

MP:550


筋力:28

知力:69

器用:172

敏捷:45

意志:90

幸運:12


【ペーパークラフトLV15☆】【呪物作成LV11】【園芸LV10】


武器:<(LEGEND)竜鱗の杖>

足:<(SR)音無しの靴+10>

腰:<(SSR)大罪人の黒衣+6>

胴:<(SSR)根源呪術師のローブ+5>

頭:<(SSR)叡智の宝冠+6>

盾:<(N)突起盾(ターゲットシールド)+10>

装飾:<(LEGEND)賢者の石>

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― 新着の感想 ―
無茶苦茶面白いです!最後まで楽しみにしています!
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