第三十二話 すべてを解決するグリッチ(俺発案とは言っていない)
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20XX/12/17
[システムメッセージ]:『3520/225109』
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{邪竜の山嶺}のボス〔竜将スマウグ〕に勝つにはステータス不足だと悟った俺たちは協議の上で一つの結論を出した。とりあえず現状最高効率のレベリングをしながら打開策を考える――という妥協案的な結論である。
そんなわけで俺たちは翌日、一つ前の第十試練{獣の牙城}を訪れていた。一月ほど前にクリアしたこのダンジョンは密林の奥深くにそびえたつ堅牢な城塞であり、パーティ上限は五人。なので第十一試練用固定メンツに加えて狐JKのヴィブティも同行していた。
俺たちが腰を据えたのはダンジョンの中ほどにある石造りの小部屋。前方にはスライド式の重厚な金属扉が一つあり、それが開かないようにミューが脇から両手で体重をかけている。レンカとゾンはその扉に向かって武器をひたすら振っており、扉の向こうからは獣の遠吠えや断末魔がひっきりなしに届いている。
俺とヴィブティは扉から離れたところでそれぞれ【ペーパークラフト】と【錬金術】のスキル上げ用トレーニングをしていた。――のだが、前方で行われている奇妙な儀式を無視はできないらしく、そのうちヴィブティがぐつぐつ煮立った錬金窯をかき混ぜる手を止めて俺に囁いてきた。
「ええと、ヨシぽん、みんな何してるコン?」
「通称シュレッダー、半放置系のレベリングだな。必要なのは司祭系のプレイヤー一人と物理で十分な火力出せるやつ。あとは誰でもいい。
あの扉の奥に大量の〔人狼〕が湧くスポットがあるんだが、それをおびき寄せて狩ってんだ。〔人狼〕が司祭系に異常な敵対心を持つのは知ってるだろ?」
「ああ、ミューたんに釣られてこっち来てるってことコンね。いや、それは分かるけど、レンカたんとゾンぽんは何やってるコン? ただ扉殴ってるだけに見えるコン」
「どういうわけか、あの扉はこっち側からだけ物理攻撃が貫通するんだ。まぁただのバグなんだろうけどな」
「敵が扉開けて入ってきたりしないコン?」
「横から全力で閉め続けてる限り、あの扉は絶対に開かねえんだ。閉める奴の筋力に関係なくな。これは仕様通りだと思うが」
「……シュレッダー……なるほどコン」
金属扉を延々と斬り続けるレンカとゾンを見てヴィブティは一つ大きく頷いた。このレベリング方法を開発したのが誰かは知らないが、言いえて妙だとは思う。こんな話をしてる合間にも俺たちにはそれなりの量の経験値が断続的に入っていた。
「これ、経験値効率はいいんだが、モンスターの死体が扉の向こう側に落ちるから金やアイテムを拾いにいけないんだ。火力が低いと放置できる人数も少ないし、あんま人気のある狩場じゃなかった」
「それでも現状なら最高効率コン?」
「八虫みたいにアイテム消費する系ならもう少しマシなのもあるけどな。必要アイテム買い込む時間や手間を考えたらとりあえずここでいいだろって結論になったんだ」
ヴィブティはこの説明で納得したのか、また手を動かし始めた。俺の生産スキルより明らかに手順の多い工程をこなす相手を見ながら頭を下げる。
「なんつーか悪いな。アンタにゃずっと生産スキルのトレーニングばっかさせて」
「や、好きでやってることコン。ヨシぽんが気にすることないコン」
ヴィブティはけらけらと気持ちのいい笑顔を作った。だがその表情に僅かな影があるのを俺は見逃さなかった。
「……どうかしたか?」
「や、このレベリングはうちにはもったいないって思っただけコン。どうせ鍛えるなら他の人の方がいいんじゃないかって思うコン」
「んなことねーよ。アンタのレベルが上がれば、アンタが【錬金術】で作る生産品の質も上がる。そうなりゃ俺たちのプラスになる。ギブアンドテイクさ」
「でも――」
言いよどむヴィブティ。ロールプレイを引っ込めて、隣の俺にだけ聞こえる声量で続ける。
「私はたぶん最後まで生き残れないと思うので」
「え、縁起でもねえこと言うなよ!」
最後というのはこの世界の最後――ということだろう。
ヴィブティの目は真剣だった。
「冗談で言ってるんじゃないんです。卜でもそう出たので」
「そんなオカルト信じるなよ。……ちゃんと俺が――俺たちの誰かがクリアして、“大賢者への請願”で元の世界に帰してやるから。だから生き延びろよ」
柄にもなく励ましてみたが、ヴィブティは力のない笑みを浮かべるだけだった。
この世界の残り人数は僅か3520人。当初の人数の1%に近づきつつある。裏返せば99%に近い人間がすでに消えていた。その中にはコイツの友人だって大勢いたはずだ。
この狐JKはふざけたロールプレイに反して常識人である。こんな状況ではそら憂鬱にもなるだろう。
まだまだまともな神経をしているゾンやレンカ、俺やミューの方がおかしいと言えばおかしい。異常者でなければイクオンのトップランカーは務まらないということだろうが――。
☆
それから役割をローテーションしながらシュレッダーを続けたが、入る経験値の速度的にやはりこれは事態を打開する決定打にはならなそうだった。それを理解しているのか、どいつもこいつも表情が暗い。ついでに言えば〔竜将スマウグ〕を討伐する画期的な方法を思いつけそうな雰囲気のやつもいない。
そして半日ほど後。レンカとゾンが火力役、ヴィブティが扉の押さえ役になった時のこと。
火にかけた大鍋を前に【料理】のスキルトーレニングを行っていたミューが隣にいたのだが、暇すぎるのか手も止めずに話しかけてきた。
「ねぇヨシヤさん、前にヴィーちゃんが魔族のプランを話したの覚えてます? ほら、今リアルを侵攻してる{十二の月が巡る大地}の魔族たちは、けっこう有利にことを運んでいるかも、っていう予測。――あれ、あらためて考えると1個落とし穴がある気がするんですよね」
「ほう」
興味を惹かれ、語るミューへと目を向ける。俺の作業はもはや見ずにできる。
「ヨシヤさん、前にあたしに話してくれましたよね。去年の三月にアキバでやったオフ会で田神大悟がグラスを宙に浮かせてみせたって。それで『今はこれくらいしかできない』って言われたって。
ってことは世界蝕の九か月前に使える魔術の限界はそれくらいってことですよね。
だとすると逆に世界蝕から九か月経った時も、同じようにグラスを浮かせるくらいの魔術しか使えなくなるんじゃないですかね」
「……かもな」
「魔族がこちらの世界で実用的な魔術を使えるのは、蝕の前後数か月。だとしたら魔族は相当厳しいですよね。人数で圧倒的に負けてる上に、もたもたしてたら魔術が使えなくなっちゃうわけですから。……過去二回の蝕での侵攻が失敗したのもひょっとしたら、その辺が敗因なんじゃないかなぁ」
「……ふむ」
それきり俺は口を閉ざした。表情も変えない。
ミューはその反応の言外の意味を察したらしい。それ以上は何も言ってこなかったし、俺からさらなる反応を引き出そうともしなかった。――ネタバレを聞きたくないからだろう。
あっさり話を変えてくる。
「ところでヨシヤさん、今それ何やってるんです?」
「あ? 【呪物作成】だよ。前に説明したろ。宝石に魔力込めてアイテムを作成する呪術系の生産スキル」
「そうではなく。今作ってるそれは?」
「<(R)原罪の果実>。モンスターを捕獲する投擲用アイテムだ。ポケモンでいうとこのモンスターボールだな」
ちょうど一個できたところなのでミューに手渡す。血の色をしたリンゴのような見た目のアイテムだが、<(R)知恵の実>と<(R)真珠>を組み合わせて作るものなので食べ物ではない。
「これ、ヴィーちゃんも作ってませんでしたっけ」
「【呪物作成】と【錬金術】は一部生産品が被ってるからな。ただアイツの方が俺の倍くらい作ってるぞ。要求量は違うからな」
メニュー画面を出して、【錬金術】のスキルトーレニング表のページを開く。
横から首を伸ばしてきたミューが顔をしかめた。
「合計五万個て」
「ヤバいだろ? 素材集めるだけでも苦行だよ。この世界は人数いるからまだマシだが、ゲームだった時は過疎ってたからワールド中の<(R)知恵の実>と<(R)真珠>を買い占めなきゃならなかった。しかも【錬金術】だと1個作るのに丸1分かかる」
「合計5万分……毎日20時間やっても42日……はえー、このトレーニング完遂してるあたりヴィーちゃんってすっごいんですねぇ」
ミューは扉を必死に押さえているヴィブティに尊敬のまなざしを向けてから、手元の<(R)原罪の果実>に視線を落とした。
「で、便利なんですか、これ」
「ぜんぜん。捕獲したモンスターは後で放てるんだが、お前の[死天使]みたいに使役できるわけじゃねえから、特に役に立たねえ。物好きな奴がMPKに使うくらいかな」
「ボスは捕獲できないんです?」
「できない。つーか自分と同レベルくらいのモンスターでも瀕死まで追い込まないと捕獲成功しないから、マジで使い勝手がよくない。すんげーレベル差ある雑魚モンスターなら一撃で捕獲できるけど、そんな奴相手なら普通に倒した方が早いしな」
「まー、使い道あったらヨシヤさんがこれまでのどっかで使ってますよね」
「そういうこと」
〔竜将スマウグ〕の倒し方を思案しているのだろうか。ミューは玉を手の上で弄ぶように転がしていたが表情は真剣そのものだった。
「これ使えばダンジョンのモンスターを別のダンジョンに移動させられますよね」
「ん? できるけどあんま意味ないぞ。モンスター同士は敵対しないしな」
「ということは誰も欲しがらない?」
「一部のコレクターくらいだなぁ、買うのは。だから俺も売れ残り大量に抱えてる。ヴィブティの奴もそうじゃねえかな」
「ほほう」
ミューはきらりと目を輝かせると玉を自分の冒険用鞄にしまい込み、割と発育のいい胸の下で腕組みをした。
あげるつもりで渡したわけではないんだが――なんか前にも似たようなことあったな、これ。
「ヨシヤさん、ちょっと耳貸してくれます?」
「ちゃんと返せよ」
「そういう冗談いいから」
うんざりした顔のミューに耳を強引に掴まれ、囁かれる。
「もしかしたら、なんですけど――」
くすぐったい。ASMRというやつだろう。現役女子高生にこんなことされてもあまり動じなくなったあたり、俺もこの一年でだいぶこの手のことに順応した感がある。
しかしミューが話す内容には平常心ではいられなかった。その全体像が見えてくるにつれ自分の目が見開いていくのが分かった。
「お前、それ――」
「む、無理ですかね、やっぱ」
照れ笑いを浮かべたミューが耳から離れる。
俺はニヤリとほくそ笑みを浮かべずにはいられなかった。
「試してみる価値はあるぜ。今すぐな。……おーい!」
前でシュレッダーをしている三人に声を掛ける。
勝算は高い。というよりほぼいけると俺の勘は告げていた。
☆
三時間後、俺たち四人は第十一の試練{邪竜の山嶺}に舞い戻っていた。ヴィブティを街まで送り届け、いくつかの場所に立ち寄ってテストの準備を整えてからのことである。
場所は1人通るのがやっとの細い通路。自爆してくるモンスター〔魔王信仰者〕が絶え間なく突っ込んでくるあのデススポットだ。攻略の際には通り抜けるのに大変苦労した場所だが、今はまったく様相が違った。
順番待ちをするように通路に列を成した大量の〔動く死体〕。そこに〔魔王信仰者〕が次々と駆けてきて抱き着き、爆発している。先頭の〔動く死体〕が倒れたら、その次の〔動く死体〕に。そんな感じに延々と。
あの〔動く死体〕は俺たちが手分けして序盤のダンジョンで捕獲してきたものだ。もちろん<(R)原罪の果実>を使って、である。それをこの通路の手前で解放して、ミューが[死天使]の能力で支配下に置き、あそこに並ばせた。
これは先に試してみたのだが、使役していないゾンビには〔魔王信仰者〕は自爆しない。ミューに使役されることで初めて敵判定となるからだろう。
〔動く死体〕の列の向こうで爆発が起こるたびに、相当な量の経験値が俺たちに入る。時給はシュレッダーの三倍以上。これなら間に合う。
「やるね、ミューちゃん」
「えらいえらい」
ミューはレンカに抱き着かれた上で頭をガシガシ撫で回され、ゾンとは拳を突き合わせるハンドシェイクをしている。
俺ももちろん感心していた。
「よく思いついたな、ミュー」
「えへへ。実はあたしキリゴー狩りした時からずっと、まだ見つかってない楽なレベリングないかなって探してたんですよ。だから[死天使]になってからもこのレア職の能力を何かに悪用できないかなーって考えてたんです」
「はーん? お前もいっぱしのイクオンプレイヤーっぽくなってきたじゃねえか」
「あたしと組んでよかったでしょ、ヨシヤさん」
「ヘッ、調子に乗りやがって」
レンカに抱き着かれて身動きが取れないミューの額を指で押す。
そこを手で押さえて、ミューは照れ臭そうにはにかんだ。
俺たちが抱えてる<(R)原罪の果実>はざっと70000個。1分で消化される〔動く死体〕はおおよそ七体なので、24時間やり続けても七日は持つ。あとは〔動く死体〕を70000体捕獲してくるのみ。それも手分けをすれば半日で済むだろう。
これなら間に合う。希望は見えた。
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【錬金術】
LV1:魔紙を1000個作る。必要SP1、器用さ+1
LV2:魔紙を2000個作る。必要SP2、器用さ+1
LV3:魔紙を4000個作る。必要SP3、器用さ+2
LV4:魔紙を6000個作る。必要SP4、器用さ+2
LV5:魔紙を12000個作る。必要SP5、器用さ+3
LV6:ゴールドインゴットを100個作る。必要SP8、器用さ+3
LV7:ゴールドインゴットを300個作る。必要SP8、器用さ+3
LV8:ゴールドインゴットを500個作る。必要SP9、器用さ+4
LV9:原罪の果実を10000個作る。必要SP9、器用さ+5
LV10:原罪の果実を40000個作る。必要SP15、器用さ+6
LV11:エリクサーを300個作る。必要SP15、器用さ+7
LV12:鱗殺しの毒玉を20000個作る。必要SP18、器用さ+8
LV13:ゴーレムを5個作る。必要SP18、器用さ+10
LV14:ホムンクルスを3個作る。必要SP20、器用さ+12
LV15:賢者の石を1個作る。必要SP30、器用さ+15
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