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第二十七話 最悪犯罪者の帰還(ブチギレてないとは言っていない)

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 システムメッセージ:『血の謝肉祭 09/05 22:00 ~ 09/06 4:00』

 現時刻 09/05 23:00

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 レンカと別れた後、念のため暗黒街(スラム)の酒場と宿をもう一度覗いたがミューの姿はなかった。他にも『s』から始まる場所をいくつか調べたが、やはり空振り。あの『s』一文字のメッセージはそもそもミューの現在地のヒントですらない可能性もある。一度頭をフラットにして考え直す。

 最悪の一歩手前の可能性を潰しておくべきかもしれない。つまりミューがすでに一度やられてしまった可能性だ。

 イクオンでは死亡後の蘇生待ち時間に生き返らせてもらえない場合、最後に出入りした街の教会に戻される。ミューの場合、第三の街であるイース(・・・)のア―ルディア教会に戻されるのが普通だが、恐らく今は違う。このイベント期間中はこの街――ウルト(・・・)のア―ルディア教会が蘇生(リスポーン)地点のはずだ。そう考えるとミューが送ってきた『s』は『死にました』あるいは『死にそうです』といった感じのメッセージの打ちかけだったのかも、とも思えてきた。


 巨大な機械蜘蛛と大量のモンスターが登場して混迷を極めつつあるウルトの街。それを横目に見つつ、屋根を飛び移りながらひた走り、アールディア教会にたどり着く。脇の細い路地に忍び足で入り、側部の窓から教会の中を覗くと、そこは長椅子の並んだチャペルで大勢の白がひしめきあっていた。街のどこかでやられて転送されてきた連中がそのまま留まっているのだろう。あるいは大勢の白がいるのを見て、安全と考えて寄ってきた連中もいるかもしれない。

 いずれにしても入りづらいし、ミューの姿も探しづらい。

 メニュー画面を出す。新着メッセージはない。メッセージのCTは開けていたのでこちらからも何か送るべきかと考えていると、背後から肩を叩かれて飛び上がった。


「ヨシぽん、よく来てくれたコン!」


「うおおおおおおい! 脅かすなや!」


 振り返るとそこにいたのはヴィブティだった。その顔を見ると、脅かされたことへの怒りよりも喜びが勝った。


「無事だったか! ……いや、無事だったのか? 一度やられて転送されてきたのか?」


「おかげさまでノーデスですコン。うちも黒の標的になってるみたいで襲われまくったけど、どうにか切り抜けられたコン。で、ミューたんがやられたら飛ばされてくると思ってここで待ってたんですけど、まだ来てないですコン」


 ヴィブティは教会の中を指さしたのち、メニュー画面を出した。


「うち、ミューたんにメッセージ送ったけどまだ返信がないコン。ヨシぽんのところにはきたコン?」


「来るには来たんだけどな。これ見てくれ」


 さっき届いた短すぎるメッセ―ジを見せる。

 ヴィブティは顎に手を当て、真剣な表情を浮かべた。


「ミューたんも黒に襲われている。しかも現在進行系かもしれない。……ってことコンね」


「たぶんな。そこらのやつに簡単にやられはしねえだろうが」


 ミューは強くなった。レベルは俺と同じでワールドトップクラスだし、PVP(対人戦)の技量も冒険者Tier表に当てはめるならA+はある。模擬戦でも俺から三本に一本は取れるようになった。そんなことができるやつはこの世界全体でも百人もいない。

 だが数で押されたらどうにもならない。


「ヴィブティ、アンタはここにいてくれ。ある程度安全そうだし、ひょっとしたらミューが来るかもしれねえ。自分の足で来るか蘇生(リスポーン)で来るかは分かんねえが」


「ヨシぽんはどうするコン?」


「もう少し探す」


 街の中心方向からまたすさまじい爆発音が届いた。二人揃ってそちらを向く。たぶん巨大蜘蛛が放ったものだろう。レンカが心配になるが、今は無事を信じるほかない。

 ヴィブティは急にRP(ロールプレイ)の顔を引っ込めて祈るように両手を組んだ。


「気をつけてください、ヨシヤさん」


「おうよ」


 親指を立てるジェスチャーをして背を向ける。

 とりあえずこの少女の無事を知れただけでも来たかいはあった。





    ☆





 白と黒とモンスターが入り乱れ、終わりのない戦いを続ける街。それを横目に建物の屋根や屋上を飛び移りながら走り、あのJKと行ったことのあるスポットを手当たり次第回る。ちょくちょく食事に行った王立ホテル、ヴィブティが泊まっていた表街の宿、メインストリートにあるギルド設立申請所――。


「ミュー、どこだ!」


 時折叫ぶが、返事はない。そもそもこの狂乱だ。声が届く範囲も限られる。それで気づく。


 ミューが窮地に陥っているとして。

 俺に助けを求めているとして。

 はたして声を上げているだろうか。


 ミューはアレでかなり頭が回る。俺にはない発想で妙案を出すこともある。声が通らないこの状況であのJKはどうやって俺に自分の居場所を伝えるか。

 声……音でないのなら、視覚。何か特徴的なものを見えやすい場所に用意するかもしれない。そういや前に俺を探していたと言った時、街の掲示板に書置きを残したと言っていた。それだろうかとも思ったが、また別の閃きがあった。


「『s(エス)』……空……か?」


 夜空を見上げる。先刻ハルハが精霊花火を使って信者の黒を集めた時のことを思い出したのだ。あれはメッセージ機能が制限されるのを想定して事前に取り決めていたのだろう。俺とミューの間にそんな取り決めはないが、お互いがそうだと認識できるものであれば目印にはなる。

 それ(・・)を見たとき俺がミューだと認識できるもの。そして空に飛ばせるもの。このイベントが始まってから見た様々な光景の中で一つ、ほんの僅かだけ違和感を覚えたものを思い出した。俺の転送先であった丘を下り、街に到着してから辺りを見渡した時に視界に入ったものだ。



 空に打ち上げられた《魔導撃(エナジーボルト)》。



 狙いを外したものだと思い込んでいた。PVP(対人戦)の流れ弾であると。

 だが《魔導撃(エナジーボルト)》は低級魔術だ。現段階でこの世界にいるのはこのウルトの街にたどり着いているレベル20以上のプレイヤーだけ。あんな魔術をPVP(対人戦)で使う理由があるやつはいない。

 例外がいるとすれば、キリングゴーレム狩りの時に借りパクした<(R)マジックワンド>で《魔導撃(エナジーボルト)》を打ち放題のJKくらいなもの。


 『できるだけ空に撃ち続けろ』とメッセージを送り、屋根の上を走りだす。皮肉にもあれを見たのは街の真反対のあたりだった。

 再び街を横断し、《魔導撃(エナジーボルト)》を見かけた辺りにたどり着いたのは十分後。あれを見てからもう一時間近くが経っている。まだミューがこの辺にいる保証はない。


「ミュー! いるなら返事しろ!」


 声の限りに叫ぶ。何度も何度も。


 その時、《魔導撃(エナジーボルト)》が空に(のぼ)っていくのが見えた。

 二つ隣の通りから打ち上げられたものだ。


 全速力で屋根をいくつか飛び移り、地上に降りる。

 表通りの明かりも届かない薄暗い袋小路。

 そこにミューはいた。

 地面に這いつくばるように倒れている。頭上には見る間に短くなっていく赤いゲージ。それは蘇生可能な時間が残り十秒足らずであることを示していた。ミューの体は硬直して身動き一つ取れないはずだが、その瞳は確かに俺を捉えていた。

 周囲には四人の黒。そいつらは全員手を伸ばして少女の体に触れていた。

 強奪(ルート)しているのだ。

 その中のリーダー格の男を見て、俺は絶叫した。


「ヤギヌマァ!」


 黒たちが一斉にこちらを向く。ヤギヌマは俺を見るとニタリと笑い、ミューの頭を踏みつけた。

 投石器(スリング)で<(R)傲慢のルビー>を投げつける。

 大爆発が袋小路で巻き起こる。

 黒たちは直前に強奪(ルート)をキャンセルして飛び退()いていた。


 爆発が残した黒煙の中でミューの体がかき消えた。灰になって崩れ落ちたわけではない。つまりロストしたわけではない。

 心底安堵する。本当にギリギリのところで間に合った。


「ギャハハハハ! 遅かったなぁヨシヤ!」


 黒煙が晴れる。ヤギヌマは見覚えのある首飾り(ネックレス)を高々と掲げていた。

 ミューの持っていた装備品だ。<罪貨(カルマ)>ではなくアイテムを狙うあたりにこいつの少女への憎しみが見て取れた。


「ずいぶん手間かけさせられたが、()ってやった。……ああ、()ってやった! 俺をコケにしやがった借りは返した。次はテメェだぜ、ヨシヤ」


 語りながら指をさしてきたヤギヌマは興奮で血走った眼をしていた。

 逆に俺は不思議と冷静になっていた。だからか、やたらと小さいメッセージの着信音にも気づくことができた。

 メニュー画面を開いて確認する。


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 [ヴィブティ]:『ミューたんが転送されてきたので保護しました。アールディア教会のそばにレイドボス来てるので逃げます』

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 返信はできない。打ち返す余裕はないし、そもそもさっきミューに送ってから30分経ってない。

 だが、いい。こうなるとやることはシンプルだ。

 メニュー画面のメッセージ一覧を眺めてから、かぶりを振り、深呼吸をする。先ほどのハルハの策のせいで、俺は一度でも死ねば即ロストという正真正銘命がけの状態だ。だが奇妙なことに恐怖感はまるで湧かなかった。


「イクオンのサービス終了から一年と九か月か。……けっこう経ったよな」


 夜空を見上げ、ぽつりと独り言を漏らす。

 いや、聞かせる相手がいたなと思い出し、黒たちに視線を向ける。


「この世界じゃ大人しくしてたからな。……俺が誰だか忘れたのか? 最悪犯罪者(・・・・・)のヨシヤだぞ」


 俺の啖呵(たんか)に、黒たちがたじろぐ。

 急激な速度であの頃の自分に戻っていくのを感じる。

 現実としか思えないこの世界だが、ゲームであったあの頃と何も変わりはしない。

 黒たちを睨みつけ、あの頃チャットでよく打ったようなことを口にする。


「テメェら全員、ぶっ殺してやる」


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【ヤギヌマ】

LV:54

クラス:[抹殺者(ネゲイター)]

HP:348

MP:235


筋力:35

知力:24

器用:113

敏捷:70

意志:32

幸運:49


【暗器作成LV11】【罠作成LV9】【毒物調合LV8】


武器:<(SR)スタッバーズダガー+9>

足:<(SR)上忍の足袋(たび)+5>

腰:<(SSR)死神の腰布+6>

胴:<(SSR)死神のローブ+6>

頭:<(SSR)死神の眼帯+5>

装飾:<(SR)致命の指輪+8>

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