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第十六話 六対二(六対二とは言っていない)

 それから俺たちは小島から伸びた階段を使って、大河の3メートル上に浮いている白い道の迷路に上がり、地下一層の攻略を再開した。

 思わぬアクシデントで時間をロスしたが、最強プレイヤーの一角であるレンカと合流できたのは大きかった。何度かのモンスターとのエンカウントを危なげなく切り抜け、四時間ほどで下り階段を見つけて地下二層へと降りた。幸か不幸か、その間他のプレイヤーとは会わなかった。


 地下二層は正方形の部屋が縦横に50個ずつ並んだ広大なマップだ。2500の部屋で構成された正方形の階層とも言える。

 ひと部屋の大きさはバスケットコート二面分、つまり30メートル四方くらい。部屋同士がどのように通路でつながっているかや、それぞれの部屋にどのようなものがあるかはランダム生成だが、壁に座標を書いたプレートがある点は共通だ。また、ここ以降は一層では禁じられていた各種メッセージ機能も解禁される。


 二層へ来てすぐにメニュー画面出すと一件の新着があった。タイムスタンプは一時間ほど前。


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 [ミュー]:『二層着きました! まだ誰にも会ってません! 北15の東30あたりにいます!』

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 無事らしい。アイツのビルドは単独行動に向いているので心配はしていなかった。

 レンカは同じようにメッセージを確認していたが、首を伸ばして俺のメニュー画面を覗いてくる。


「誰?」


「あとで紹介する。とりあえずコイツと合流するから、そっちは近場に誰かいても遠慮してくれ」


-------------------------------------------------------------------------------

 [ヨシヤ]:『今着いた。そこそこ近い。北35の東18だ。レンカといる。こっち来てくれ』

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 ま、近いと言ってもミューの座標は一時間前にいたとこなので今はどうだか分からんが。

 返信して顔を上げると、レンカも誰かに返信した後のようだった。この階も下り階段はランダム生成で常に何か所か存在するが、一定時間経過するか1パーティが使用すると別の部屋に再生成される。プレイヤーがいる部屋には湧かない仕様なので歩き回って探す必要があるが、アイツから返信が来るまではここに待機でいいだろう。


 あらためて今いる部屋の中を観察する。壊れた大きな家具が散乱した部屋で、南北に出入口があり、地下一層から降りてくるのに使った階段はすでに消失していた。出入口が少ないのは気がかりだが、隠れるのに適した障害物があるのは悪くない。ミューにはこまめにメッセージを確認するよう言ってあるが、いつ返信が来るかは不明だ。


「ゲームん時もそうだったけどメッセージの着信音クソちいせえよな。なんかしてるとまず気づかないレベル」


「うん。原作再現すごい」


「感心するところか……?」


 天然気味な返答に顔をしかめつつ、レンカと二人、部屋の端で倒れている大きなタンスの裏に腰を下ろす。手首に巻いたハンドバンドは隣にいるレンカの方向しか発光していない。部屋同士を連結する通路は五十メートルほどあるので隣の部屋にいる相手にはギリギリ反応しないだろう。

 二人で携帯食料をムシャムシャやりながらしばし待つ。一度、ワニくらいの大きさのトカゲ型モンスターが部屋を横切って行ったが俺たちには気づかなかった。


「着信音が小さいのは隠れてるときには便利だよな」


「そのために小さいのかも。親切だね」


「音量調節できるようにしてくれた方が親切だと思うが。……いや、待て」


 南の通路を指さして声を出さないようにとジェスチャーをする。使っていた【聞き耳】のスキルで近づいてくる足音を拾ったからだ。ハンドバンドの反応はない。

 音の主たちはすぐに来た。


「このあたりだ」


 やってきたのは三人の男。その全員が黒ネーム(・・・・)だった。

 そのうちの一人、指示を出している奴の顔を見て顔をしかめる。無精ひげを生やしたアラフォーくらいの男――俺を殺したがっているやつ第二位の、あの[ヤギヌマ]だった。

 黒の連中が来てるのは想定内ではある。この二層の四隅には黒専用の転移門(ゲート)があるため、{(あか)い月の夢幻城}の大ホールのようにPKの聖地となっているのだ。おそらくこいつらは俺たちより先にダンジョンに入ってこの二層で合流し、獲物が来るのを待ち構えていたのだろう。

 百人規模の極地法だ。情報が漏れてないとは思っていなかった。


 レンカが俺の袖を引き、部屋のもう一つの出口である北の方を指さす。今なら逃げれる、という意味だろう。

 俺は首を横に振った。そちらからも足音がしたからだ。

 すぐに北の通路からも三人の黒ネの男が現れる。ヤギヌマは後から来た連中にも指示を出す。


「よく探せ」


 アイツも【聞き耳】で俺たちの気配を察知してここへ来たのだろう。まったく運が悪い。部屋の中には他にも隠れられそうな場所がいくつもあるが、六人掛かりで探されては見つかるのも時間の問題だ。

 機を見て、どちらかの出口へ強行突破するしかない。と考えていたところ、俺の耳にごく小さな『ピコン』という音がした。例の着信音である。

 隣にいるレンカですら気づかないレベルの微音。しかし【聞き耳】を使って誰かを探している者の耳には入る。

 ヤギヌマがこちらを向いた。見開いた両目を爛々(らんらん)と輝かせながら。


「まずい!」


 レンカの手を引き、倒れたタンスの影から飛び出す。

 次の瞬間、ヤギヌマの指示で詠唱した魔術師から一メートルはあるデカイ火の玉が飛んできた。


 上級魔術の《火球(ファイアボール)》。


 火の玉は俺たちがいたタンスに直撃し、激しい爆発を巻き起こして辺りを熱風と黒煙で包んだ。直撃すれば俺たちのレベルでも重傷は(まぬが)れない。


「ヒャッハァ! 出てきた出てきた! 久しぶりだなぁ、ヨシヤぁ!」


「よう、ヤギヌマ! 相変わらず頭悪そうな話し方だな!」


 興奮を露わにする仇敵に対し、中指を立てて向ける。

 どうにか回避が間に合ったが、出てきた先は部屋の中央。前に三人、後ろに三人、挟まれている状況での二対六。それも相手は黒ネのトップランナーどもだ。この人数にやられると強奪(ルート)で<罪貨(カルマ)>を根こそぎ奪われ、ロストする危険もある。

 レンカと二人で武器を構え、背中合わせで言葉を交わす。


「どうする? ヨシヤ」


「もちろん全員ぶっ殺す。プランEだ」


 レンカが頷いたのは気配で分かった。使ったのは昔二人きりで冒険してた頃に使っていた符牒(ふちょう)。プランEはこういう数的不利な状況でのセオリー、最初にボスを叩いて他の連中の気勢を削ぐ作戦――ではない。


 投石器(スリング)に装填した石を前方のヤギヌマに放つ──ふりをしてから、くるりと周り、後ろの一人に投げつける。それをもろに喰らった男は体勢を崩した。そこへ電光石火の勢いでレンカが駆け寄り、大上段から斬りつける。カウンターヒットが急所に決まり、そいつは倒れて蘇生待ち状態に入った。

 動揺する後方側の残り二人の間をレンカと共に走り抜け、通路を目指す。

 プランEは逃亡(escape)だ。


「バァカ! それで出し抜いたつもりかぁ!?」


 背後からヤギヌマの愉快でたまらなさそうな声がした。

 行く手、北の通路からさらに二人の黒ネが部屋に入ってくる。俺たちは慌てて足を止めた。強行突破しようとすれば挟撃に合う。

 これで七対二。一人倒したのに形勢はさらに悪くなった。


 北口方向の四人が各々の武器を手に一斉に襲い掛かってくる。槍、剣、斧、刀とその種別は多様だ。魔力を帯びた直剣(ロングソード)を構えてレンカがそれを迎え撃つ。

 俺もそれに加勢しようかと思ったが、その前にほぼ勘で振り返る。

 予感的中、真後ろに黒い短剣(ダガー)を今にも突き出さんとしているヤギヌマの姿があった。


「【ステルス(気配消し)】使って近づいてくんのやめろや! ゴキブリかよ!」


「死ね! ヨシヤ!」


 ヤギヌマの刺突を身を反らしてどうにか(かわ)す。コイツは致命の一撃(クリティカル)に特化した中級職の[暗殺者(アサシン)]だ。隙を見せればすぐこういうことをしてくるのは読めていた。


「ふん。運がいいな」


 意外にもヤギヌマは鼻を鳴らしてバックステップで下がっていった。直情的で行動が読みやすい俺のカモ(・・)のような男だが今日は違う。大幅有利の状況で精神的な余裕があるからだろう。

 ヤギヌマ側の残り二人から《雷撃(サンダーボルト)》が矢継ぎ早に飛んでくる。装備的にどちらも魔術師系(メイジ・クラスタ)だろう。回避行動を取るがすべては(かわ)せない。HPが削られる。同士討ち(フレンドリーファイア)を恐れて先ほどのような広範囲魔術を使ってこないのが救いだが、いざとなれば味方も巻き込んで撃ってくるだろう。

 状況はすこぶる悪い。


 北側ではレンカが四人を相手に激しい剣戟(けんげき)を繰り広げている。回避行動を取りながらそれをチラ見して――ついでに自分のハンドバンドの発光を確認して――口を動かす。


「なぁおい、ブサイク。俺なんかお前に悪いことしたか? 昔っからずっと親の仇みたいに絡んでくっけど、全然身に覚えがねえんだけどな」


「テメェになくてもこっちにはあるんだよ!」


「分かった分かった。俺が悪かった。何が悪かったか分からんが許してくれ。な?」


 両手を合わせてウィンクをする。

 こんな安い挑発でもヤギヌマは簡単に心の平静を失った。


「テメェ……テメェさえいなけりゃオレは……!!」


 肩を震わせ、血走った目を俺に向けてくる。その視線には殺意や憎悪すら感じられる。ただのゲームで買った恨みとは思えない。

 相変わらずコイツが俺を憎む理由は分からない。が、感情的にさせられたのはいいことだ。勝機は見えた。


「しゃーねえ、切り札使うか!」


 部屋の隅まで聞こえるくらい声を張り上げ、冒険用鞄に手を突っ込む。

 俺がどういうビルドかは知っているだろう。ヤギヌマとその横の二人はすぐにでも身を投げ出せるように重心を下げた。

 成功を確信してほくそ笑む。鞄から取り出した物を【投擲】スキルで全力で投げた。


 真上に。


 ヤギヌマたちは虚を突かれた顔でその軌道を目で追った。だから背後から別の物が飛んできていることにはギリギリまで気づかなかった。


 それは赤く輝くルビー。

 ちなみに俺が投げたのはただの石だ。


 ヤギヌマたちのすぐそばでルビーが光を放ち、激しい爆発が再び巻き起こる。【遺物(アーティファクト)作成】をかけたルビーは上級魔術の《火球(ファイアボール)》を発動させるのだ。

 ヤギヌマたちの怒号が黒煙の中から聞こえた。それとその煙の向こう側から走ってくる、あの元気がいい靴音も。


「隙アリィ!!!」


 黒煙の切れ間からそれは見えた。南の入り口から走ってきたミューがトゲ付きメイスでヤギヌマの頭をフルスイングしたのだ。

 同時に俺は石を投げつけて、ヤギヌマ側の魔術師の一人をカウンターヒットで倒した。もう一人の魔術師は《火球(ファイアボール)》がクリーンヒットしたのか、すでに倒れていた。

 振り向けばレンカも北側の一人を仕留めていた。動揺した敵の隙を突いたのだろう。

 ミューは深追いせず、そそくさと俺たちの方に移動してきた。いい判断である。


「ケッケッケ! 俺のことだけ見すぎなんだよ、ヤギヌマァ!」


 こいつらに見つかる寸前に聞こえたメッセージ着信音。それとハンドバンドに出たレンカ以外の者からの反応。それらを総合してミューが南から来てくれてると推理して、ヤギヌマに雑談を振って時間を稼いだのだ。


 黒煙が晴れる。これで戦いは三対四。しかも相手は傷が深い。まだこの階層のどこかに仲間がいるだろうが、すぐに駆けつけられる位置ではないだろう。もう負ける気はしない。


「おいおい、さっきまでの威勢はどうしたヤギヌマくん。追い詰められた顔しちゃって可愛いねえ。またロストさせてやるから、かかって来いよ」


「クソがァ!!」


 ヤギヌマは吼えたが、俺の挑発には乗らなかった。ミューを怒りで震える指でさし、俺に向けるのと同じ殺意に満ちた目で睨みつけた。


「覚えたぞ、テメーの名前。……ぜってぇに忘れねえ」


 ヤギヌマが鞄から取り出した筒を足元に転がす。<(R)発煙筒>だ。筒から白い煙が急激に吹き出し、部屋の半分ほどを覆いつくす。その煙の中から絶叫が届く。


「殺す! お前らは全員オレの手で殺してやる! ……絶対にだッ!」


 無駄と知りつつ声がしたあたりに石を投げたが、手ごたえはなかった。アイツが増援と合流して戻ってくる可能性もある。こちらも追い打ちはできないし、ここに長居もしてられない。

 振り返ると、北側の生き残りの三人も逃げていくところだった。レンカはほぼ無傷でけろっとした顔をしている。この女、ゲームだった頃より強くなってるかもしれない。

 一瞬ヒヤリとはしたが、どうにか切り抜けられた。


「助かったぜ、ミュー。ありがとな」


「ありがとう」


「えへへへ。どういたしまして!」


 俺たち二人の感謝の言葉を受けて、ミューは照れ臭そうに笑った。殺害予告を投げつけられた直後だというのに動じた様子は微塵もない。先ほどの頭への躊躇(ちゅうちょ)のないフルスイングといい、やはりこのJK、案外イクオンの才能があるかもしれない。


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【ヤギヌマ】

LV:37

クラス:[暗殺者(アサシン)

HP:231

MP:165


筋力:27

知力:15

器用:60

敏捷:48

意志:23

幸運:33


【暗器作成LV7】【罠作成LV6】【毒物調合LV6】


武器:<(SR)スタッバーズダガー+5>

足:<(R)忍び足の靴+6>

腰:<(R)バンディットボトムズ+4>

胴:<(SR)暗殺者の革鎧+4>

頭:<(R)黒眼帯+5>

装飾:<(SR)致命の指輪+5>

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五年前に一か月だけ過ごした相手との符牒まだ覚えてるってお互いめっちゃ好きじゃん……
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