インターミッション ~プレイヤーTier表~
「ヨシヤさんって、よくロストしなかったですよね。ゲームだった頃に」
ある日いつもの暗黒街のいつもの酒場で、ふいにミューがそんなことを言ってきた。
お互いそこそこ酒が回って気持ちよくなってきた頃の話である。
「ん?」
「ほら、この間ダンジョンで会ったヤギヌマ? ……さんとか、ハルハさんとか。あれからみんなに聞いてみたんですけど、あの二人もけっこう強いプレイヤーだったって口を揃えて言うんですよ。そういう人たちにずっと狙われてたのに、よくサービス終了まで一度もロストしなかったなって」
「ああ。なんか知らんけど俺はああいう手合いにやたら相性よくてな。PVPの相性って意味だけど」
木製のジョッキから麦酒を喉に流し込みながら、酒場の奥へ目をやる。そちらではあのケモミミ錬金術士のヴィブティが大樽の上で謎のダンスを披露して、酒場の常連たちからおひねりをもらっていた。{紅い月の夢幻城}での一件以来、あのやたらロールプレイの徹底したJKもこの酒場によく顔を出すようになっており、ミューと並んで界隈のちょっとしたアイドルになっていた。
ミューはヴィブティと目が合ったのか、そちらに笑顔で手を振ったのち、俺の方に顔を戻した。
「え。あの白十字のリーダーの人もですか?」
「レンカか。アイツもそうだな。その三人にPVPで負けたことは一度もねえよ」
「一度も!?」
「そう、一度も」
「はえー……やっぱりヨシヤさんって強かったんですね。レンカさんって最強プレイヤーの一角なのに」
「そりゃPVPだけなら全プレイヤーでもだいぶ上だった自信はあるけどよ。ビルドや性格の相性ってもんがあるし、狩りとか攻略とか他にもいろいろ要素があるからな。強い弱いなんてのはそう簡単に言えるもんじゃねえよ」
とはいえ褒められて悪い気はしない。ミューが手にしている空のグラスにワインを注いでやり、記憶を掘り起こす。
「当時、匿名掲示板に『最強プレイヤーTier表』ってのを書いてるやつがいてな。俺はそこでの総合評価はSだった」
「さ、最強じゃないですか」
「一番上はSSなんだよ。総合のほかに対人、狩り、攻略の三部門があってな。俺は攻略と狩りがSで対人だけSS。対人のSSは十人くらいいて、そのほとんどに俺は負け越してたけど、レンカに全勝してるからその辺が評価されたんだろうな。
ゾンとレンカは五人か六人しかいねえ総合SSで、二人しかいない全分野SSだった」
Tier表を書いているのは一説には田神大悟じゃないかとか言われてもいたが、真相は不明である。その格付けについて色々議論はあったが、俺はおおむね妥当な評価だと思っていた。
「ヤギヌマさんとハルハさんは?」
「あいつらは総合Sだったな。対人はヤギヌマがSでハルハがA。確かに強い方ではあるんだが、トップ層からは落ちるな」
奴らとの戦いの日々を思い出す。だいたいは奴らがこの酒場に襲撃しにくるか、ダンジョンで鉢合わせたときに発生する形だったが、危ういと思ったことすらほとんどない。そもそも危うくなれば俺は逃げる。そのためのビルドもしてあった。
「ヨッちゃんは直情型の人の動き読むのが上手かったよね。だから一部の格上にも勝てた」
「あ、ゾンさん!」
俺の背後からニュッと現れたゾンを見て、ミューがワイングラスを掲げて笑顔を作る。
俺は残り半分くらいのワインボトルを直接ゾンに手渡した。
「よう、今日のお仕事は終了か?」
「終了ってことにした。ヨッちゃんたちが譲ってくれた金カピ湧きスポットのおかげで、うちの団員の育成もだいぶ捗ってるよ。ありがとね」
ゾンはワインボトルからラッパ呑みしながら、俺の隣の席につく。最近のコイツは攻略の最前線を走り続けながら、自分のとこの団員育成や初心者向けの攻略本作りまで手掛けるなど大忙しだ。
ミューは給仕のNPCを呼んで追加注文をしてから、テーブルに身を乗り出した。
「ゾンさんとレンカさんだと、どっちが強かったんですか?」
「五分五分ってとこだね。イデオロギーが違うから僕も彼女とけっこう戦ってるけど、明確にどちらが上って感じではなかったな。ビルドの相性的にも五分って感じだし」
「お二人だと?」
ミューは俺とゾンを交互に指さす。
「ゾンとはまぁ3対7くらいで不利だったかな」
「いやー、1対9くらいでしょ。全然負けた記憶ないけど?」
「ああ!? 相性有利ビルドでイキってんじゃねえぞ? 今から地下闘技場行って模擬戦すっか? お!?」
「いいね、久しぶりにやろうか。対人戦の腕がなまってないか心配だったんだ。ちょっとサンドバッグになってもらおう」
「よーし、言ったな? この一杯飲んだら行くからな。首洗っとけよ」
ガンをつけながら、ジョッキの麦酒をぐっと飲み干す――ふりをして、まったく飲まない。
ミューが残念な大人を見るようなジト目を向けてくる。
話を変える。
「そ、そういややっぱ、黒も白もTier表に載ってたような連中がこの世界でもトップを走ってるよな」
「二周目のアドバンテージはやっぱり大きいね。とはいえ、単純な数で言えば一周目の人の方が遥かに多いんだし、その辺がゲームに慣れてきたらどうなるか分からないよ。それこそミューちゃんとか、あそこのヴィブティちゃんとか、新規の有望株もいるんだし」
「えへへ」
照れ顔でゾンの背中をバシバシと叩くミュー。
仲が良さそうでなにより。
「ヨッちゃん、ミューちゃんにPVPで負けたら凄いショック受けそうだね」
「受けねーよ。つーか負けねぇよ。こんな素人に」
「えー、そうかい? そうだミューちゃん、うち主催でPVPのワークショップ定期開催してるから今度遊びにおいでよ」
「あ、ぜひ!」
「ヨッちゃんの癖や弱点なんかも教えてあげるよ。秘密だけどね」
「おい、ぜんぜん秘密になってねーぞ」
ミューが今度は俺の背中をバシバシと叩く。
「もし私に負ける日が来ても泣かないでくださいね、ヨシヤさん」
「泣かねえよ。つーか負けねえよ。まだ全然歯が立たねえのにどっから湧いてくるんだその自信は」
たぶんアルコールの力だろう。この少女は酔うと若干強気になって笑い上戸になり、ついでに人をバシバシ叩く悪癖が出るようになる。本人としては叩いてるつもりはないのだろうけど。
「実際どうなのヨッちゃん。ミューちゃんに模擬戦で稽古つけてやってるんだろう?」
「今は、そうだな。めっちゃ贔屓目に見て対人Dランクってとこだな。Tier表にギリギリ載るレベル」
「それなら十分凄いじゃないか」
「実戦経験が足りねえからな。本番で動けるかどうかは別の話だ」
今のところ本格的なPVPにミューは巻き込まれていない。そうなりそうな場面はあるにはあったが、俺が威嚇して追い払ったり、先手を打って逃亡したりでどうにか切り抜けてきた。しかしこの先もそうできるとは限らない。
俺がそばにいない場面で動けるのか。特にその辺の心配はしてる。
「見どころはあるっちゃあるんだけどな」
なんか二人で世間話を始めたミューとゾンを横目に独り言を漏らす。
ミューとの模擬戦ではまだ一度も負けていない。が、この少女には先の感情的なタイプにはない意外性があり、ごくたまに『危なかったな今の』と思わされるときはある。妙に思い切ったところもあるので、ひょっとすると本番でこそ真価を発揮するタイプかもしれない。
この少女に負けても別に泣きはしない。
泣きはしないが、とりあえずミューの知らないところで俺もコソ練しておこうと心に誓った。
「そうそう、ゾンよ。へへ、いい新ネタがあるぜ」
「ん? なに?」
「紅い月んとこのジェイミルなんだけどよ」
この間ミューたちとワールドファーストを取った時に見つけたグリッチを話す。冒険用鞄を空の状態したやつがジェイミルにトドメを刺して、そいつに【窃盗】をすれば1時間待たずとも《魔蝕蟲》による混乱を解除できるというネタだが。
「ははぁなるほど、デバフアイテムか! 田神大悟が好きそうなやり口だね」
「だろ!? “攻略本”に書いて広めてくれてもいいぜ。【窃盗】必須のネタだから実用性は高くねえだろうが」
「いや? なに言ってるんだいヨッちゃん」
ゾンは驚いた顔はしてたが悔しがってはいなかった。
思ってたのと違う。
「デバフアイテムの押し付けなら対処法は逆でしょ。冒険用鞄に目いっぱいアイテムを詰めた状態でトドメをさせば、行き場がなくなって《魔蝕蟲》自体が消滅するから混乱さえしなくなるよ」
「……あ」
「こっちのやり方なら【窃盗】も要らないから実用性ばっちりだね。いやぁ盲点だったね。ボス戦前に鞄を一杯にしとくなんて普通はやらないからさ。発見されないわけだよ」
ゾンは上機嫌な様子でワインボトルをあおる。
「どんまいですよ!」
真っ赤な顔で満面の笑みを浮かべたミューに強く背中を叩かれた。
完全敗北である。
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・Tips
【食事】
訪問者は食事や水分を摂らなくても死ぬことはない。
飢餓感と口渇を覚え、ステータスが低下するのみである。
逆に美味な料理を口にした場合、各種の強化効果がつく。
高レベルの【料理】スキルで製作した料理は特に効果が高い。
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