記憶喪失とメイド
メイドさんがお辞儀するときにちょっとつまむ場所ってすそでしたっけ?
誰か教えてー
部屋を見渡す
棚の中にトロフィーが飾ってあるのを見つけた
近寄る
『サカミヤ・セイカ 魔術火力部門一位』
見覚えのない自分の名前と称号がそこに書いてあった
「やっぱり、何も思い出せない」
知らないものであふれている自分の部屋だった空間で無力感に襲われ崩れ落ちる。
「やっぱり!!、俺は!!なにも...っ!思い出せない……っ」
涙がポトリと落ち
まるでそれがきっかけというようにダムが決壊するように涙があふれ出てくる
すべて失ってしまったという喪失感が湧き出てくる
なんとなく、わかっていた。
あの病室の中で親しげに話しかけてくる人が誰だかわからない時点で、病院の人が歓声を上げた理由がわからなかった時点で、なんで眠っていたのかわからない時点で、なんとなく察せてしまっていた
だけど、実際に理解してしまうのとでは苦しさが桁違いだ
辛い..つらい
まるで自分が知らない世界にいるようだ
でも……
涙を拭う
ここで立ち止まるわけにはいかない。
僕を知る彼らのためにも『自分』を、記憶を、少しでも思い出さなければいけない。
だから諦めることは俺には許されない
少年はまた部屋を探り始めた
ーなぜ彼がここにいるのだろうか?
少し時間を戻そう
「あなたは、誰?」
俺は、光を出す画面の中にいる人に質問する
本当に誰だ?
『誰か?だって?……おいおい!忘れてしまったのかよ。さすがに3年ちょっとで親忘れるかー?さすがに傷つくぞ?……はっ!?まさか!、お前との縁はもう切ったお前はもう知らない赤の他人だ。みたいな隠喩か?えっ!そんなに嫌われてるの俺!?つらい!!!』
「あっ!いや!違っ……う?」
『え』
「あー!あー!違う!違う!!ちょっ!まって!?そんな落ち込まないで!!なんか黒い!黒いオーラが背中からーッ!?!?!!」
ざわざわと病室内で異様な空気が流れ始める
親と重症だった子の奇跡的な再開
だったはずなのに何かが変わり始めている
「本当に..本当に知らないの?」
恐る恐るとだった
その空気に我慢できなくなり一人の看護婦が俺に聞いてくる
その人はとても結果を知るのが怖いというように不安げで恐れるような青い顔をして聞いてきた
俺はうなずくことしかできなかった。
『本当か?』
画面の中の男性はさっきまでのふざけたふいんきではなく心配そうに確認してきた
だからこういうしかなかった
はい と、
『そうか……そうかー』
「ごめんなさい。」
『いーや、謝る必要はねえさ…………ちッ、プランの変更が必要..か。設定も変更しねえと..いやこれはチャンスか?』
「え?何か言いました?」
最後の方がぼそぼそとして聞こえなかった
『あっ..すまんこっちの話。……そうだ!里帰りしねえか?』
「え?」
『俺は今家にいねえが、お前の部屋の物がまんまそのまま残っている。昔の自分の物品と触れ合うのは記憶の回復に最適だろう?』
「そ、そうですね。」
『よーし決まりだ。すまねえ看護士さんそういうわけだから屋敷への里帰りの準備をしてくれ』
「はい!わかりました!」
「お帰りになされるぞ準備をしろ!」
「記憶喪失だなんて可哀想に」
「ウっ..」
「おい!泣くな本人が一番つらいんだぞ」
お医者さんや看護師が準備を始める
俺はそれを何とも言えない気分で見ていた
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だから今彼はここにいる
そして記憶を取り戻そうと長い間ここにいる
しかし、どれだけ部屋にある物品を、己の過去の爪痕をなぞろうが何も思い出せない
そして、その辛さは次第に
「ああああああああああああああああ!!!」
ガンッ、と本を壁に投げつける音がした
少年が怒りに任せて投げたのだ
そして、頭を抱えてうずくまる
わからない、思い出せない
何度も何度も
何度も何度も何度も何度も何度も何度も
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
見渡し、触り、読んだ
でも思い出せない
魔術?なんだそれは?
魔力?なんだそれは?
自分の部屋にある物からその言葉が何度も見つかる
だけどわからない、理解ができない
「うぅぁあああ」
思い出さなければいけない、早く『本当の自分』に戻らなければならない、だけどできない
何度頑張ってもできないそれが、精神的苦痛となって心が壊れそうだ
だけど、それでも諦めがつかず
「ひっぐ」
涙を流しながら横隔膜がおかしくなりながら再び、自傷するように『本当の自分』を思い出そうと……
「お邪魔します」
後ろから声がかかった
振り向く
「あなたが坂宮西夏さんですね」
そこにいたのは長い金髪を背中にたなびかせ、綺麗な水色の瞳を持ち、メイド服を着たを同じ16歳ぐらいの少女だった
「うっぐ」
声がうまく出ず、ただうなずく
みじめだった。これではまるで子供ではないか
泣きじゃくる弱虫な子供ではないか..
「そうですか。失礼」
そのメイド少女は少年に近寄り、取り出したハンカチで涙で濡れた顔をぬぐおうとする
「う..あっ.いや..」
いいです大丈夫です。そう言おうとした
しかし、
「いいから」
少女はそう言い、断られるのを止め。
少年の涙を優しく拭き取る
同年代の女の子にそんなことをされるのはさすがに恥ずかしいが、なすがままにされながら、顔を拭かれる。
人のぬくもりが心を癒していく
「はい」
頬に触れていた布の感触が離れる
少女が立ち上がり一歩後ろに引く。
暖かなぬくもりが離れていくことに少しの心残りを感じながらも少女と向き合う
「申し遅れました。私はアリス・ヴェール」
メイド服のスカートのすそを持ち姿勢よく名前を言い
「あなたの父の命により、あなたの専属メイドとなりました。これからよろしくお願いします。西夏さん」
お人形みたいな綺麗な顔をした無表情な彼女は、そう言った。
読んでくれてありがとう