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第四十二話 公爵令嬢の提案

 エドガルトに案内され入室してきたアグネスは相変わらず美しかった。


「突然の来訪に応じてくださりありがとう存じます」


 そして、その容姿だけでなく所作も。間違いなく彼女はこのクロヴィス王国一の佳人だ。しかし、その美貌もレイマンの心には全く響いてはこない。


 エリサベータとの出会いの感動ほどのものは何処にも無かったのだ。


──やはり、私にはエリサだけだ。


「それで、ご用向きは?」


 直ぐにでもエリサベータの元へ駆け付けたいレイマンは、性急に話を進めようとした。それに対して、アグネスは特に気分を害した様子は見て取れない。


「今日はファルネブルク様にご提案があって参りました」

「提案?」

「はい。お急ぎのご様子ですので単刀直入に申します。私と結婚して欲しいのです」


 予想外の申し出にレイマンは一瞬呆気にとられたが、直ぐに居住まいを正した。


「申し訳ないが私にはエリサがいる」


 にべもなく拒否をするレイマンに、しかしアグネスは予想していたのか全く動揺を見せなかった。


「エリサとのご婚約は解消されたのでは?」

「私は認めていない」

「彼女が解消を望んだのでしょう?」

「それは……」


 アグネスの指摘にレイマンは言い淀む。


「そのご様子ですとレイマン様は彼女の為に全てをお捨てになる心積もりなのですね」

「……そうだ」


 アグネスは悲しそうにレイマンを見詰めた。


「素晴らしい愛です。ですが彼女はその想いに応えてはくれないでしょう」

「何故?」

「私も同じ女です。彼女の気持ちは分かります」

「貴女がエリサの何を!」


 レイマンの激情をアグネスは片手を上げるだけで制した。


「私も彼女と同じだから。同じ殿方に想いを寄せた女だからです……彼女は貴方の枷になりたくはないでしょう」

「……」

「だから彼女は貴方の想いには決して応えない」

「そんなことはない!」

「それに女の顔は武器でもあるんですよ。清廉な彼女が社交界に身を置く事は呪いを受けた状態では苦痛でしょう」

「それでも……」


 レイマンは強い光を宿した瞳でアグネスを見返した。


「それでも貴女と結婚をする理由にはならない」

「私が『冒瀆(ぼうとく)の呪い』を解く術を持っているとしてもですか?」

「なんだと?」


 茫然とするレイマンを無視して、アグネスは二人の間のテーブルに小さな木箱を置いた。


「私はエリサの事は嫌いではありません」


 アグネスが小箱の蓋を開けると、中には瀟洒(しょうしゃ)なガラスの小瓶が鎮座していた。その小瓶の中には蒼い液体が入っていたが、液体それ自体が発光しているようで、小瓶が光り輝いているようだった。


「これは!まさか!?」


 レイマンはその液体の特徴に心当たりがあった。

 何故なら、これこそレイマンが必死に探し回っていたものだから……


「ハプスリンゲの家宝『エルフの秘薬』です」


 アグネスが事もなげに予想通りの名前を告げると、やはりとレイマンはごくりと生唾を飲み込んだ。


「差し上げる事はできません……ですが、レイマン様が私と結婚してハプスリンゲ当主となれば、この秘薬を彼女に渡せます」

「つまり、貴女との結婚を承諾すれば、エリサベータは呪いから救われると……」


 アグネスは感情の見えない微笑(アルカイックスマイル)を浮かべたまま頷いた。


「……」


 レイマンは沈黙した。


 アグネスの提案。

 それは……


 エリサベータを呪いから救う為に彼女との結婚を諦めるか、

 全てを捨てて、呪いに苦しむエリサベータと添い遂げるか、

 そのどちらかを選べと言っている。


 せっかく全てを捨ててエリサベータと添い遂げる覚悟を決めたのに、アグネスの持ち込んだ秘薬はその決心を根底から揺るがした。


 レイマンは目を閉じて懊悩した。


 目の前の『エルフの秘薬』。


 これを使えばエリサベータは呪いの苦しみから解放される。

 そうすれば彼女は美しさを取り戻し社交界に復帰できる。

 自分と結婚できなくとも良き伴侶を見つけて幸せになれるだろう。


 それではアグネスの提案を断ったらどうか?

 自分が全てを棄てエリサベータの元に行って果たして幸せにできるか?

 爵位も財産も全て私捨てて、彼女の呪いも解けず、それで結ばれてもエリサベータは喜んでくれるだろうか?


 レイマンは惑う。

 真にエリサベータを想うなら、自分の想いを捨てアグネスの提案に乗るべきではないか?


 レイマンは悩む。

 彼女と結ばれたいというのは自分の利己的な想いではないのか?


 レイマンは苦しむ。

 真に彼女を想い、愛しているのなら、彼女の幸せこそ考えるべきではないか?


 目を閉じて懊悩するレイマンをアグネスはただ黙って見詰めて、彼が答えを出すのを待ち続けた。


 悩むレイマンの脳裏にエリサベータの姿が浮かんだ。


──エリサ!エリサ!!エリサ!!!


 恋い焦がれる最愛の恋人。

 思い浮かぶのは呪いで変わり果てた顔。


 彼女が側にいないことが辛い。

 彼女に触れられないことが苦しい。

 彼女との別れを思うと胸が張り裂けそうになる。


──君に私の傍に居て欲しい!君に触れたい!君を離したくない!


 心の中の彼女は自分の顔に嘆き、泣き始めた。


 そして、涙に濡れるその双眸は、しかしどちらも美しく輝いているようにレイマンには見えた。


 そう、その輝く青い瞳は綺麗な宝石のようで、それはまるであの時の……


──エリサ……私は君に……


 やがて、ゆっくり瞼を開けたレイマンは、その瞳に強い光を宿してアグネスを見据えた。


 それは心を決めた証拠。

 レイマンは口を開いてアグネスに返事をした。



 レイマンの答えを聞いたアグネスは一つ頷くと……



 その美しい顔に満足そうな笑みを浮かべた……

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