表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/50

第十六話 赤髪の少女、来襲

 レイマンとエリサベータの交流が始まって数ヶ月が過ぎた。


 このところは風も涼しく、夏の暑さも和らいできた。緑に生い茂っていた木々にも次第と黄色と赤色が混ざるようになっており、このナーゼルの地に秋が到来しようとしていた。


「エリサのヴィーティン領はナーゼルよりも北方だ。秋の訪れも早いのだろうな」

「そうですね、今頃はもう紅葉が見頃かと」


 窓から見える秋の訪れを告げる景色にレイマンは嘆息した。


「どうかなさいましたか?」


 物憂げな様子のレイマンにエリサベータは心配そうに声を掛けた。


「エリサがナーゼルに来てからの数ヶ月は本当に有意義で楽しかった」

「レイ様にその様に思って頂けたのでしたらとても嬉しいです」

「うん……本心から言っているよ。孤児院へ行ったことも、傷病者の慰問も、街の市場へのお忍びも、どれも興味深いものだった」


 どれもこれもエリサベータが来なければ、レイマンが経験する事は無かったであろう。彼女との日々を振り返り、改めてそう思う。


「エリサに会えて本当に良かった」


 これらは貴重な経験であり、大切なエリサベータとの思い出。エリサベータと過ごした数ヶ月の記憶は全てがレイマンの宝物となった。


 だから……


「もう直ぐエリサがヴィーティンに帰ってしまうかと思うと寂しくてね……」

「レイ様……」


 彼が自分をこんなにも想ってくれている事に、エリサベータの胸の内で喜びが膨れ上がった。


「私もレイ様にお会いできて……一緒に過ごせた時間はとても貴重で素敵な経験だったと感じております。ですから、私もレイ様にお会い出来なくなるのはとても寂しいです」

「エリサ……」


 テーブルを挟んで二人はお互いに顔を見詰めて、何処か寂しげな笑顔を見せた。


「来年の春にまたナーゼルに、レイ様にお会いしに来ても宜しいでしょうか?」

「もちろんだ。エリサが来るの楽しみにしているよ」


 二人の(かも)し出す穏やかな雰囲気が、この部屋に居る全ての者に温かい気持ちを抱かせた。だからだろう、家人達はこの二人を微笑ましく見守った。


 だが、この平穏な空気が突然破られた。何やら外が俄に騒がしくなってきたのだ。


「何だろう?」


 レイマンが不思議に思い窓の方へ目を向けたが、特に原因が分かるわけもなく、彼は直ぐに視線をエリサベータに戻したのだが……


「エリサ?」


 何故かエリサベータの顔色が悪かった。


「まさか……」

「どうかしたのかい?」

「あ、あの……いえ……」


 歯切れの悪いエリサベータ。いつも泰然とした落ち着きのある彼女の珍しい姿にレイマンや家人達は(いぶか)った。心配したのかツェツィアが彼女の傍へ近寄って尋ねた。


「どうかなさったのですか?」

「ツェツィア……どうしましょう……今月のお手紙を出していなかったわ」

「手紙?」


 束の間、理解出来なかったツェツィアだったが、徐々に顔色が悪くなった。


「ま、まさか……ナターシャ様への?」


 こくりとエリサベータが頷くとツェツィアはひぃっと小さい悲鳴を上げた。


「エ、エ、エリサベータ様!」

「だって……だって……ここのところ帰省の準備とか、孤児院や施療院への挨拶とか……と、とにかく忙しくて……」


 普段は落ち着いていて物静かな主従が何やら動揺している。レイマンやナーゼルの家人達はヴィーティン家の主従の様子に首を傾げた。


「エリサ?いったいどうしたんだい?」


 レイマンが心配して、落ち着かないエリサベータの側へ歩み寄って屈むと、彼女の手を安心させる為に自分の手で包み込んだ。


「僕で力になれる事かい?君のためなら何でもするよ」

「レイ様……」


 レイマンの優しい振る舞いに、エリサベータは潤んだ瞳で彼を見詰めた。その時、ばんっと扉を破る様にエリサベータの従者エトガルが部屋へ転がる様に入って来た。


「た、大変ですエリサベータ様!」

「エ、エトガル!?」


 エトガルの慌てぶりに、エリサベータとツェツィアが顔を青くする。


「き、来ちゃったの?ねえナターシャが来ちゃったの?」


 エリサベータが尋ねると、エトガルは気が動転しているのか言葉に出来ず、何度も首を上下に振って肯定した。


「何?親友の私が来たら(まず)いの?」


 エトガルが開け放った扉に背を預けて腕を組む一人の少女が、手を取り合うエリサベータとレイマンを睨む様な目を向けた。


「ナ、ナターシャ!」

「久しぶりねエリサ」


 燃える夕陽の様に真っ赤な髪、夏の新緑を思わせる鮮やかな(みどり)の瞳、新雪の如く穢れのない真っ白な肌。エリサベータに挨拶を投げ掛けたのはそんな美少女だった。


 だが、その(まなじり)はきつく吊り上げ、口角を僅かに上げて不敵に笑い、腕を組みながらレイマンとエリサベータを睥睨する態度を見て、レイマンは気が強そうな少女だと呑気に思っていた。


「君は誰だい?」


 怯えるヴィーティン家の主従に変わり、レイマンはエリサベータを守るように、彼女と赤髪の少女の間に入って誰何(すいか)した。


「そう言う貴方は誰なのかしら?」

「これは失礼しました。美しいご令嬢(レディ)。僕はレイマン・ナーゼルと申します」


 レイマンが胸に右手を当て軽くお辞ボウ・アンド・スクレープ儀をすると、赤髪の少女は目を細めた。


「ふーん」


 その少女は不躾(ぶしつけ)にレイマンを上から下までじろりと見ると、更に口角を吊り上げた。


「貴方がエリサの言っていた……」


 レイマンの挨拶に対して、返礼をせずに不作法に値踏みしてくる赤髪の少女に、彼は自分が間違っていたことに気がついた。


 この鮮烈な登場をした少女は気が強そうなのではない。


 随分と、かなり、相当に気が強い令嬢であると……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ