成長目覚ましいんですけど!
それからルフは「頑張り過ぎじゃないかしら」とこっちが心配になるくらいに働いた。
雑用も率先してやるし叱られても素直に受け止めるルフは、すぐに打ち解けて使用人の皆にも可愛がられている。朝は朝日と共に起き出してお兄様と剣の稽古をし、朝食後は邸の皆と一緒に下働きとしてせっせと雑用をこなす。
そして私が学園から帰宅するといつだって元気いっぱいで駆け寄ってくれるのだ。
「お帰りなさいませ、お嬢様!」
赤っぽいふわふわ癖っ毛からピーンと飛び出した犬耳とちぎれそうなくらい振られているふわふわモッフモフな尻尾で、喜びを最大限に表して出迎えてくれる。
せっかくお仕着せの執事服を着てるのに、上着は脱いでベストとシャツだけ。それも腕まくりして浅黒い肌が露出している。きっとついさっきまでお掃除だとか、庭木の手入れの手伝いだとか、厨房で野菜の皮むきだとかを手伝っていたんだろう。
そんな疲れなんて微塵も見せない、このキラッキラな瞳! 嬉しそうな声!
もうこの瞬間に、付き纏って来てウザいヤツらの顔とかワザと聞こえるようになされる噂話とかその他諸々の学園でのイヤ〜な事が全部吹っ飛ぶくらい元気出るよね!
「ただいま!」
「鞄をお持ちします!」
跳ねるように走り寄ってきて、まるで侍従であるかのように私に付き従い、身の回りの世話を焼いてくれようとする。めっちゃ可愛い。
「ルフはいつ見ても可愛いなぁ」
「飽きもせずに毎日ソレ言うんですね。おれ、もうだいぶ大きくなったのに」
よしよしと頭を撫でて言ったら、ルフは可笑しそうに笑って私から鞄とコートを受け取る。しっぽは相変わらず機嫌良くフリフリと揺れてるから、可愛いと言われるのは嫌ではないらしい。
でもそう言われて見れば、私の肩ほどまでしかなかった身長がこのところ急に伸びて来たかしら?
「……確かに、いつの間にか随分と背が伸びたわね」
「もう少しで並びますよ」
「えっ……嘘、え…ホントに!?」
「ホントです」
そう言ってルフは私の目の前に背筋を伸ばして立つ。本当に、目線のちょっとだけ下にルフの黒曜石みたいにキラキラした瞳があって、私はちょっとだけドキリとする。
「追い越す日も近いです」
「なんだか悔しいわ。こんなに急に大きくなるだなんて」
「そもそもお嬢様と二つしか歳違わないから、ちょうど成長期ってのもあるのかも」
「そう、二つ……ってふたつ!? 二歳しか違わないの!?」
「あ、やっぱりもっとガキだと思われてたんだ……」
私に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で、ルフが呟いた。
お耳としっぽが一気にしゅんと萎れたから、ルフにとってもっと子供だと思われていたというのは、それなりに悔しいことだったんだと思う。