お父様の決断
「二年も一人で暮らしていたのか。心細かったろうに」
お父様が労るようにルフの肩をポンポンと優しく叩く。うちの家族ってどうしてこうスキンシップが多めなのかしら。
はらはらするけれど、意外にもルフは嫌がる素振りもなく受け入れている。接触を嫌がる子じゃなくて良かった。
「しかし蓄えがあったとはいえ、散財もせずむしろ子供ながらによくそれだけ辛抱して持ち堪えたものだ」
お父様が感心したように呟く。
ルフが口にした生活費はけして多くなかった。知恵のある大人でも二年暮らすのは難しいだろうという僅かな金額だ。三ヶ月で戻る予定だったのだから当然だろう。
むしろ大金を置けば留守中の家が襲われる可能性すらある。大金なんて置いていける筈もないのだ。
「父ちゃんと母ちゃん、よく一緒に遠出してたし予定より帰りが遅くなることなんてザラだったから、いつも出来るだけ金は使わないようにしてたんだ。一人で生活するのは慣れてたし、剣の練習してれば気は紛れたし」
「しっかりした子だねぇ。学校には行っていなかったのかい?」
ルフはふるふると首を横に振る。
「初等部は随分前に出たし、おれ、冒険者になるつもりだったから中等部には入らなかったんだ。おれ、体も小さいし性格もおとなしいから冒険者には向かないって父ちゃんには言われたけど……でも」
「ふぅん、冒険者になりたいならギルドで登録すればいけるんじゃねえか? 剣が使えるなら後で手合わせしよう、俺が実力を測ってやるよ」
「ほ、ホントに!?」
「ああ、任せとけ!」
ルフの耳がピーン! と元気よく立って、しっぽがちぎれそうなくらいにフリフリフリフリと振られている。王国騎士であるお兄様なら、剣の稽古にも付き合えるだろうし、ギルドに紹介することも出来るかもしれない。
いつもはちゃらんぽらんな感じが拭えないお兄様だけど、こんな時にはすごく頼りになるのね。
出会った時の不安そうな様子もすっかり消えて、嬉しそうな明るい表情になったルフを見て、私はとても幸せな気持ちになった。良かった、無理にでもうちに連れてきて。
随分と元気を取り戻したルフに目線を合わせ、コホンとひとつ咳払いをしたお父様は真面目な顔で問う。
「ルフ君、これも何かの縁だ。君が嫌でなければ私が君の後見人になろうと思うが、どうかな?」
「後見人……って、何?」
「うーん、なんと言えばいいかな。君が自分の力で生きていけるように気を配ったり、できるだけ今日みたいに理不尽な不利益を被ったりしないように守ったりする人のことだよ」
「そうそう、お節介な近所のおじさんみてぇなもんかな」