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ルフの事情

「や、やめてよ、お兄様!」



私はお兄様の大きくて無骨な手をルフの頭から剥ぎ取る。



「ルフはさっき乱暴な大人から理不尽な暴力を受けたばかりなのよ。お兄様みたいな人に急に近寄られると怖いかも知れないじゃないの」


「おお、そりゃ悪かった。でも俺はソイツじゃねえからなぁ、警戒するこたぁねえぜ」



バチン、と音がしそうなウインクで人懐っこく笑うお兄様。どうやらこれっぽっちも悪かったとは思っていないらしい。



「ルフって言うのか。俺はタリオン、王国騎士だ。なんか困った事があったら力になるぜ」



勢いよく差し出されたお兄様の右手を見て、ルフは立ち上がってその手を取り、握手を交わす。ルフのしっぽがファサ、ファサっとゆったり振られているから、もしかしたらさっきよりもずいぶんとリラックスしてきたのかも知れない。



「お、気に入って貰えたみてぇだな」


「タリオンさん、嫌な匂いしないから」


「そっかー」



ニコニコ笑いながら性懲りもなくまたルフの頭をぐりぐり撫でている。その遠慮のない仕草がなんだか悔しい。ちょっと馴れ馴れしくし過ぎじゃないかしら。



「ところでお兄様、今日は随分と早かったのね」


「ああ、お前が可愛い獣人連れてきたって連絡来たからさぁ、何があったのかって思ってね。多分父さんや母さんも今日は店を他に任せてすぐに帰って来るんじゃないか? こういう面白いこと、放っておく人たちじゃないだろ」



お兄様がそう言った途端に玄関のホールが慌ただしくなって、私達は顔を見合わせて笑ってしまった。なるほど、こんな珍事を見逃す気はさらさらないらしい。



***



「……なんという事! 可哀想に」



お母様がぎゅうっとルフを抱きしめる。


皆でご飯を食べながら、ルフがポツリポツリと語った彼の身の上は、今日知り合ったばかりの私でも胸がきゅうっと苦しくなるものだった。


腕利きの冒険者であったルフの両親は、要人の護衛として長期の依頼を受けて旅立ったらしい。三ヶ月ほどで戻ると言う約束は果たされず、それからもう二年近くの月日が経つという。誰もはっきりとは口にしないけれど……もうご両親の生存の見込みは限りなく低いだろう。


明日何が起こるのか分からないのが冒険者の世界。


それを子供なりに理解していたルフは、両親が置いていってくれたお金と家の中から見つけ出した貯蓄を大切に大切に使ってきたらしいのだけれど、ついに家賃を払えなくなって借家を追い出されたのが二週間ほど前。


それからは宿屋に泊まるお金も辛抱して、食事も数日おきにまで絞っていたらしい。


お母様が泣いてしまう気持ちも分かる。私だって涙が溢れて言葉が出ない。でも、そんなにぎゅうぎゅう抱き締めたら、痩せぎすのルフの体が折れそうなんだけど。

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