私だって恥ずかしいわよ
「まぁ、見て。アシェアル様よ」
「今日も男性を侍らせて……はしたない」
「さすが悪女と名高いお方ですこと。一人にお決めになればいいのに」
「恥ずかしくないのかしらね」
……恥ずかしいわ!
そこらでわざと聞こえるように陰口叩いてるお嬢様方全てに、声を大にして言いたい。
あんた達が思ってる数百倍恥ずかしいから!
「やれやれ、女性の嫉妬は醜いねぇ」
「アシェアルのこの美しさでは男が侍らないのが無理と言うものだろう」
「大丈夫、僕たちが守ってあげるからね」
「アシェアルは気にする事はないんだよ?」
気にするわ!
そもそもあんた達高位貴族のボンボン共が揃いも揃ってゾロゾロ私について来るのが原因だっつーの。来なくていいっつってんだからわざわざ学園の外までついてくるなよ、男をぞろぞろ引き連れて街を闊歩する羽目になる私の身にもなってほしい。脳内お花畑か。
……とハッキリ言ってしまいたいところだが、そうもいかない。
なんせこっちは貴族の中では下っ端の男爵家、私を守ってくれると言いつつ全女性の敵に仕立て上げてくれてる男性諸氏はみーんな私の家よりも家格が上だ。しかもお父様とお仕事の関係がある家だって少なくない。さすがに面と向かって一刀両断する勇気は私のような雑魚にはないのだ。
まぁ、頼もしい……と微笑んで見せてから、私は本心をオブラートに包みまくって言葉にする。
「でも、皆様が仰っている事は間違ってはいないのですもの。私もはしたない女だと思われるのは悲しいわ。悪目立ちするのもなんですし、一人で帰路に着きたいのですが」
「それはできないよ、君の家は馬車も用意してないじゃないか」
悪かったわね。下位貴族はそもそも馬車通学は許されてないのよ。もちろんそんなもの用意する無駄金もない。そもそも私には健康な二本の足があるんだから、学園と家の往復くらいなんてことないっつうの。
「でも、誰かの馬車で帰るのも嫌なんだろう?」
「それこそ醜聞になります」
ついでにそれを根拠に婚約だの結婚だのに持ち込まれる未来しか思い浮かばない。こっちの気持ちなんて完全無視で、嫌がってるのに四六時中付き纏ってくる男共なんてどれだけ家格が高かろうと願い下げだ。
「そもそもレイヴン様とメリア様は婚約者がいるのでは? 私と歩いていてはいけません」
「問題ないさ。実際……」
その時。
「出てけくそガキ!!!」
思わず足が止まってしまうような怒号とともに、目の前に何か黒いものが転がり出てきた。
「きゃ」
「うわっ」
残念、皆様剣技も習っている筈なのに庇っては貰えなかった。
全員同じようにびっくりして固まっていたら、その黒い塊がうめき声をあげて動いた。