100年後の街 1
8月に入りジェンナーの街に移動する。朝一で移動し数時間でジェンナーの屋敷に到着した。ラヴォージェとヒュパさんが先に船を降り屋敷に向かって行く。屋敷の準備が整っているか確認する為だ。
俺とキュリアとクララは、船で少しの間待機している。その間はメリトさんがお茶の準備をしてくれてまったりタイムを過ごしていた。
私設の船着き場から屋敷に入るのだが、8月になると必ず俺がジェンナーの屋敷に滞在することが市民には知られている為、屋敷の周りには人だかりが出来ていた。何時も早い時間に着くのだけど何故か市民が集まってるんだよね?
護衛隊が上手く人だかりを捌いている。俺は船の上から愛想笑いをして市民たちに手を振りながらキュリアに聞いた。
「この出待ちの人達って何時からここに居るんだ?」
「八月一日は争奪戦みたいよ?数日前から徹夜で場所取りとかしてるらしいわ」
「マジか?みんな仕事とか如何してるんだろうな?」
「まぁそこは・・・生前も有ったじゃない。人気ゲームの発売日に徹夜で店の前に並ぶとか?何とかごまかして休むんじゃないの?」
「上司にばれて怒られなければいいけどねぇ・・・」
「ケミン、ばれて怒られた事が有るのね!ウシシシ」
「なんて笑い方してるんだよ。まぁあるけどねぇ・・・その後、仕事が山積してて参ったよ」
キュリアがどこかの犬みたいな笑い方をしていた。お前はケンケンかよ!
そんな話をしていたら。クララが言う。
「屋敷の準備が出来たとラヴォージェ様から連絡が来たのですの」
「ありがとうクララ、では行こうか」
俺達は手を振りながら船のタラップを降りて屋敷に向かう。市民からは、口々に女神様ークララ様ーベル様ーなどと声が聞こえた。
なんだよ!クララとキュリア目当てかよ!然もいないベルの声援まであるし・・・俺、要らない子なのか・・・ガクン
俺は内心がっくりしながらも屋敷に入った。そしてリビングで寛ぐことにする。
ジェンナーの街は、この100年でさらに発展していた。10階建てのビルが立ち並び地下街まであった。
人口の増加率が非常に高く街の周りの木にもツリーハウスが出来て人々が住んでいた。木から木に渡り通路が方々に出来ていたりする。一々地面に降りてまた上るのも面倒だものねぇ。そんな事でほとんどの木々が、通路で繋がっていたりするのだ。
主にツリーハウスに住むのはフリーゼの種族であるコボルドとパフィオの種族のハナカマキリ種だ。ジェーンナーに移民した人たちも居たのだろう。地元との通商の橋渡しで来ているのかも知れない。
勿論、人族もジェンナーの市内に住めない人達が居るのでツリーハウスを利用している。
そんなツリーハウスが周囲、数キロにわたって存在するのだ。ジェンナーのベッドタウンになっている。
こんな状況なのも、毎年必ず俺達がジェンナーの屋敷に来るからであると市長が言っていた。
現在の市長は、クララの父アルフレートさんから3代目になる。
クララが産んだ男子をアルフレートさんが養子にしてその子供が現市長である。俺の孫でもあるなぁ。
因みに三人の守護精霊は神出鬼没でジェンナーの上空のどこかにいる。ここに居る守護精霊はヘディとラーニャとクララの守護精霊でツリーハウスの範囲が広がるほどに結界を広げているのでケミカリーナ大森林の中では一番働き者の守護精霊たちでもある。
そしてクララの長女は王太子に嫁いだ。現在の国王の母親でもある。本当は王家に出したくなかったのだが、キュリアが、「貴方全部の娘を嫁に出さないつもりなの!」と怒られてしぶしぶ了承した。
次女はまだ保育園だ。かわいい盛りである。そしてよく俺に抱き着いてくる子でもある。
お父さん子なのだ。名前はエイダ・ロワイエ、この子はずっとそばに置いておきたいなぁ・・・
「ケミン!何ニヤニヤしてるのよ!」
ヤバイ!子供の事を考えてたのがばれたか?
「貴方また良からぬことを考えてたわね!人の寿命は短いのだから成人したらすぐに嫁に出すのよ!解った!?」
「でも・・・」
パッカーーンと叩かれた。
「デモもストもない!花の命は短いのよ!」
めっちゃ古い言い回しだな。こんなの誰も知らないだろ・・・
そんな話をしていた所にラヴォージェから市長が到着したと連絡があった。
俺が市庁舎に行くと大騒ぎになるので、此方に来てもらう事に為っているのだ。
リビングに市長がやって来た。市長になりたての俺の孫だ。26歳になって市長職を継いだ。長身イケメン男子である。黒髪で涼しげな目元をしている。俺の前に跪くと言った。
「ケミン様はご機嫌麗しく・・・」
「難しい挨拶は良いよ!アルファンよく来たね今年も1ヶ月宜しく頼むよ。ここに居る時は孫のアルファンだよ」
俺はアルファンを抱きしめる。
「お爺様、お久しぶりです。私も会えて嬉しいです。此方こそ毎年お手数をお掛けして申し訳ありません。ジェンナーに滞在中は不自由なく過せます様に致しますので何なりとお申し付けください」
「うんうん、何時もありがとう、何かあったら言うからね。其れよりも時間が出来たら此処に来なさい。いつでも歓迎するから」
俺はそう言うとアルファンを放す。
次は、キュリアとクララに挨拶した。お互いに再会を喜び合う。
その後席に座らせた。
「其れでジェンナーでの公式行事は何か考えてるのかな?今年は100周年だろう?」
「はい。メインストリートのパレードを予定しています。8月20日の午後からです。それ以外は自由にして頂いて大丈夫ですよ」
「了解したよ。王国からは何か言ってきてるかな?」
「何時もの如く国王様がいらっしゃいます。王国も代が変わり、15世がいらっしゃいますよ」
「15世が即位したのか。まだ20歳そこそこじゃなかったかな?」
「そうですね。即位と100周年を同時に祝いたかったのでしょう。前王は、早めに退位しましたからまだまだ元気ですよ、一緒にいらっしゃると思います」
「では謁見が決まったらクララに通信してね]
「解りました、宜しくお願いします。お婆様」
その後、も暫し雑談をした後に一度解散した。そして、歓迎の晩餐会が開かれたのだった。
こうしてジェンナー滞在が始まったのだ。




