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現れた者



 遠くから宴の賑やかな音色が聴こえる。


「楽しそうだなぁ」


 フードを被った男は墓の前でポツリと呟く。


「羨ましいよねぇ。混ぜてほしいよねぇ。皆で会いに行こうか」


 それは独り言のはずなのに、まるで応えるように地面から骨の手が飛び出していく。

 次々と墓の下から人の形をした骨、スケルトンが起き上がってくる。

 スケルトン達はフラフラと音のする方へ歩き出した。


「さぁ、行け。村を蹂躙しろ」


 男の命令でスケルトン達は一斉に村へと走り出して行った。

 最後の一体が居なくなると、荒らされていない一つの墓の前に立って魔法を発動させる。


「さて。お前には特別な魔法をかけてあげよう」


 【彼】の墓の前で男は悪意に満ちた笑みを浮かべた。



▲▲▲






「私がロウを殺したと知ったのは事のすぐあとだった」


 城へ戻って殺した相手が知らない魔族だった事をエルガーに話すと、彼はロウが魔導書を盗み出した事をアルシエルに伝えたのだ。


「獣化魔法は強力だ。街中で民を守りながら戦うには捕らえる余裕は無かった。それでも知っていればなんとか出来たはずだ。……でもそうはならなかった。私は彼を殺した。全て私のせいだ」


 語るアルシエルはただ遠くを見つめている。視界に映るのは夜の森ではなくあの日の情景なのだろう。


「……どうしてこの話を私に?」

「城の中では有名な話だ。君には人から聞かせるより私から話しておきたかった。ロウに力を渡したくだりは覚えてるね?」

「ああ、魔王から他社へ力を与えられるという」

「そうだ。でもこの件以降私は誰にも力を与えていない。与えるべきじゃないと思った。けどもし噂で力を与えられると知ったら欲しくなるだろう?」

「いえ全く」

「ほう?」


 アルシエルは驚きはしたものの、まるでそう答えると分かっていたかのように聞き返した。

 いくら従者として潜入しているとはいえ、魔王から力を与えられて戦うなんて【勇者】としてのプライドが許さない。が、そのまま説明するわけにも行かない。


「【魔王】様を守るなんて力を与えられても俺には荷が勝ちすぎます。大人しく後ろに引っ込んでますよ」

「正直な答えだ。でもどうしてだろうね。私はこの力を要らないと答える気がしていたよ」

「話に出たロウ先輩に比べれば不真面目な従者だからでしょうよ」

「それを自分で私に言うかい」


 二人は軽く笑い合った。


「あの頃の私は他人に力を与える事を、他人と共に戦う事になんの疑問も抱いていなかった。その結果がコレだ。……その時になって私は勇者が独りで戦う理由を知った気がしたよ。彼はきっと分かっていたんだろうね」


 魔王は自嘲しながらジョッキを煽った。

 その言葉に、思わずぽつりと溢れる。


「魔王様……それは──」


 崖下の村からは騒ぐ声が一際大きくなる。

 驚いた二人は互いの開いた目を見て苦笑が漏れた。

 

「そろそろ戻ろうか」

「ですね。降ろしてもらえますか」

「ああ。……なんだかやけに騒がしくないか?」

「宴が盛り上がってるんじゃ……」


 よく見れば人々が同じ方向に走り出している。

 そうこうしてる内に村から火の手が上がった。


「!? 魔王様!やはり何かが起きてます!すぐに向かいましょう!魔王様!……魔王様?」


 返事が無い。隣を見れば彼女は忽然と姿を消していた。

 …………転移で村に戻ったのだろう。


「……置いてかれたァ!?」


 断崖絶壁で一人取り残された従者であった。


「ワンダ!これは何事だ!?」


 村へと転移した魔王は避難を促しているワンダに詰め寄る。


「おお、魔王様!ご無事でしたか!突然南側から大量のスケルトンが現れたので村はもうパニックで……」

「原因に心当たりは?ダンジョンの魔物達があふれ出したとか」

「いえ、だとしたらスケルトンのみということはないでしょう。南側には墓地があります。スケルトン達は村人の遺体ではないでしょうか……」

「遺体か……なら死霊魔法使い〈ネクロマンサー〉の仕業か」

「せいかーい」


 アルシエルの前にスケルトンを引き連れた男が現れた。

 ローブを下ろし、隠れた顔が露わになる。短い髪の毛は左右に白と黒に分かれているのが特徴的な青年だった。


「初めまして【魔王】サマ。僕はエミル。見ての通りネクロマンサーだよ。以後お見知りおきを」


 エミルは丁寧にお辞儀をしてみせる。だが彼の所作は丁寧に見えて煽るように巫山戯た印象しか感じられなかった。

 そして挨拶と同時に控えていたスケルトンが二体、アルシエルに飛び掛かった。


「なんのつもりでこんな騒ぎを起こしたのか知らないが、のこのこ私の前に姿を現したのはいい度胸だ」


 スケルトンが突然燃え上がる。失速した二体は地面に落下し、跡には地面の焼け跡だけが残っていた。


「灰すら残らないと思え」


 【魔王】の両手には紅い炎が宿っていた。




「ほらほら急いで急いで!村の外へ!」


 ナッシュはアルシエルとは反対の村の端で避難誘導を行っていた。

 炎が広がる村の中でスケルトンに追われる人々がバラバラにならない様に列を作って進ませる。


「とはいえ、安全な場所なんてあるんスか?」

「近くに洞窟があるからひとまずはそこへ行ければ安全なはずですが……」


 槍を構えて周囲を警戒している警備兵が答えた。

 話している内に列は途切れ、足音が止んだ。


「もう誰も残ってないッスかね!?」

「いや、あそこに子供が!」


 幼い少年が一人、燃え盛る家の前で泣きながら立ち竦んでいる。騒ぎで親とはぐれたのか。

 背後の家が炎で綻び始める。


「まずい!」


 ナッシュが走り出すと同時に支柱が子供の方へと倒れる。


(間に合わない!)

「あ……」


 落ちた影に振り向く少年。眼前にはもう止まることのない大きな柱が迫る。

 動く事すらできない彼の視界を遮ったのは掌だった。


「おおおおおおっ!」


 飛び込んだアランは少年を抱え込んで地面をスライディング。間一髪の所で柱は音を立てて倒れる。

 炎はさらに燃え広がり、村の中央側と分断する壁となった。

 その様子を仰向けのまま首を上に向けたアランは自分の無事を確信した。


「ハァ……ハァ……ま、間に合ったぁ……」

「旦那ァ!ご無事で!?」

「あ、ああ……この子も無事だ」


 アランは身体の上に抱え込んでいた少年を降ろして立ち上がる。


「良かった……っつーかこの非常時にどこほっつき歩いてんスか!大変な事になってんスよ!?」

「うるせー!俺だって逆ロッククライミングしてきて大変だったんだよ!これでも大急ぎで来たんだ!」

「なんて?」


 崖の上に独り取り残されたアランは回り込む時間も惜しいと断崖絶壁を降って来たのだった。


「それよりどうなってるんだ?魔王様はこっちに来てないのか?」

「見てないんで村の中央か反対側でしょうね。スケルトンもそっちから来てるみたいなんで倒しに行ってくれたんじゃないッスか?」

「だろうな。だがまだこっちに来てるのがいるな。俺が相手してる内にその子を連れて行け」

「了解。無茶すんなよ旦那」


 ナッシュは少年を抱きかかえて村の外へと向かった。

 道を塞いでいた炎から抜け出た焦げたスケルトンが2体現れる。持っている剣や槍は騒ぎの中で拾ったものだろう。

 対してこちらは無手。油断はできない。


「ここから先へは行かせな……なんだ!?」


 風を切る音。何かが近付いてくる。いや、上から落ちてきている。

 アランが飛び退くと、落ちてきた【奴】はスケルトンを下敷きにして現れた。


「グルルルル……」

「嘘だろ……」


 見た事もない、初めて出会う怪物だった。

 だが、アランは一目で【奴】が分かった。

 巨大な体躯に灰色の体毛。鋭い爪を備えた一際大きな二本の腕。狼に近い頭部。

 眼前に現れたのは死んだはずの従者───ロウだった。


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