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Betrayed Heroes -裏切られし勇者の末裔は腐敗世界を破壊し叛く-  作者: 姫神由来
火に渦巻くは歴史の咎
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ep.40 帰れって言ってんでしょ

 センリは障壁に手で触れて魔力の波長を合わせた。するとその手は障壁を通り抜けてアルテの目の前へ。彼女は目を見張った。


「そんなまさか……どうして……。私と父以外には通ることができないはずなのに」

「如何に堅固な錠でも鍵があれば開く。それだけの話だ」

「……センリ様。大変申し上げにくいのですが、どうかそれ以上こちらには来ないでください」

「何か問題でもあるのか?」

「非常に危険だからです。少しでも気が緩めば、その腕は瞬く間に切断されてしまうことでしょう。体ごと通ろうものなら……」


 アルテが警告するそばからセンリは体ごと障壁を通り抜けた。


「通ろうものなら?」

「……いえ、なんでもありません」


 諦めの表情を浮かべるアルテ。しかしセンリが先へ行こうとすると彼女はハッとして引き止めた。


「あの、センリ様。どうかそれ以上先へは……」

「見られてはいけないものでもあるのか?」


 障壁の向こうでクロハが首を傾げた。


「この先にあるのは私の部屋です。恥ずかしくてとてもお見せできません」

「本当のことを話せば帰ってやる。魔族の塵どもとあんたの関係についてな」

「…………」

「答える気はないようだな」


 センリが行こうとするとアルテはすぐに先回りして大手を広げた。


「お願いいたします。どうかこれ以上先へは」

「答えは?」

「今はお答えできませんがいつか必ずお話しします。ですので」


 強張った表情のアルテは両手を使ってセンリを強引に障壁前まで押し戻した。


「どうかそのまま部屋にお戻りください」


 明らかに様子のおかしいアルテ。センリは反応を見るべく再び先へ行こうとしたがそれは寸前で止められた。


「……つって…んで……」

「あ?」

「帰れって言ってんでしょッ!」


 突如として豹変したアルテは両手でセンリを障壁の外へと突き飛ばした。鍵のない状態で障壁に触れれば全身が粉々になるだろう。


 そんな状況でもセンリは冷静でいた。体が障壁に触れる直前、波長を瞬時に合わせて通過し、倒れゆくその背中をクロハが受け止めた。


「主よッ! 大丈夫かッ!」

「大丈夫だ。いちいち気にするな」


 センリは自力で立ち、障壁の向こうの王女を見やった。


「……失礼いたしました。とんだ粗相を……」


 目を大きく見開いたままのアルテ。一歩、二歩、と後ずさりをしたあと、素早く身を反転させてそのまま部屋へと逃げ帰った。


「……アルテ様……」


 残された食事を一瞥して悲しげな表情を浮かべる女給仕。


「どうやらあれがお姫様の本性らしいな」

「いつも穏やかな顔をしておったが、人間とは分からぬものよのう……」


 会うたびに言葉を交わしていたクロハは複雑な心境だった。


 ###


 それからセンリとクロハの2人は部屋に戻った。女給仕はしばらく待つと言ってその場に残った。すでに食事は冷めていて姫様の恩情がなければ作り直しだろう。


 夕食までまだ時間があるのでセンリはベッドに寝転んでこれまでの情報を整理した。


 二重人格という王女。一生をかけて祈り続ける巫女。祈祷を強制する火の神。その火の神を悪魔と呼ぶ男。街や城内に現れる魔族の手駒。未だ掴めない魔族の居所。不自然に強固な魔術障壁。そして部屋に入ることを頑なに拒む王女の主人格。


 まだ線では繋がらないただの点だが、これらは必ず繋がるとセンリは確信していた。


「……足りない」


 その台詞はセンリが読んでいた小説に出てくる探偵の口癖。関連性があると直感していても情報不足で点と点を結べない時に彼はいつもそう言うのだ。


 センリはさながら探偵のように思考を巡らせて夕食まで間ただひたすら考えていた。


 ###


 部屋の扉を叩いて知らせる夕食の合図でセンリはベッドから降りて部屋を出た。ちょうどクロハも部屋から出てきて2人は先を行く使用人についていった。


 食堂にはすでに国王とエスカがいて談笑していた。やはりと言うべきかその場にアルテの姿はなかった。


 談笑していた2人は話を切り上げてセンリとクロハが椅子に座るのを待った。


「さて、これで揃ったな。今宵も楽しい夕食の時間が始まるぞ」


 国王は大きく手を叩いて給仕に食事を運ばせた。運ばれてきた料理は国王に相応しい豪快なもので繊細さに欠けている。だが味に関しては一流でクロハが特に好んでいた。


「では、いただこうか」


 そう言って国王が食事に手をつけた時にはもうクロハは食べ始めていた。我慢ができなかったのだろう。


「国王。あんたに聞きたいことがある」

「構わん。何でも申してみよ」


 食事をしながらの国王。その顔は実ににこやかだ。


「城内に魔族の手駒がいたが、それはどうしてだ?」


 センリの問いに国王の手がピタリと止まる。にこやかだった顔も途端に曇った。


「……そうか。あれを見てしまったのか」

「センリさん。どういうことですか?」

「エスカ。それは我が説明しよう。主と別れたあと、部屋に帰る途中で我らは魔族の手下に出くわしたのじゃ。そやつは給仕に化けておった」

「えっ、そんなことが……」


 エスカは驚いた顔のまま国王と目を合わせた。


「……エスカ王女。大変申し訳ない」

「いったい何があったのですか?」

「この城にはたまにそのような者が侵入するのだ。ここ数か月は見ていなかったから完全に油断していた……。ですがエスカ王女。あなたの身の安全はこの私が保障します」

「あの護衛さんと何重にも張られた魔術障壁はそのためだったのですね」


 城の周囲はもちろんエスカの部屋の前には護衛の魔術師がいて、その付近には何重にも強力な魔術障壁が張られていた。


「ああっ! ようやく分かったぞ。だからエスカだけは部屋が離れておったのか」


 クロハは部屋に振り分けに納得して声を上げた。


「あいつらはいったいどこからやってくる?」

「あの者たちがどこから来るのかは私にも分からない。唯一分かっているのはこちらから危害を加えなければ何もしてこないということだ」

「それは誠か? 確かに城内で会ったものにはこちらから手を出したが、街で会ったものは一直線にセンリを攻撃したぞ」

「――ッ!」


 クロハの発言に国王はいたく驚いていた。


「……まさか……そんなことがあり得るのか……」

「どうされたのですか?」

「いや、なんでもない。気にしないでくれ」


 エスカの心配に平静を装う国王だがテーブル下の手は微かに震えていた。


「なあ、あんたの娘と何か関係があるんじゃないか?」


 センリから放たれた直球の質問に国王はたじろいだ。


「……さすがは勇者の子孫といったところか。やはり勘が鋭い」

「それは肯定とみていいんだな」

「関係性は否定しない。がしかし、これ以上の追及は勘弁願いたい。私の大事な娘アルテのためにも」

「……センリさん。せめてこの場での詮索はやめませんか? せっかくの美味しい料理が泣いてしまいます」


 追い詰められた国王を見兼ねてエスカが助け船を出した。


「そうじゃ! せっかくの料理が不味くなるわっ!」


 クロハもスプーンを勢いよくセンリに向けた。


 向けられたほうは舌打ちをして料理に目を落とした。今この場でこれ以上詮索しても何も話さないだろうと判断して日を改めることにしたようだ。


「……感謝する」


 国王は礼を言って再び夕食を食べ始めた。その声にも食べ方にもさきほどの豪快さはなかった。

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