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Betrayed Heroes -裏切られし勇者の末裔は腐敗世界を破壊し叛く-  作者: 姫神由来
天地に根差す鋼の呪縛
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ep.89 さっさと片づけるぞ

 異質な気配を感じ取りつつもセンリたちに引き寄せられていく賊の一団。味方にも効力があるため青年団の彼らは本能的に距離を取って近づかないようにしている。


「なんだ……?」


 敵を斬り伏せたあとに感じた異変を横目で確認するルプレタス。弱そうに見えたが剣の腕は確かなようで支援魔術を行使(こうし)するヌヴェルを庇いながら戦っていた。


「向こうは確か……」


 言っているそばから新たな敵が襲ってきた。気づくのが遅れて手にしていた剣が弾き飛ばされる。


「――ッ」


 そのまま一撃をもらいそうになったがヌヴェルがとっさにぶつかって助けた。


「よそ見しないで!」

「わっ、悪い」


 ルプレタスはすぐに持ち直し、剣を拾いにいく。しかしそこに男が立ち塞がった。あの時、教会の前で殺そうとしてきた魔術師の男が。


「あの時は世話になったな」


 男はくっきり残された首の絞め痕に触れて、転がった剣を魔術で横へ弾き飛ばした。


「ルプレっ!」ヌヴェルが叫ぶ。

「……何が改宗だ。やっていることは信仰心の欠片もない。賊と同じじゃないか」

「神は全能じゃないし何もしてくれない。そのことを悟ってから俺は自由に生きることにした。ここにいれば好き放題できる。戒律(かいりつ)で禁止されていることだってな」


 魔術師として生まれた彼にはこの国は退屈だった。神のため人のため平和的に使わされるその力を無秩序に試したくて仕方がなかった。


「理由なき殺しのような楽しみが俺には必要だったんだ。それを教えてくれたのがここの頭首(とうしゅ)だった」

「ふざけないでっ!」


 動揺しながら男の手法を真似して魔術を使うヌヴェル。しかしながら力に(とぼ)しく相手の首には指の跡すら付けられない。


「これだ。戒律の中で従順に生きてきた魔術師には抗う力がない。戦うことをよしとしない同調圧力が俺たちから牙を抜くんだ」


 ただ狂っているだけに見える男が口走った気になる言葉。それは背後から迫ってきていた青年団員の断末魔の叫びとともにかき消えた。


「――気づくのが遅すぎた。もっと早ければ」


 助けは殺した。男は次に目の前の2人を殺そうとしたが、それは叶わなかった。見えない手が彼の首をへし折ったのだ。そして向こう側に見えるセンリの姿。間一髪のところで気づいたようだ。


 その周りにはおびただしい数の(しかばね)が転がっている。もはや勝負にならないと、残った賊の多くは戦意を喪失して退却。しようとしたが結局一人残らず事切れた。一度敵意を向けたが最後、食らいついた狼は決して離さない。


 今回の戦闘で命を散らした味方は数名だった。いずれも引くことを知らない好戦的な仲間。当然その死は悲しまれたが、動揺する者はほとんどおらずむしろ平静に健闘を(たた)えていた。お国柄というよりは宗教観の違いなのだろう。異国人・異教徒からすれば不思議に映るかもしれない。


 青年団は逝った彼らのために黙祷(もくとう)を捧げてから傷の手当てをした。しかしここではまだ退かない。この集団を指揮する頭首が残されているからだ。


「センリさんもセズナさんも。……実にお強い」


 傷の手当てを終えたルプレタスがセンリたちに歩み寄る。2人のあまりの力量に畏怖の念を抱いている。それは他の団員も同じくして。


「まるで手応えがなかった。特に魔術師は」

「ええ、確かに」


 フォルセットの名が出てきたことで多少の警戒心はあったが実に期待外れ。戦士としても魔術師としても格上の2人にとっては相手じゃなかった。


「まあ、賊に情けはないが」


 含みのある言い方でセンリは短剣を逆手(さかて)に持ち替えた。ほのかな魔術の光が消える。


「まだ頭が残っています。すぐそこに」


 広場に隣接した路地を抜けた先、そこに本拠地の建物があった。


 青年団が路地に入るなり潜んでいた残党が姿を現した。頭首が逃げるための時間稼ぎにも思えるようなそれに対して痺れを切らしたセンリがセズナに声をかける。


「さっさと片づけるぞ」

「はい」と彼女は返して糸を伸ばした。


 敵は狭い路地の四方八方から攻撃を仕掛けてくる。センリは短剣を持ったまま走り、壁を蹴って跳躍し、まず手近な相手を斬って捨てた。


「邪魔だから動かないで」


 セズナが背後の味方に言い放つ。手をはらうことで各指から垂れ下がる糸を針のような鋭利さで放射状に射出した。


 その一本一本が指の延長の如く意志を持って動く。触れただけでも骨肉が切れて裂けるほどの切れ味に(まど)う賊兵。


 複雑怪奇に飛び交う糸を、センリは最小限の動きでかい潜りながら鋼の刃で次から次へと敵の首を掻っ切っていく。


 (たけ)鉄心(てっしん)の人形、張り巡らされた(かたど)りの糸。それは救われぬ結末の人形芝居が上演されているようで。すでに用意された観客席からの眺めは抜群だった。


 吊るされ、斬られ、縫われ、裂かれ。演じ切った配役が芝居を止めていく。


 演目を知らぬ観客は息を呑み、このひと時、瞬きさえも忘れた。


「――ァアアァッ!」


 最後の断末魔が叫びとなって会場中に鳴り響く。それが終演の合図だった。


 観客を現実に()す短剣の一閃。張り詰めた糸を断ち切った。されば緊張が解けるようにして(たゆ)み、ふわりと地に垂れ落ちた。


 舞台に残された演者は2人。幕が閉じたあとのカーテンコールに拍手はない。声を発することすらおこがましい雰囲気に静寂だけがしばらく漂った。


「……さ、先へ進みましょう」


 拍手の代わりにルプレタスは席を立って他の観客へ退場を促した。


 近く建物の上から劇の一部始終を鑑賞していたパイプの男はその内容に圧倒され、ひどく苦い顔をしていた。


「こりゃ参ったなァ……」


 断りなくズカズカと家に入っていく彼らを見ても男に逃げる様子はない。いや、逃げようと考えていたが、急遽(きゅうきょ)取りやめたように見て取れる。


「もしかしたらこのどこかにマルシャが……!」


 本拠地。その建物に入るなりヌヴェルが言った。


「どういうことだ?」センリが問いただす。


 どうやら賊の本拠地を潰す以外にも事情がありそうだ。聞けば、仲間や知り合いが拉致されていて、ここに監禁されているではとのことだった。


 かくして頭首を詰める部隊と捕らわれた人々を探す部隊の二手に分かれた。戦力に大きな差が生じないようにと提案され、センリとセズナは一旦離れることになった。


 ルプレタスのもとにはセンリが。ヌヴェルのもとにはセズナが。前者は頭首の逃走を防止するため急いで上層へ。後者は監禁場所を探しながら追随(ついずい)する。


 建物内は予想に反して閑散としていた。丸机の上に置かれっぱなしの酒瓶や薬物。床に散乱する衣類や食べ物の(かす)。生活感が残されていることから見るに、すでに逃げだしたかさきほど死んだかのどちらかだろう。


 人の気配を感じながら階段を駆け上がるルプレタス一行。センリの存在が心強いのか部隊の士気は非常に高い。


 途中で逃げ遅れた残党を何人か見かけたが戦闘には至らず屋上にたどり着いた。そこにはパイプの男がいた。今一度大きく吹かしてから、ゆっくりと向き直る。


「とんでもないやつを連れてきたもんだ、まったくよォ……」


 煙が晴れたあとに浮かぶ男の締まりがない顔。彼がこの集団の頭首。若くもなければ老いてもいない微妙な年の頃。


「観念して投降しろ」ルプレタスが一歩前に出る。


 そうすると頭首はパイプを懐にしまい、なんと両手を上げてから膝を折った。


「どういうつもりだ……?」

「見りゃ分かんだろ。降参だ、降参」

「……本当、か?」


 あまりに簡単すぎるとルプレタスは何かの罠を疑った。他の青年団員も同様に。

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