第9話 貴女の瞳に映りたい
雲ひとつない青空。あんなに綺麗な青を見せられてまるで私を否定しているみたいね。
あぁ、違う。私が私を否定しているんだ…
静岡での合宿は、怪我無く問題なく終えて一安心。
「なんか寂しいね」
帰りのバスで由依が言った一言。
「行きからは想像できない言葉だね」
「そりゃ辛かったけど、終わっちゃうのはなんか寂しい」
「まぁ、確かに」
「明日は練習休みだし暇…」
「レポートは?」
「少しずつやってるから大丈夫。はるは?」
「もう終わった」
「えっ…いつ終わったの?」
「合宿始まる前日には終わったよ」
「…さすが優等生」
「……手伝おうか?」
「学部違うじゃん。さすがにはるでも分かんないよ」
「由依、確か専攻心理学でしょ?」
「うん」
「それならなんとかなるかも」
「…なんで?」
「図書館で沢山心理学の本読んでるから」
「えー、それで大丈夫かな…」
「んー、大丈夫って保障は無い」
「んー…まぁいいや、手伝って」
「妥協? 今妥協したよね?」
「うるさい」
「手伝ってもらうのにその態度⁉」
「違うでしょ」
「なにが?」
「はるが私を手伝いたいんでしょ」
「……」
すごい。このザ・女王様って感じ。皆、由依を甘やかしずぎだよ。将来、もっと恐ろしい女王様になるよこの子。
「…はる」
「ん?」
「……」
「どうしたの?」
「……」
「由依?」
「…だって」
「ん?」
「……手伝…って欲しい」
違った。恐ろしいツンデレ女子になるよこの子。
「はる……嫌?」
「嫌じゃないよ。やろっかレポート」
あっ、あの優しい笑顔だ。良かった 嫌われなかった。
はるはすぐキュンとすることとか、嬉しくなることとか、寂しくなくなることとか言って欲しいことを言ってほしい時に言ってくれる人。でも、私はそれに恥ずかしくなったり照れたりで耐えられないよ、ばか。あぁ、今も口悪くなっちゃった…。
周りの人は 、ツンデレだねって言ってくるけどそんなことない。素直に思ってること言うのが恥ずかしいからつい強い口調になちゃってこの ツン のせいで嫌われたらどうしようって思う。不安になって心配になって泣きそうになる…。
はるに嫌われるくらいなら恥ずかしさだって我慢できる。素直に言おうって思える。ちゃんと言えたあとはるはいつも優しく微笑んでくれる。
そのたびに私ははるに恋をする。うん、もう認める。好きだよ、はるのことが好き。
「はる、ありがとう」
「ん?」
「…明日どこでやる?」
「んー、図書館は?」
はるの家…行ってみたかったな
「うん、いいよ」
「何時からにする?」
「お昼の一時からは?」
「うん、良いよ」
「じゃ、一時ね。着くまで寝る」
「うん、おやすみ」
「おやすみ」
今家に着いたよ
おかえり。合宿お疲れ様
本当疲れた。でも良い経験になったよ
はる、明日図書館行く?
行くよ、お昼一時頃。麻衣は?
じゃ、私もそれくらいに行くね
久しぶりに会えるね
楽しみだね
うん、楽しみだね
じゃ、また明日ね。おやすみ
おやすみ
「おはよう」
「…おはよう」
「由依? 眠いの?」
「…うん」
「大丈夫?」
「…うん」
「レポートやる前に少し休もっか」
「…うん」
心配になるくらい目が開いてないし、立ったまま寝そうになっている由依を見ているとこんな姿でも可愛いなって思えて笑みがこぼれる。それになんだかいつもよりお洒落って言うか、服装も髪型も可愛い。この後何か予定でもあるのかな…
こんな可愛い由依を見られたのは得したと思う。そして、今にも寝そうな由依の手を引っ張り連れてきたのはいつものテーブル。
「由依、ここに居るから少し寝て良いよ」
「うん」
「一時間ね、そしたら起こすから」
「うん」
由依が寝てる間は読書でもしよう。とりあえず心理学の本読んでおこう。
麻衣にも会えるし今日は良い日になりそう。