第7話 夏の音がしたから…
頭では分かっていても気持ちが追い付かない。このままでいい、欲張るな。
合宿頑張って。怪我しないように気を付けてね。』スマホの画面に表示されたメッセージをぼんやりと眺めている時に不意に隣から声がした。
「初めての合宿は緊張するね」
バスケ部専用のバスで都内から合宿所のある静岡へ移動中、隣の席に座っている由依が話掛けてきた。
「確かに。どれだけしごかれるんだろうね」
「走り込みとか…過ごそう」
「辛そう…頑張ろう」
「うん」
「由依、始まる前から泣きそうな顔しないでよ」
「だって…」
「バスケ好きでしょ?」
「…好き」
「えっ…なに今の間」
「走るのばっかりは嫌だ…」
「スタミナ付ける為だからしょうがないよ」
「うーん」
「頑張ろう。ね?」
由依の顔を覗き込むようにそう言えば、彼女は黙り込んでただ見つめてくるだけ。
「…なに?」
「はるってさ、」
「うん」
「惚れさせるの上手いよね」
「えっ?」
「皆が好きになるの何となく分かる」
「それなら由衣もそうでしょ」
「なにが?」
「かなりモテるでしょ」
「うーん、どうだろうね」
「あの寂しそうな表情がたまらないって言われてるじゃん」
「うーん、まぁ、言われる」
「狙ってやってる?」
「少しは」
「あざといねー」
「でも、本命には響かないみたい」
「本命いたんだ」
「まぁね」
「由依がアプローチしてダメだなんて凄い相手だね」
「…自分で言わないで」
「ん?」
「なんでもない。着くまで寝る」
「うん、おやすみ」
暫くして着いた場所は、静岡県の磐田市。わりと田舎の方まで来たから周りは田んぼや畑ばかり。
「……のどか」
「田舎って感じだね、なんか空気も違う感じする」
寝起きの由依はまだボーっとしたまま。
「まだ眠い?」
「うん」
「そっか、午後から練習始まるし目覚ましなよ」
「うん」
「はる、由依。 荷物運んで」
マネージャーの美侑は今日も働き者です。マネージャーたちと一、二年生で荷物を宿舎に運ぶのを手伝う。部屋割りは四人一部屋。私の部屋は、美侑、由依、佐々木の仲良しメンバーじゃないか。これなら気を遣うこともないし助かる。
「はる、同じ部屋だね! 嬉しいね! ね!」
「佐々木なんでそんなにテンション高いの…」
「え? だって皆、はると同室になりたがってるんだよ? その中で同室を勝ち取った私は勝ち組じゃん!」
「勝ち取ってないでしょ、たまたまでしょ」
「運も実力のうち」
「ってか、私と同室になっても何も無いよ?」
「眺められるだけで良い」
「…」
「真顔もカッコいいぞ!」
「はぁ…」
「はーい、はるがため息つくほど呆れてるからそこまで」
「あ、 美侑」
「止めてくれてありがとう」
「どういたしまして」
「え、嫌だった? はる嫌だったの? 」
「嫌って程じゃないけど分かんないなーって思ってた」
「何が?」
「なんで私にそんなに興味あるんだろって」
「イケメンだから」
「直球だね」
「二人とも練習始まるから早く体育館行って」
「はーい」
佐々木はきっと恋愛感情じゃないってのは見てて分かる。純粋にはるの顔や優しいイケメン対応が好きなんだろうなって感じ。でも、純粋過ぎて無意識にはるの地雷踏み過ぎだから…。フォローする私の身にもなってよ。
でも、本当にはるを好きな由依よりはましか…。なんで皆、はるなの? 大学には他にもカッコいい男子居るじゃん。そっちにいってよ。誰もはるを好きじゃなければいいのに…。
「キツイ…」
「大丈夫?」
「無理」
体育館に着くなりコーチから言われた最初のメニューは、全員体育館五十周。
「あと五周だから一緒に走ろう」
「無理、はる先行って」
「由依と一緒に走る」
「無理、走れない」
「ゆっくりでもいいから止まらないで走ろう? ね?」
「…分かった」
少しも辛そうじゃないはるのその表情から体力の差を痛感するのにはる自身はそれを鼻に掛けるどころか、私に気を遣って最後まで私のペースに合わせて一緒に走ってくれた。そのおかげもあってなんとか無事に完走することができた。
「全員走りきったのは初めてだ。毎年何人かリタイアしてたからな。皆良くやった」
足がガクガク震えたり、床に座りこんだメンバーを見ながら言ったコーチの一言に全員が、諦めなくて良かったとそう顔に出ていた。
「はる、ありがとう」
「ん?」
「はるが居なかったら諦めてた」
「頑張ったのは由依だよ。一緒に走ってくれてありがとう」
「…」
言葉が出なかった。私を助けてくれたのははるで、はるが声を掛けてくれて私のペースに合わせて一緒に走ってくれたから、リタイアしないで走れたのに、なんでそんなに優しい笑顔でありがとうって言うの…。
はるはあたたかい。涙が出そうになるくらいあたたかい人。
優しすぎるよ、ばか。
「走りきったんだから泣かないでよ」
「うるさい、ばか」
「相変わらず口悪いね」
「うるさい」
「はいはい」
「ばか」
「それはひどい」
「…ごめん」
「ふふっ、良いよ」
あたたかすぎて自分の心の汚れが浮き彫りになる。外見も内面もこんなに綺麗な人、私じゃ釣り合わないよ…。ばか




