第6話 彼氏ということ
お似合いカップル、理想のカップル、優しい彼氏、素敵な彼女。
「麻衣ちゃんみたいな子が理想の彼女」
「駿斗には勿体ないくらいの彼女」
「理想の仲良しカップル」
周りからの評判は良い。いや、良すぎる…
「なぁ、どっかで飯食って行こうぜ」
大学のフットサルサークルの練習終わりチームメイトからの誘い。
「あぁ、ごめん。この後麻衣とデート!」
「うわぁ、相変わらず仲良しカップルだな」
「いいな~、俺も麻衣ちゃんみたいな可愛い子と付き合いたい!」
麻衣は何度か試合の応援に来た事があるから、チームメイトも皆、麻衣を知っている。
「ダメダメ、麻衣は俺のだから!」
「なんで駿斗なんだよ~」
「確かに、麻衣ちゃんならもっとイケメンと付き合えるでしょ!」
「うるせぇ!麻衣は外見じゃなくて俺の内面に惚れてるの」
「うわぁ、自分で言ったよ…」
「ああぁもう!うるさい!じゃ俺帰るから!」
皆は知らない。麻衣の本命の『あの人』のことを。彼氏なんかじゃなくて俺は『あの人』の代わりなだけってことを皆は知らないんだ。
高校の時、麻衣が転校してきた。その時、俺は麻衣に一目惚れしたんだ。あんなに可愛い子今まで見た事ないし、色々考えるより先に俺は麻衣に話しかけに行った。沢山質問して、沢山は話して、沢山一緒に居た。ずっと一緒に居たからきっと麻衣は俺の気持ちには気付いてるはず。それでも一緒に居てくれるってことは、少しは麻衣も俺を好きでいてくれるのかな…
この時はまだ、自惚れてたし希望に満ち溢れていた。
「ごめん、好きな人いるから」この一言で俺は失恋したのに、諦めたくなかった。「はるは王子様だから」麻衣は、その王子様をずっと一途に想い続けてる。それでも良い、それでも良いから麻衣の傍に居させてよ。
往生際が悪い。まさにその通り。振られたのに諦めきれなくて、どうしても麻衣の傍に居たくて…今は他に好きな奴が居てもいい。そいつとは会えないし両想いかも曖昧だし、だから、、いつか俺のことを好きにさせてみせるから。
あれからずっと俺は頑張ってる。麻衣に好きになってもらう為に4年も頑張ってきたんだ。それなのになんで今更『王子様』が邪魔すんだよ…
麻衣がずっと好きな相手はまさかの女の人だった。でも分かる、あれは『王子様』だ。どこか寂しそうな表情はきっと憂いを帯びた瞳のせいで、色白で綺麗な肌、傷んでいない黒髪のショートカットにスラッとしてるけど筋肉もしっかり付いた身体は、王子様と呼ぶには違和感が無かった。
きっとドラマならこの人が主人公で麻衣がヒロインだ。それくらい二人はお似合いで絵になる。俺なんて脇役もいいとこ。下手したら通行人かもしれない。あぁ…なんで、なんで今更、出てくんの? 俺から麻衣を奪いに来たの? 王子様がお姫様を助けに来たの?それなら俺、悪役じゃん…。
はるって人が女の人でもあんなに綺麗で格好良かったら俺なんて勝ち目ないじゃん。振られるの嫌だな…やばい、泣きそう。「今は駿斗と付き合ってるから」…うん、えっ? 麻衣、今なんて言った?
その後も麻衣はずっと「駿斗と別れる気はないから」そう言ってくれる。言い終わった後にいつも君がどこか寂しそうな表情をしている事には、ずっとずっと気付かなかったことにしておくよ。
麻衣が選んだのは、俺だ。王子様じゃない。俺なんだ。
やっぱりまだ諦めきれない。麻衣は誰にも渡さない。
麻衣が誰か他の奴を好きになっても俺は絶対にこの恋を諦めないから。
君の本心がどこか違う場所にあろうとも君の傍に居られるなら、君の嘘を俺はずっと信じ続けるから。