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第5話 人は皆どこか狡いの

 本心がどこにあるのか、どれが本心なのか「今」ばかりを大切にし過ぎて、私にはきっといつか神様から罰が与えられるだろう。


+++


想像もしなかった、はるが私を覚えてくれている事も好きでいてくれていた事も。

「はる、今日もここで勉強?」

「うん」

「そっか」

「麻衣は?」

「うーん、ここで読書する」

「そっか」

はるが優しく微笑んでくれる。あぁ…その笑顔が好き。

駿斗は、はるとの再会で私が別れたいと言い出すんじゃないかと心配している。でも、「別れたりしないよ」って私はいつもこう返す。

「麻衣が幸せならそれを壊したくないから、こうやって会えるだけで私は充分だから」私ははるのこの言葉に甘えるの…。何もしない、ただ図書館で会って、はるは勉強して私は隣で読書したり勉強したり。ただそれだけ。だからこれは浮気じゃない。大丈夫。きっと大丈夫なはず。

「はる」

「ん?」

「…はるさ、付き合ってる人いる?」

「今はいないよ」

「今は……じゃ、昔は?」

「いたよ。この前別れたばっかりだけど」

「男の人? 女の人?」

「女の人」

「……どんな人だった?」

「急にどうしたの?」

離れていた四年間で、はるがどんな人と付き合ったのか、どんな人がタイプなのか、全部知りたいの。

「知りたい、はるのこと知りたいの」

困った様に微笑むはるは、凄く綺麗で可愛い。そして私の大好きな優しい声で話してくれた。

「この前付き合ってた人は、年上の社会人」

「うん」

「たまたまバスケの大会を観に来てたらしくて、会場で話し掛けられたのがきっかけ」

「それってナンパじゃん…」

「ふふっ、そうだね」

「…どんな人?」

「背は同じくらいで目がクリっとしてる」

「性格は?」

「キツかったよ、我が儘だった」

「年上なのに?」

「うん、年上って感じはしなくてなんだか幼かったね。ギャップかな」

「…そう言うのがタイプなの?」

「全然」

「じゃ、どこが良かったの?」

「どこだろう…ないかも」

「じゃ、なんで付き合ったの?」

「好きって言われたから」

「えっ…」

「最低でしょ?」

そう言って今度は辛そうに苦しそうに微笑む貴女は何処かに消えてしまいそうで心配だった。

「…なんで」

「ん?」

「好きって言ってくれるなら誰でもいいの?好きでもない相手となんで付き合うの?」

「好きな人はいるよ、ずっと。でも、手の届かない所に行っちゃったから。…皆、代用品だよ」

「はる…」

はる、好きよ。私はずっと貴女が好き。だから、私以外の他の人に触れないで、あの優しい微笑みを他の人に向けないで…。

「今日はもう勉強やめる」

「えっ」

「ごめん、雰囲気悪くしちゃったね」

「はる」

「今のままだと麻衣に嫌われちゃうね…」

「そんなことない」

「…」

「はるを嫌いになるなんてあり得ない」

「…ありがとう」

「ねぇ、また会いたい」

「夏休みの間は殆どここに居るから」

「また、来てもいい?」

「うん、来て欲しい」

「メールもしていい?」

「うん」

「はる」

「ん?」

「もう好きじゃない人と付き合うのはやめて」

「…」

「苦しい…から」

「…分かった」

「ごめんなさい」

「麻衣は悪くないでしょ?」

「でも」

「彼を大切にね」

「…」

「じゃ、またね」

「うん、またね」

私はずるい。「好きじゃない人と付き合うのはやめて」そう言えばきっとはるは、私の言葉を守り続ける。付き合えない。だからって、好きな人を他の人に取られたくない。はるには、ずっと私を好きでいてほしい。私もずっとはるを好きだから付き合えなくても想い合っていたいの…。ごめんね、はる。


「好きです」

「……じゃ、付き合う?」

「えっ、いいんですか…」

「うん」

そう言って微笑むと皆喜んでくれる。麻衣が転校して以来、付き合ってる人がいない時に告白された時は断らずに誰が相手でも交際していた。麻衣がいない寂しさを埋めてくれるなら誰でもいい。傍にいてくれればそれでいい。気持ちが無いのに付き合っている事を見美侑はすぐに気付いて「そんなのおかしい」って、凄い勢いで怒鳴ってきたっけ。どれだけ怒鳴られても付き合うのをやめなかったから美侑も段々何も言わなくなった。ただ、悲しそうな顔をするだけ。それでも美侑は私を見捨てるどころか、ずっと味方でいてくれた。

「はるの傍にいるから」

この言葉に救われながらそこから抜け出すことが出来なかった。最低な友達でごめんね。美侑、本当にありがとう。


もしもし、はる?

美侑、今何してる?

家にいるよ

暇?

うん、暇。凄く暇

今から行っていい?

いいよ

ありがとう、じゃまた後で

はーい


こんな風にはるから突然電話が掛かってくることは珍しい。そんなことを思っていると部屋にインターホンの音が鳴り響いた。

「…早い」

「玄関の前で電話してたから」

「あれ、はる今日なんか機嫌良い?」

「そう?」

「うん、すっごい笑顔」

「美侑のこと考えてたら会いたくなって。だから会いに来た」

「えっ…」

やっぱり今日のはるはご機嫌だ。麻衣ちゃんと何かあったのかも。

「はる、何か飲む?」

「お茶がいい」

「了解、先に部屋行ってって」

「うん」

やっぱりいきなり会いに来るなんて珍しい。でも、あんなご機嫌なはるは、もっと珍しい。

「はい、お待たせ」

「ありがとう」

「何かあった?」

「うーん?」

「急に来るなんて珍しくない?」

「そうかな?」

「誤魔化さないで」

「…麻衣にさ、聞かれたんだ」

「何を?」

「会ってない四年間にどんな人と付き合ってたか」

「…何て答えたの?」

「ありのままを伝えたよ」

「麻衣ちゃんの反応は?」

「ちょっと怒ってた」

「だよね、そりゃ怒るよね」

「うん。あ、あと」

「なに?」

「もう好きじゃない人と付き合うのはやめてって言われた。だから、もうあんな事はやめる」

「……ねぇ、」

「ん?」

「麻衣ちゃんの言ってることは正しいよ。でもさ、なんで今更麻衣ちゃんの言う事聞くの?」

「えっ」

「だって私も止めた!でも、はるはやめなかった…」

「それは…」

「まだ好きなんでしょ?」

「…うん」

「相手は彼氏いるんだよ?」

「分かってる」

「分かってない! このままだったら、きっと麻衣ちゃんまたはるを好きになる…そうなったら彼氏と別れるんだよ? せっかく普通の恋愛してるのに……そんなのだめだよはる…」

ごめん、はる。これじゃはるが普通じゃないって言ってるみたい。傷付けたい訳じゃない。怒鳴りたいわけじゃない。ただ、二人が両想いになってほしくないだけ…。

「やっぱり普通じゃないよね」

「ごめん、言葉が悪かった…」

「美侑は、間違ってないと思うよ」

「…はる」

「皆、男女で恋愛するからね。私は昔から男女にこだわってないし、今も麻衣が好きだから…」

「はるが普通じゃないなら、私も普通じゃないよ」

「どうして? 美侑は健と付き合ってるし普通でしょ」

「付き合ってるよ。でも、本命はずっと違う人だって言ったら?」

「えっ、それって」

「はると一緒だね」

「…美侑」

「だから途中ではるに口出すのやめたの」

「…経験者だから言うけど、それ辛くない?」

「…うん、健には罪悪感もあるし本当に好きな人への想いは報われないし辛いかな」

「美侑」

はるに名前を呼ばれた。その優しい声にホッと安心して返事をしようと思っていたらはるに優しく抱きしめられてた。

「はる?」

「こう言う時ってさ、なんかぎゅってされると安心しない?」

「…する」

「罪悪感も虚しさも分かる」

「はるも辛かった?」

「少しね、湧いてこない愛情を作るのが一番辛かったかな」

「ごめんね、はる」

「なんで謝るの?」

「はるが辛い時、私何もできなかった…」

「安定剤。忘れた?」

「…ううん」

「美侑が傍にいるだけで救われてたよ」

そう言って優しく微笑みながらはるは、私に「ありがとう」って言ってくれた。胸がぎゅっと締め付けられる。苦しいのに幸せが溢れてくる。

「はる」

はるの名前を呼びながら、私もはるに抱き着く。ぎゅっと、はるとの隙間を無くすようにぎゅっときつく抱き着く。

「美侑、少し苦しい」

「やだ」

「甘えるなんて珍しい」

「はるからやったんでしょ」

「そうだね」

そうまた優しく笑ってくれる。大好き。


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