第3話 絶対なんて絶対ないよ
好きだった。だから耐えられた。
それなのに周りが過剰に心配して勝手に私を守ろうとした。
彼との待ち合わせは、なぜか図書館だった。
「なんで明日図書館?」
「涼しいから!」
「それだけ?」
「うん。なんで?」
「駿斗に図書館のイメージがないから」
「まぁ、図書館好きじゃないしね」
「じゃ、なんで?」
「静かすぎて逆に無理」
「本読むから静かでしょ」
「でも、無理。耐えられない」
「じゃ、図書館やめる?」
「いや、涼しいから」
「…まぁ良いや」
矛盾している彼の話に付き合うのが少し面倒で、正直待ち合わせなんてどこでもいい。
高校1年の冬に転校して新しい学校で出会った彼。クラスが一緒で転校初日から沢山話し掛けられて質問責めにあいながら一つ一つ質問に答えていたら段々と周りの人も話し掛けてきて初日から友達が出来た。だから、駿斗には感謝してる。
2日目も3日目も駿斗は私にガツガツ話し掛けてきて私はそれに答える。学校の敷地内をまだ把握できてないから移動教室も駿斗が一緒に居てくれた。気付けば一緒に居る時間が多かったから告白された時は別に驚かなかった。『 …やっぱりそうなんだ』くらいにしか思わなかった。でも、
「ごめん、好きな人いるから」
私は、はるが好きだから
「えっ…誰?」
「前の学校の人」
「付き合ってるの?」
「ううん」
「じゃ、その人に告白は?」
「したよ。両想いのはず」
「はず?」
「好きって言ってくれたから」
「でも付き合ってないんでしょ?」
「そう…だね」
「…よく分かんないんだけど」
駿斗には分からないよ。
「はるは王子様だから」
「はる?」
「その人の名前」
「ってか、王子様って」
「凄いモテるんだよ」
「そんなにカッコいいの?」
「外見だけじゃないよ」
「そっか…」
「私はお姫様じゃないから」
「…」
「はるとは釣り合わない」
「…それなら、俺は?」
「えっ?」
「俺となら釣り合う?」
「…」
「好きなんだよ麻衣のことが」
「でも」
「好きだから諦めたくない!」
「駿斗…」
「今は好きじゃなくていい。はるって奴を好きでいいからそばに居て欲しい」
はるの事をいつかは諦めないとってそう思ってた。『諦められる様に俺を利用していいから』私は結局、駿斗のこの言葉に甘えてしまった。
大学が夏休みに入ってすぐ彼からデートのお誘い。昨日決めた待ち合わせ場所の図書館へ向かう。待ち合わせよりだいぶ早く着いた。館内に入ると彼が言う通り涼しかった。あまり来た事ないし色々見て回ろうかな…。
静かな場所って落ち着く。ゆっくり考え事も勉強だって捗りそう。1階を歩いて回っていると中庭に池があるのを見つけた。池なんてあったんだ、知らなかった。ここまで奥に来ると人も少ない。池が見えるこのテーブルは穴場かもしれない、いい場所見つけたかも。
まだ時間あるしここに座って待ってよう。
そう言えば彼と付き合ってもう4年くらい経つ。それでもはるへの想いは消えない。駿斗には言えないけど、私の本命はずっとはるのまま。
はるを諦める為にはるを忘れる為に駿斗と付き合ったのに何も変わってない。
このままでいいのかな…
はる、もう1度貴女に会いたい。
バタンッ。急に後ろから大きな音がしてびっくりした。振り向くと後ろに居た人が持っていた本を落としたみたい。あんな分厚い本重いだろうな…
「大丈夫ですか?」
声を掛けてから分厚い本を1冊拾い、持ち主に渡そうとした瞬間、心臓が止まるかと思った。
はるはまだ私に気付いてない様子で、俯いて本を拾っている姿は高校生の頃よりも綺麗でカッコよくなっていた。
会いたかった、ずっとずっと会いたかった。
「はる?」
「えっ?」
急に声を掛けられて驚いた様子のはる。
「はる…だよね?」
「……麻衣?」
覚えていてくれた。名前呼んでくれた。会いたかった、はる。
まだ驚いた表情のはるを隣の席に座らせて私は、はるに色々質問をした。
同じ大学だったこと、バスケを続けてること、ここによく来ること、連絡先を交換できたこと、今日は嬉しい事ばかり。『また会える』そう思うと心臓をギュッと掴まれたみたいな感覚になる。私の心臓は今でもはるに掴まれている。
「麻衣、あのさ」
はるが何か言いかけた時、
「麻衣!」
駿斗がやって来た。あぁ…そっか、今日デートだ…。まだはると居たい。でも、そんな事言えない。どうしようって思っていたらはるが席を立って本を手に取った。
「はる?」
「そろそろ帰る」
やだ、まだ帰らないで、まだはると居たい。何か話さなきゃ…。
「待って、この人、仲野駿斗。私の彼。駿斗、この人が五十嵐悠さん」
とっさに彼を紹介した。
駿斗ははるに興味深々で話出す。
「麻衣がずっと高校時代に王子様がいたって言ってて」
「…王子様?」
はるの表情が変わった。あの頃と高校時代と同じ寂しそうなあの表情。やめて駿斗、はるを困らせないで…
はるはその後すぐ帰ってしまった。はる、また会えるよね?
「はるって女の人だったんだ」
「うん」
「でも、あれはモテるね」
「凄い人気だった」
「麻衣、あのさ」
「大丈夫だから」
「…」
「今は、駿斗と付き合ってるから」
「…うん」
はるが好き。でも、心の奥のずっと奥では分かってる。はるとは結婚ができないし、子供もできない。世間的にも批判が多いし親への目とか…
色々な問題があって付き合う事は出来ても『結婚』と言うゴールがない事をちゃんと分かってる。だから、4年も付き合ってくれている駿斗を今このタイミングで手離すことは簡単にはできないの…
はるへの気持ちはある。駿斗への気持ちはない。けど、世間体を気にしない程、私は強くなれなかった…
ごめんね、はる。ごめんね、駿斗。
私、最低な人間だ…