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第2話 図書館ではお静かに

 もしかしたらまた会えるかもなんて期待して、「またね」の続きをずっと待っている。

待っているだけじゃダメかな…。



「はる、この後どうする?」

「行きたい場所があるんだ」

「どこ?」

「図書館」

「好きだね、図書館」

「静かだからね」

「騒いだら怒られるからね」

「美侑は?」

「この後、[[rb:健 > けん]]と会うよ」

「デートか」

「う~ん、まぁ…」

「仲良しだね。もう付き合って二年?」

「うん、それくらい」

「…曖昧」

「年数には興味ないの」

「そっか」

「ご飯食べて行く?」

「健待ってるんでしょ?いいよ」

「健よりはると食べたい」

「なんで?」

「はるの方が好きだから」

ニコッと笑ってそう言う美侑。健、彼氏なのに可哀想…

「健が聞いたら泣くよ?」

「いいよ別に泣かしとく」

「ひどいね~」

「朝、優しいって言ったじゃん」

「差が激し過ぎ」

「はるは特別だよ?」

「ありがとう」

 美侑はいつも言う、『はるが1番だよ』って。じゃどうして健と付き合ってるの?健が好きだからでしょ?それなら私は1番じゃない。

「お腹空いてないからいい」

「練習後なのに⁉」

「うん」

「だから細いんだって!」

「筋肉あるから大丈夫」

「でも!」

「じゃ、図書館あっちだから」

「あ、はる!…またね!」

「うん」

 練習終わりでお腹が空かない訳ないでしょ。健が可哀想だから適当に誤魔化しただけで、かなり空腹ですよ。図書館に行く前にご飯食べに行こう。

 学校近くにあるカフェ。最近、一人でよく来るようになって店員さんともすっかり仲良しになった。キャーキャーと勝手に盛り上がって甲高い声を放つ人が苦手なだけで、いつも人間嫌いな訳じゃない。

「いらっしゃい」

「こんにちは」

「あ、練習終わり?」

「はい、もうクタクタです」

「じゃ沢山食べてね」

「はい」

「いつもの?」

「はい、いつもので」

「了解!」

 この優しい笑顔の持ち主は、店長のみどりさん。歳を聞くのはさすがに失礼かなと思って聞いたことはないけど、恐らく三十代前半。茶髪のショートカットが似合う可愛くて綺麗な人。このお店は、お昼はカフェで夜はバーの営業に切り替わるらしくて、夜はまだ来たこと無いけどきっと夜の店内も雰囲気は良さそう。

「はい、お待たせ」

「ありがとうございます」

「本当に好きなんだね」

「はい、好きです」

 いつも頼むオムライス

「そんなに美味しい?」

にこにこのみどりさん

「美味しいです」

その笑顔に釣られて自然と私も笑顔になる。

「嬉しい」

「料理も美味しいし、お店の雰囲気も良いし、みどりさんは優しいし、このお店大好きです」

「嬉しい! ありがとう!」

みどりさんと話してるとずっとにこにこしている気がする。

「美味しかったです」

「お粗末様です」

「また来ます」

「うん、待ってるね」

 お腹もいっぱいになったしそろそろ図書館に行こう。三階建ての大きな建物。

大学の図書館でありながら敷地の広さは国内一。本や資料の所有数もトップクラスを誇る我が校の図書館は一般開放もしているからいつも館内には沢山の人が居る。

 でも、ここは静かだ。『図書館ではお静かに』全てこの注意書きのおかげ。課題や読書をするには最高の場所だし、家だと色んな誘惑に負けちゃうから勉強する時は基本的にここに来る。席もいつも同じ決まった場所。1階の1番奥のテーブル。そこからは中庭の池が見えるしここまで奥の席だとあまり人がいない。だから、ここがずっとお気に入りの席。

「えっ」

 奥のテーブルに近づくといつも座ってる席に既に誰かが座っていた。

珍しい、普段このテーブルは誰も使ってないのに…。女の人…一人?どうしよう、近くのテーブルも既に何人か座ってるし人が多い所に移動はしたくない。でも、わざわざこんな奥のテーブルで隣に座るのも怪しまれるかもしれない…『他にも席あるでしょ』って思われそう…。

 面倒だな…もういいや。先に課題用の資料を探そう。館内を周り目的の本や資料を何冊も揃えた。普段なら難なく持てる重さだけど、、練習着やバッシュが入ったリュックを背負ったまま分厚く重い本を何冊も持つのはなかなか辛い。

 腕がやばい、練習後の疲れもあってぷるぷるしてきた。さっきの彼女まだいるかな…

出来ればいないで欲しい、やっぱりいつもの場所で勉強したい…。

一か八かの賭けでいつものテーブルに戻ってみよう。きっともうあの人は何処かへ行ったと期待を自分に言い聞かせて、思い足を動かしあのテーブルへ向かう。


 ……いた。

あの人がまだテーブルにいたことで賭けに負けたショックと腕の限界で持っていた本を落としてしまった…

床に落ちた本の音で、近くに居た数人がこちらに振り向き、またすぐ視線元の場所へ戻す。大きな音を出してしまい申し訳ない気持ちでいっぱいになりつつ、急いで本を拾おうとしゃがむと彼女が動いた気がした。

 あ、うるさかったかな?移動…する?まぁ、良いや。取りあえずこれでここの座って勉強できる。

「大丈夫ですか?」

「えっ?」

急に話し掛けられて今度は私が驚いてしまった。帰ったんじゃなくて本を拾うの手伝ってくれたのか…。大丈夫です。そう返事をしようと思って彼女を見ようとした時、

「はる?」

「えっ?」

「はる…だよね?」

 知り合いかな?そう思って彼女を見た瞬間ハッとした。

「……麻衣?」

「うん」

 頭が真っ白になるとはこの事だ。言葉が何も浮かんでこない。

「はる? 大丈夫?」

「え、あ、うん。大丈夫」

「はい、この本重いね」

「あっ、ありがとう」

麻衣は拾った本を重そうに抱えて渡してきてくれた。

「隣空いてるよ?」

そう言われ麻衣の隣に座る。早く帰って欲しいなんて酷い事を思っていてごめん。

「元気だった?」

「うん」

「今、何してるの?」

「ここの大学で天文学勉強してる」

「えっ…」

「ん?」

「私もここの大学だよ!」

「えっ…学部どこ?」

「法学部」

「そっか」

「ねぇ、バスケ続けてる?」

「うん、今も練習終わり」

「そっか~、続けてるんだ」

「…同じ大学って知らなかった」

「そうだね」

 そう言って笑う君の頬は、あの頃と違って赤くなる事はなかった。

「はる」

「ん?」

「ここ良く来るの?」

「うん、基本ここで勉強してるから」

「じゃ、また会えるね」

「…そうだね」

「携帯」

「えっ?」

「一応…連絡先知りたい。だめ?」

「いいよ」

お互いの連絡先を交換した後に麻衣は、

「これでまた会えるね」

そう言った。言いたい事も聞きたい事も沢山ある。なのに上手く言葉が出てこない。

「麻衣、あのさ」

「麻衣!」

「あ、[[rb:駿斗 > はやと]]」

「ごめん、遅くなった」

「遅いよ…」

「ごめんって」

「まぁ、許すけど…」

「ありがとう」

 …彼氏かな。なんだか急に寂しくなってもう今日は勉強とかいいや。帰りたい、本戻しに行こう。

「はる?」

「そろそろ帰る」

「待って、この人、[[rb:仲野 > なかの]][[rb:駿斗 > はやと]]私の彼。駿斗、この人が五十嵐悠さん」

「えっ、あの五十嵐さん?」

「あの?」

「麻衣がずっと高校時代に王子様がいたって言ってて。だからどんな人かなって気になってたんですよ」

「…王子様」

「麻衣の言ってた通り綺麗でかっこいいですね!」

「周りが勝手に盛り上がってるだけで…」

「いや、イケメンですってモテるでしょ?」

「駿斗、はるが困ってるから」

「え、あ、すみません」

「いえ、じゃ」

「またね、はる」

 あの時の麻衣がふと頭に浮かぶ『…好き。ずっとはるが好き』ずっとって言ってくれたのに…。信じてた、麻衣の言葉をずっと信じてた。だから、もう1度会いたいと思い続けてきた。麻衣が傷付く原因は私で離れる原因も私だった。それでも、好きな相手にずっと好きって言ったなら好きでいてよ…。


 裏切られた、そんな感じがする。

だめだ、なんかもうどうでもいい。やっぱり恋愛なんて暫く関わりたくない。

恋なんてするもんじゃない。

いつも傷ついてばかりじゃないか。


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