最終話 好きな人に好きな人がいても好き。
諦めることを諦めてみたら、きっと何かが変わるだろう
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「あっ」
「えっ?」
「あんた確か五十嵐さんの……」
「あぁー、あの人の……」
「一人?」
「そうだけど」
「五十嵐さんは?」
「……知らない」
「なんで」
「……別れたから」
「えっ?」
「だから、はるとは別れたの!振られたの!」
「そっか……」
「あんたこそあの人は?」
「知らねぇ」
「なんで?」
「俺も別れたから」
「えっ……、振られたの?」
「違ぇよ、振ったんだよ」
「なんでよ……」
「麻衣は俺といる時いっつも頑張ってた、好きじゃない奴を必死に好きになるためにずっと頑張ってた……。そうゆうの見てるとすげぇ虚しいんだよね」
「……」
「でもさ、最初の頃は、いつか俺を本当に好きになってくれるってそう信じてたし、そう自分に言い聞かせてた」
「じゃ……最後まで信じなさいよ。途中で諦めないでよ!ずっとあの人を引き止めててよ!なんで、なんで……」
「もう無理だったんだよ」
「……」
「もう、あいつは俺を見てなかった。無理やり引き止めるのも限界だったんだよ」
「どうして私たちじゃだめだったんだろう」
「運命の人じゃなかったんだよ、俺たち」
「……」
「でもさ、そんなすぐ諦められねぇよな」
「…う…ん」
「俺、まだ好きだわぁー」
「私も……」
「俺ら、寂しいな」
「……うるさい」
俺たち、私たちは、好きな人に好きな人がいても好き。
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九十八対九十八
第四クォーター 残り二十秒
ハア……ハア……
身体が重い、私ってこんなに体力無かったっけ、このまま延長戦になったらやばいな……
「はるー、頑張って!」
「……麻衣?」
「はる! 頑張って‼」
「……うん!」
まだやれる、まだ走れる。麻衣にカッコ悪いところ見せられない。やってやる!
「はる! パス!」
シュッ
ダンっ、ダンッダン
走れ!走れ!もっと早く走れ!
手からボールが抜けないようにドリブルをしながら頭では自分自身に早く走るように言い聞かせる。
残り八秒
六秒
四秒
シュッ
入れっ!!
「はる!!」
ピーッ
ひと際大きな声援、ため息、歓声、泣き声、勝者の笑みと涙、敗者の涙と悔しさ。今この体育館にはどれだけの感情があるんだろう。私は何を思っているんだろう。
「はる!」
「麻衣、観に来てくれてありがとう」
「うん! 最後格好良かったよ」
「ありがとう。麻衣のおかげだよ?」
「えっ?」
「正直、結構バテてて辛かった。でも、麻衣の声が聞こえて格好悪いところは見せられないなと思って最後も頑張れた。だから、麻衣のおかげ。ありがとう」
「嬉しいけど、なんだか照れるね」
「そう?」
「うん、照れる」
「照れてる顔も可愛いよ」
「……恥ずかしいから」
「うん、可愛い」
「……はるは格好良いよ、誰よりも格好良かった」
「照れるね」
「でしょ?」
「うん」
「おい、そこのバカップル」
「えっ? あっ」
「こんな公共の場でイチャイチャすんな」
「仲野くんヤキモチ?」
「なっ‼ ちげぇーよ」
「駿斗顔赤いよ?」
「ちょっ、麻衣まで……」
「ばか……」
「あっ?」
「からかわれ過ぎ」
「だってこいつらが!」
「むきになって相手のペースになってじゃん」
「由依は相変わらず冷静だね」
「そうかな」
「うん、由依らしいよ」
「……試合良かった。オフェンスもディフェンスも良かった」
「由依に褒められると嬉しい」
「うるさい」
「あ、照れた?」
「うるさい! ばか!」
「そっかそっか」
「……んん」
「いや、お前もからかわれてるじゃん」
「うるさい!」
「嬉しい」
「ん? はる?」
「こうやって由依と仲野くんと四人で居られることが嬉しいなって」
「確かにそうだね、二人とちゃんとまだ繋がっていられる。それって有り難いことだよね」
「なんか勘違いしてね?」
「えっ?」
「情とかじゃないから」
「そう、そんなんじゃないから」
「俺たちは、」
「私たちは、」
「「まだ好きだから」」
好きになってしまったら仕方がない。もうどうしようもない。どうすることもできない。
だから私たちは、この【好き】に素直に向き合うことにした。好きな人に好きな人がいても好き。
あなたは、好きな人に好きな人がいたらどうしますか?