第16話 好きが溢れる苦しさ
二人の会話は少しだけ聞こえていた。もう俺には無理かもしれない、どんなに頑張ったって麻衣はあの人の事しか想ってない。
このままでいいのか……
麻衣は本当に俺と居て良いのか、本当の幸せって……
「なぁ、麻衣」
「ごめんね」
「えっ?」
「折角の花火大会だったのに……」
「あぁ、いいよ。それよりさ」
「……」
「別れよっか」
「えっ……」
「俺、麻衣の事すっごく好きなんだよね。好きな人には幸せになって貰いたいじゃん?俺といる時いつも頑張ってたでしょ。もう頑張らなくて良いから、 あの人にちゃんと気持ち伝えて幸せにしてもらえよ、なぁ?」
「駿斗……」
「いや、正直まだめっちゃ好きだから!でも、俺じゃ無理ってちゃんと分かった。だから……だから」
「……ありがとう、駿斗」
「……おう、別れたら話さなくなるとか無しな。なんかあったらいつでも相談のるから。 頑張れよ、麻衣」
「ありがとう、ありがとう駿斗」
優しさが苦しかった。駿斗の優しさが苦しかった。
私は本当に最低な彼女だったね、本当に本当にごめんね。涙が溢れて視界が滲む。これは何の涙なのか自分でも分からないまま暫くの間、止めることは出来なかった。
「涙止まったか?」
「うん、ありがとう」
「泣き止んだなら、行ってこいよ」
「……うん」
「大丈夫、大丈夫だから。なぁ?」
「うん……、はるの所に行ってくる」
「あぁ、頑張れ」
「駿斗、本当にありがとう」
そう伝えると彼は照れ臭そうに微笑んだ。貴方がくれた告白に対して「はい」と答えた時と同じように彼は優しく微笑んでくれた。
はる、私はもう逃げないよ。だからもう一度、好きと言わせて。
「……はい」
「もしもし」
「麻衣……、どうしたの?」
「話したい事があって」
「……私もある」
「えっ、あ、うん」
「今どこ?」
「今は……、図書館の前」
「分かった、行くからそこで待ってて」
「うん」
駿斗と別れても無意識に歩いていたらはると再会した図書館まで来ていた。これも運命……なのかな――そうだったら良いのにな。
「麻衣?」
優しい声、はるの声だと振り向かなくても分かる。
「ごめん、遅くなった」
「走って来たの?凄い汗」
「夜だし一人で待たせるのは悪いと思って」
「ありがとう」
走って来てくれたはるは、額と首筋に汗をかいてせっかくセットした髪も少し崩れていた。
「ありがとう、はる」
「えっ?」
「走って来てくれて、ありがとう」
嬉しくて、走って来てくれた事が嬉しくて愛おしくてたまらなかった。だから、そっとはるに抱き付いた。心から【好き】が溢れてしまいそうになる。
「麻衣? どうしたの?」
「……はる」
「ん?」
「……別れた」
「えっ……」
「駿斗と別れたの」
「……いつ?」
「さっき」
「……」
「はる?」
「私も別れたよ」
「……うそ」
「嘘じゃないよ」
「なんで、どうして?」
「由依……、彼女と居てもやっぱり麻衣の事を考えちゃうし、麻衣が他の誰かと一緒になるなんて想像しただけで苦しくなる。麻衣にはずっと私を好きでいて欲しい。私もずっと麻衣を好きでいるから」
「嬉しい 私もはるが好き」
「彼氏は……いいの?」
「うん、はるとのこと頑張れってそう言ってくれたの」
「そっか……、優しい人だね」
「うん」
「ねえ、はる」
「ん?」
「ずっと結婚とか親や周りの目を気にしてた。でも、もうそんなことから逃げない。私もはるが他の人と居るところなんて見たくないし考えただけで苦しいの。結婚が普通の幸せかもしれない。でも私はそれじゃ幸せになれないってやっと分かった」
「麻衣……」
「はる、ずっと私の傍に居て?もう離れたくない、誰にも渡したくない」
「うん、居る。ずっと麻衣の傍に居る。私も誰にも渡さない」
「好き、大好きはる」
「大好きだよ麻衣」
「「付き合ってください」」
「ふふ、はい」
「宜しくお願いします」
やっとまた貴方と恋ができる。