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第13話 君想う愛の嘘

目には見えなくても 消えない事実は、【ここ】にある。

忘れるなんてできないよ、忘れたくないから


+++


 忘れよう 無かったことにしよう?

 どうして。どうしてそんな事を言うの? 嬉しかったのに……

 「麻衣の幸せを邪魔したくない…から」私、今幸せだよ、はるが居てくれるから幸せなのに、どうしてそんなに辛そうな顔をするの? はる、どうして……

 「もう会うのはやめよう」はるが放ったこの言葉はとても難しくて、すぐにはその真意を理解したくなかった。夢だ、きっとこれは夢なんだ。はるとキスをしたのも、はるがこんな事を言うのも、きっと全部……夢。


「はる……」

 どこかに行ってしまったはるにもう一度話がしたいと伝えたくて電話を掛けようと思い携帯を取り出したけど、画面に表示される五十嵐悠の文字を見ただけで、また涙が溢れてくる。どうして、ねぇ、はるどうして……


「麻衣」

「……一也」

「どうした? 何があった?」

「っ……」

「泣くなよ、何があった?」

「っ……」

「なぁ、体調悪いとか?」

「……はる」

「えっ?」

「はるに会いたい」

「はるって、五十嵐さん?」

「……はる……はるに会いたい」

「なんで五十嵐さんなんだよ。なにがあったんだよ麻衣」

「……っ」

「……なんで話してくれないんだよ」

「……」

「もういい。そんなに会いたいなら連れてきてやるよ」

 そう言って一也は、何処かに行ってしまった。一也にはるのことは話したくない。私とはるだけの秘密だから…。

連絡先も知らないのに連れてくるなんて無理だよ。それにはるは、一也のこと嫌っているはずだから一也には無理だよ……。

 はる、なにがだめだったのかな…

 ずるくてもいいじゃん。私はそんなに綺麗に生きられないよ。

 罪悪感なんて感じないで、私だけを想っていて欲しかった。


「麻衣」

 どれくらい時間が経っただろう。気付けば一也が戻って来ていた。

「一也……」

 一也、なんで泣いてるの?

「ごめん、五十嵐さん連れて来れなかった」

「……はるに会ったの?」

「図書館の前でたまたま見つけて……」

「……」

「なぁ、あの人何考えてるか分かんねぇ。凄く大人に見えるって言うか、俺なんかじゃ何やっても敵わない気がする……」

「はるには誰も手が届かないよ……、はるとなに話したの?」

「何も。あの人も何も言ってくれなかった。ただ、麻衣の所に行ってあげてくださいって」

「……そっか」

「ごめん、力になれなくて」

「一也のせいじゃないから気にしないで。私も、もう大丈夫だから」

「……帰ろう?」

「……うん」

 なにも無い。はるの居ない世界なんて私にはなんの意味も無い。はるが全てだったのに私は、今日全てを失ってしまったも同然。貴女なしではきっと私はもう幸せにはなれない。



「おはよう」

「おはよう、はる」

「今日どこ行くの?」

「まずは、映画館」

 昨日から付き合うことになった私たち。はるが麻衣さんを好きな気持ちは、きっと本物。でも、それでも構わない。少しでも私を好きでいてくれるなら、私はこのチャンスを逃さないように頑張るだけだから。いつか麻衣さんよりも私を好きになってもらって、ちゃんと両想いになれるように…。

「由依」

「ん?」

「やっぱり私服可愛いね」

「えっ」

「バスケの時とは雰囲気違うから。なんか照れちゃうね」

「っ……」

「あ、照れた?」

 意地悪そうに、でも優しく笑うはるは凄く綺麗だった。私たち、本当に付き合ってるんだよね?ドッキリとかじゃないよね?信じて良いんだよね?

「由依、怒った?」

「そんなに分かり易くシュンとしないでよ」

「……だって由依急に黙り込むから」

「不思議な感じだなーって思ってたの」

「不思議?」

「本当に付き合ってるのかなって」

「不安?」

「……うん」

「……そっか」

「ごめん、別にはるが悪い訳じゃないのに」

「でも、不安にさせてるのは私だから」

「違う、私が勝手に」

「……由依」

「ん? はる?」

「……」

 はるに呼ばれて振り向けば急に抱きしめられた。でも、はるは何も言わない。

「はるどうしたの?」

「……怒らないでね?」

「えっ、なに?」

「不安になってるの可愛いなって」

「っ……」

「好きでいてくれてるって分かって、それが嬉しくてにやけちゃう」

「……人が真剣に悩んでるのに」

「だから怒らないでって。好きだよ、由依」

「……ずるい」

「好き」

「私も好き」

「うん、知ってる」

「うるさい」

 抱きしめられてるからはるの顔が見えない。見たい。今、どうしてもはるの表情が見たい。

「はる」

「ん?」

「大好き」

 貴女を見上げてそう呟けば、返事の代わりに優しく微笑んでくれた。私は今、涙が出そうなくらいに幸せだと思った。


「街中で抱き合うのは恥ずかしいね」

「……うん」

「皆、見てたね」

「はるのせいだから」

「あんな顔する由依が悪い」

「あんな顔ってなに?」

「泣きそうな顔してた」

「……だって不安って言うか心配って言うか」

「きゅんって言うか、なんか心臓掴まれたみたいに苦しくて、好きって思ったら抱きしめてた」

「……」

「あ、キモい?」

「……違う」

「ウザい?」

「違うってば! ……嬉しい」

「えっ?」

「私ばっかり好きだと思ってたから、はるがそんな風に思ってくれた事が嬉しい」

「ちゃんと好きだよ。じゃなきゃ付き合ったりしない。麻衣の事を気にしてるなら心配しないで。由依と居る時は、由依の事しか考えてないから」

「…私と居ない時は?」

「うーん、バスケの事とは部員の事、あとは大学の事とかかな?」

「……」

「本当だって」

「本当?」

「はい」

「怪しい」

「本当だって、今だって由依との事しか考えてないよ?」

「……」

「可愛いよ」

「……うるさい」

 優しく微笑んでくれるはるについ意地悪しちゃうし言葉遣いも悪くなっちゃうけど、それでも可愛いと言ってくれる。本当に本当に大好きだよ、はる。


「選抜の練習大変?」

「大変って言うか周りが皆、上手くて焦る」

「はるも充分上手いと思うけど」

「そんな事ないよ。あ、そうだ、今度の花火大会一緒に行こう?」

「え、うん」

「花火デートだ」

「なに?」

「うーん、なんか青春っぽいなと思って」

「確かに」

「由依は夏祭りデートとかしたことある?」

「あるよ」

「どうだった?」

「どうって……」

「聞きたい」

 悪戯っぽく笑うはるがなんだか幼く見えてつい昔の話をし始めた。

「高校生の時に付き合ってた人は、先輩で少しヤンチャな人だった」

「意外。そう言うの嫌いそうなのに」

「その時は、好きだったから」

「そうなんだ」

「で、かき氷とかたこ焼き買って食べて、ベンチで花火見て帰り先輩の家行って泊まった」

「ふーん」

「ふーんって聞きたいって言ったくせに反応薄くない?」

「……泊まるってのがなんか」

「なに?」

「泊まっただけ?」

「えっ」

「泊まっただけ?」

「えっ……なんで」

「もしかして、した?」

「……」

「由依?」

「べっ、別になにもないってば」

「本当に?」

「なんでそんな――」

「元彼が何人居たか知らないけど、その人達と何したかは知りたい」

「なんで……」

「誰かが由依に一回キスしたなら、私は由依に二回キスする。他も同じ」

「えっ…」

「由依が思ってるより私は独占欲が強いんだと思う」

「はる……」

「あ、映画館着いた」

「えっ、はる」

「キスはまた今度ね」

「ッ…ばか」

 はるにならどれだけでも独占されたい。そんな事言えばきっと驚くだろうな。私だって独占欲強いんだからね。だから覚悟しててよ。


 誰かの悲しみのうえに誰かの幸せがあるとするならば、私はどんなにずるくても幸せでいたい。私は人に幸せを譲れるほど、優しい人間ではないと思い知った。



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