表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/17

第10話 これが貴方の為なら

私からはできないの。だから、貴女から私を突き放して

私に傷を残して。



「はる?」

「おはよう、麻衣」

「……その人、一緒?」

「え? あ、うん。同じバスケサークルの子」

「一緒に来たの?」

「うん、今日この子のレポート手伝う事になってて」

「…そうなんだ」

「麻衣は読書? 勉強?」

「うーん、読書かな?レポートやるのに寝てて良いの?」

「昨日まで合宿だったからね。疲れが溜まってるのかも。起きたらレポートやる予定だよ」

「ふーん、じゃさ、それまではるは私の相手してよ」

「相手?良いよ。何する?」

「お話しよ?」

「何話す?」

「合宿どうだった?」

「練習は凄いハードだった。自分の体力の無さも技術の低さも痛感したし、まだまだ下手くそだな〜って」

「ねぇ、それ二年でレギュラーの人が言う台詞じゃないよ? 他の人からしたら嫌味だよ」

「えっ⁉︎ いやそんな嫌味とかじゃなくて、まだまだ自分では納得出来なかったって言うか、 もっと努力しなきゃって刺激されたって言うか」

 慌てたはるが焦ってそんな事を言い出すから

「…うるさい」

ほら、やっぱり起きちゃった。

「あ、ごめん由依 起こしちゃった?」

「うん、はるうるさい」

「ごめん」

 別にそんなに大声出してた訳じゃないのにその子にうるさいって言われてあからさまにシュンとして凹むはる。もう少し 、二人で居たかったのに残念。

「……はる」

「ん? あ、高校の同級生の高嶺麻衣さん」

「初めまして」

「で、こっちが大学で同じサークルの[[rb:矢野由依 > やのゆい]]さん」

「初めまして」

 違うでしょ、はる。ただの同級生じゃないよ私達。

「“同級生”だけ?」

「えっ?」

「なんでもない」

 初めて見た。何か悪い事を企んでいるかの様な麻衣の笑顔は初めて見た…。“お互いの初恋の相手”なんて言えばきっと由依は驚いちゃうよ。

「はる、レポートやる」

「あ、うん。始めよっか」

「はる、私もここで読書して良い?」

「由依、良いよね?」

「…うん」

「良いって」

「ありがとう、はる」


 昨日は、全然寝れなかった。本当は早めに寝て体調も万端にしたかったのに「なに着て行こう…」って、はるに会う時は、練習着かジャージだから私服なんて殆ど見せた事ない。見た事ない。学部が違うから校舎違うし学内でも会わないし……もうなに着ればいいの。

 結局、雑誌に載ってた“このコーデなら間違いなし!”って言うやつをそのまま着ることにした。この決断をした時にはすでに夜中の二時過ぎ。急いでお風呂に入ってスキンケアも入念にして気付けば三時半過ぎ…。

 いざ寝ようとベッドに入っても寝れなかった。好きって認めてからはると “二人” で会うことにこんなにドキドキするなんて。

「私らしくない…」

 目を閉じれば、はるの優しいあの笑顔が浮かんでそれにまたドキッとして

「……寝れない」

 結局殆ど寝れずに朝になった。服に合わせて髪も少し巻いて普段よりしっかりメイク。間違いなしって書いてあったからたぶん変じゃないはず…。

 大丈夫、たぶん大丈夫。きっと、変じゃない。

 なんとか図書館まで来たけど、全く眠れなかったせいで眠い。

「おはよう」

 あぁ、はるは朝から爽やか。せっかくお洒落して髪も巻いてメイクもしたのに眠くてしっかりはるを見ることもできない。

「レポートやる前に少し休もっか」

ごめんね、私のレポートなのに…。


 はるの声がする、誰かと話してるのかな…誰?

 はると楽しそうに話してる人、学内で見たことある人だ。はるの知り合い? へぇ、高校の同級生なんだ。でも、なんかこの人嫌な言い方してた。“同級生だけ?”他になにがあるんだろう…。元恋人とか? 分かんないけど、もしそうならなんか嫌だ。ってか、元じゃなくて “恋人” とか? えっ、嫌だ。嫌。

 早くレポート作成始めよう。はる、もうあの人と話さないで…私とレポートやろう?

 そう思ってはるに声を掛ければ、あの人は、はるにここに居て良いか聞いてて、はるは私にそれを確認する。私が嫌って言ったら断ってくれたのかなって一瞬思ったけど、きっとはるは断らない。だって、はるは優しいから。

 あの人が困ったり悲しむ事は、きっとしない。はる、私に嫌って言う選択肢は無いんだよ? はるの優しさを私は知っているから。そんな優しさが好きなんだけどね。


「由依、ここの文章使ったら?」

「ん? どれ?」

「これ、分かりやすい例えじゃない?」

「確かにこれ良い」

「あとはー、こことか」

「うーん、ここはもう少し噛み砕きたい」

「うーんじゃ、こんなのは?」

「あ、それいい」

 元々少しずつレポートを進めていたから案外順調な由依のレポート作成。麻衣も隣でずっと本読んでるしなんだろう、今この空間が凄く幸せだなって感じる。

 でも、読書に飽きたのか、麻衣はたまにうちにちょっかいを出し始めた。私の太ももにそっと右手を置くとか、私の左肩に自分の右肩をくっつけるとかちょっとしたスキンシップ。麻衣が隣に居るって実感できるからこの些細なスキンシップが嬉しい。

「ごめん、ちょっとトイレ」

「うん、じゃ少し休憩にしよっか」

「うん、ありがとう」

そう言って由依はトイレへ。

ゴンッ

「痛っ、え? 麻衣?」

「かまってよ…」

 トイレへ向かう由依の後ろ姿を見ていると麻衣がうちの左肩めがけて頭突きをしてきた。

なにこれ可愛い

「本読んでたんじゃないの?」

私の肩におでこを付けたまま

「本よりはるがいい」

なんて言われたら思わず笑みがこぼれる。

「麻衣」

「なに?」

「可愛すぎるよ」

「えっ…」

「照れた?」

「だって、はるが急に…」

「ずっと私の肩にくっ付いてるの凄く可愛いなーと思って」

「んッ…」

「ふふ、また照れた?」

「…はる」

「ん?」

 麻衣の方を向くと目を潤ませながら真っ直ぐに見つめられる。綺麗な瞳が潤んでその奥にはなにか熱でもあるかのようななにかを求めるかのような。

「はる」

 好きだ、この人が好きだ。

まるで心を持っていかれるような感覚に襲われていると気付けば二人の唇は触れていた。

「ッ! ごめん!」

ハッとして麻衣から離れようとすれば、

「行かないで…」

 両手でうちの頬を包み込む様にして麻衣はそう言った。

 だめだ。そう思っていても麻衣の声が麻衣の目が麻衣の手が麻衣の体温が逃してくれない。

 あぁ……ごめん。麻衣に対してなのかあの彼氏に対してなのか美侑に対してなのか自分に対してなのか、誰に対して言っているのかも分からないまま心で『ごめん』と繰り返しながらまた唇が重なる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ