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第1話 いつだって失恋中

「ごめん、やっぱりはるとは付き合えない」

 この言葉はもう聞き慣れた。今日も雨が降りそうな暗い空なのにまだ雨は降ってない。どうせなら降ってくれれば良いのに。空がかわりに泣いてくれればいいのに…。


 黒髪のショートカット、色白、細身で適度な筋肉、身長も低すぎず高すぎず丁度良い、カジュアルモダンな服装、いつもどこか寂しそうな瞳、たまに見せる笑顔は優しさと可愛らしさ満載、勉強もスポーツも成績優秀。

 よく周りの人は、私の事をこんな風に話している。実際そんなに出来た人間じゃないから勝手に過剰評価されることにはもう嫌気がさす。こんな風に勝手なイメージを持たれるようになったのはいつからだろう。記憶を辿ってみたら小学生まで辿り着いた。

 そっか、ミニバスを始めた頃だ。体を動かすのが好きで小学校4年生からミニバスのチームに入った。走り回るから髪はバッサリショートに。成長期になると身長はどんどん伸びて、男子みたいなイタズラはしないから付いたあだ名は、『王子』

 女子にキャーキャー言われ勝手に王子様ポジションになり、劇があればそれこそ王子役。内心ずっと男子もっと頑張れよってずっと思ってた。

 それなのに周りの女の子たちは、「はるには男子も勝てない」とか、訳の分からない事言ってたっけ。

おかげで、ずっと男女両方に告白された

 不思議と自分の中に男女じゃなきゃ恋愛しては駄目なんて概念は無かったから高校生の頃から女の子とも付き合う様になった。女の子が好きではなく、女の子も好き。可愛い笑顔や仕草、小動物みたいな感じに良い匂いもするし泣顔とかキュンとする。

 だからか、気付けば男の子にも可愛さを求めるようになった。筋肉はそんなに要らないし出来れば料理やスイーツが好きな男性が良い。最後に彼氏いたのいつだっけ……高校一年の冬が最後かな……。

 それ以来、彼女ばっかりだ。


「はる」

「おはよう、美侑」

「おはよう」

 声を掛けてきたのは大学で同じゼミの美侑。美侑はバスケサークルの美女マネージャーでもある。

「あ、そうだ。別れた」

「えっ……そっか」

「理由はいつもと同じ」

「そっか…」

「大丈夫」

 そう言って美侑の頭にポンッと手を置いた。

「美侑は私より悲しそうな顔するよね」

「はるが幸せじゃないと悲しいから」

「ありがとう。優しいね」

「はる以上に優しい人はいないよ…」

「そんな事ないよ」

「そんな事ある」

「…ありがとう」

「練習始まるよ、行こう?」

「うん、行こっか」

 私は大学でもバスケを続けている。楽しいし試合中は集中してるから周りなんて気にならない。周りを気にしないで済む事が何より幸せだった。

 体育館に着くと既に観客でいっぱい。

「今日…多いね」

「夏休みに入ったから他校の人たちもいるみたい」

「そっか」

「はる」

「大丈夫、集中するから」


「はるさーん!」

「キャー!」

「はる君カッコいい」

「はるくーん!」

「はる君頑張れー!」

 言われなくても頑張るよ。あぁ、だめだ。今日はなんだか全然集中できない。

 声援は有り難い。でも、純粋な応援じゃないなら正直来ないで欲しい。こんな風に人を嫌う様になったのは高校の頃からだ。高校生になった途端、女子から告白される事が増えた。

「どうして私?」

 告白してくれた子たちにそう聞くと皆決まって、

「はるカッコいいし優しいから」

「そっか、でも女だよ?」

「はるって中性だから」

「だから?」

「はるとなら付き合える」

 そう言う。付き合っていない子からもチヤホヤされることが多くて初めは嬉しかったけど、

「モテるからって調子乗るなよ」

「そんな事ないよ」

「その態度もムカつくんだよ」

「じゃ、どうすればいい?」

「ウザいから笑うな」

「…そっか」

 虐めって程じゃない、たぶん嫉妬ってやつ。私の事を好きじゃない人や良く思ってない人も当たり前のようにいるから陰口だって言われることもある。放っておけば良いのに言わせておけば良いのに

「はるの悪口言わないで」

「はるを虐めるなんて許さない」

 気付いたらできていた『はる派 対 反はる派』毎日周りで言い合いばかりで、裏では本当に虐めみたいな事も起きていて、それを知った時はさすがにショックだった。

「ごめんね」

「はるは悪くないよ」

「でも…」

「好きな人を悪く言われるの嫌だから」

「…」

「好きだから、はるのこと」

「…」

「ごめん」

「ううん。ありがとう」

「…はる笑わなくなったね」

「…そう?」

「うん、いつも辛そう」

「そんな事ないよ」

 この子顔は見たことあったけど、名前は知らない。たぶん同級生。

 その子の頭にポンッと手を置く。

「これからも好きでいてね」

「いいの?」

「好意を持たれるのは嬉しいから」

「…好き。ずっとはるが好き」

「ありがとう。ねぇ名前知りたい」

「…やっぱり知らないか」

「ごめん」

「大丈夫、高嶺麻衣です」

「綺麗な名前だね」

「そうかな? はるの方が綺麗だよ」

「そう?」

「五十嵐悠」

「皆最初は、ゆうって間違える」

「確かに私も最初ゆうだと思ってた」

「だよね」

「はる」

「ん?」

 返事をしたけど、麻衣は俯いたまま黙ったまま。

「麻衣?どうかした?」

彼女は頬を赤らめ顔を上げた。

「名前…呼んで欲しくて」

「ごめんね、気付かなくて」

また麻衣の頭に手を乗せる。

「……好きかも」

「えっ」

「麻衣のこと好き…かも」

「はる」

「話してるうちに好きだなって思った」

「本当?」

「うん」

「私も好きだよ、はる」

「うん」

「はる、私ね」

彼女が何か言いかけた時、

「はる! 練習始まるよ!」

チームメイトが遠くで叫んでる。

「ごめんね、もう行くね」

「あ、はる!」

「またね、麻衣」


 また会える、明日になればまた会えると思って麻衣の話の続きは明日聞けば良いと思って、呼び止める麻衣に背を向けて走って体育館に向かった。だけど、次の日麻衣には会えなかった。

 麻衣との共通の友達を見つけ出し休みか聞いてみたら

「麻衣ちゃん転校したよ」

「えっ…」

「昨日が最後の登校日だったの」

「…そんなの聞いてない」

「じゃ、転校の理由も知らない?」

「うん。なに?」

「…虐められてたから」

「えっ…それって」

「はるのせいじゃないよ」

「でも!」

「はるを悪く言うアイツらが悪いんだよ」

「何で言ってくれなかったの…」

「はるに迷惑かけたくなかったから…」

「なんで…」

「麻衣ちゃん本当にはるの事好きだったから」

「…」

「本当にはるは悪くないからね」

「連絡先分かる?」

「それが朝から誰も連絡取れなくて…」

「…そっか」

「はる? 大丈夫?」

 そのあとの友人との会話は覚えていない。


 きっとあれが初恋だった。それなのに自分のせいで相手を傷付けて苦しめてたなんて、最低過ぎる。それ以来、チヤホヤされるのも注目を浴びるのも嫌だった。高校は苦い思い出しかない。だから、大学生になった今も見た目だけでキャーキャー言ってくる様な人たちは好きじゃない。バスケを純粋に楽しんで欲しいし応援して欲しい。

 それなのに、この体育館には不純な気持ちばかりだ。

「はる……、はる!」

「……ん? なに美侑?」

「ぼーっとしてる」

「ごめん」

「また麻衣ちゃんの事?」

「……うん」

「試合までまだ日にちあるけど、気を抜かないで集中!」

「うん、ごめん」

 麻衣との事を唯一知ってる美侑。あの時、共通の友人で麻衣の行方を聞いた相手が美侑だった。それをきっかけに以前よりも話す機会も増え、今では親友と言える仲になった。

 美侑に注意された後は、周りの声なんて気にならない程、練習に集中してシュート練習も三対三もオフェンスもディフェンス練習も体がクタクタになるまでやりこんだ。

 練習時間が終わりチームメイトは帰宅の準備を始める。

「はる、今日も残る?」

「うん、シュート練習する」

「付き合うよ」

「ありがとう、美侑。ねぇ、まだいる?」

「うん、少しいる」

「…外にもいそうだね」

「出待ちだね」

「待ってても何も無いのに」

「…はるを一目見れるだけで十分なんだよ」

「……」

 基本的に練習時間が終わると観客やメンバーは即帰宅が決まり。けど、私は事前に先生に許可を取って居残り練習をさせてもらう。人が居ない静かな体育館はすき。たまに美侑はボール拾いとかで居残りを手伝ってくれる。美侑とはずっと一緒にいるから嫌な感じはしないし、本音で話せる数少ない相手だ。

「そろそろ終わる」

「うん、片づけよっか」

「ありがとう」

体育館を出たあとに鍵を返しに行く。

「あの、五十嵐さん!」

知らない子に声を掛けられた。

「…はい」

「あの、あの…」

「…」

「あ、ご、ごめんなさい」

「謝らなくていいよ」

「…はい」

「何か用だった?」

「バ、バスケ頑張ってください!」

「えっ…」

「ずっと応援してて、でも人が多くて…」

 彼女はそう言うと俯いた。あぁ、麻衣みたいだなこの子。彼女の頭に手をポンッと置いた。君が赤くなった顔を上げてくれたから微笑みながら思ってる事を言ってみた。

「人多いよね。苦手なんだあれ」

「えっ、そうなんですか?」

「うん」

「意外…でした」

「皆外見だけを見てるからね」

「そんなことは!」

「だからさ、」

「はい」

「純粋に応援してもらえるのは嬉しいよ」

「あ、いやそんな…」

「ありがとう」

顔を真っ赤にして頷く君は、純粋だね。

「また声掛けてよ」

「良いんですか?」

「うん」

「はい!」

「じゃあね」

「はい! また!」


「珍しいね」

「バスケ頑張ってって」

「言われた?」

「うん」

「納得」

 美侑はさっきの子とのやり取りを少し離れた場所で見ていた。

 なんでかな、最近、麻衣を思い出す回数が段々と増えている気がする。

 麻衣、もう一度会いたい。


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