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食べログ1.8のラーメン屋

作者: 村崎羯諦

○ラーメン屋の厨房


店主が寸胴のスープをかき回している。

アルバイトが厨房に入ってきて、店主は顔をあげる。


バイト「吊るし看板、ひっくり返しておきました」


店主「おう、お疲れさん。次のしこみまで休憩でいいぞ。それにしても、今日も大繁盛だったな」


バイト「そうですね……正直、不思議ではあるんですが」


店主「何だよ。バイト風情がそんな口きいて」


バイト「だって、店長。うちの店のラーメンって……控えめに言っても美味しくないじゃないですか。うちの店が食べログで何点つけられているか知ってます?」


店主「知らねえな」


バイト「1.8ですよ、1.8。逆にこんな点数あるんだって感心しちゃいましたよ」


店主「まあ、そんなもんだろうな。別に驚きはしねぇな」


バイト「スープはギトギトで脂っこいし、麺もブヨブヨでやわらかすぎるし。チャーシューなんてゴムを噛んでるみたいに硬いし。向かいの通りにあるラーメン屋の方が何百倍も美味しいのに、何でうちの店に大勢のお客さんが来るのか理解できません!」


店主「はあ、全くわかってねぇな、お前は」


バイト「何がですか」


店主「うちに来るお客さんはな。別に美味しいラーメンが食いたくて来店してんじゃねぇんだよ。まずいラーメンを食って、その悪口を言いたくてわざわざ遠い場所からいらっしゃってるんだよ」


バイト「はあ」


店主「美味しいラーメンを食べるのが好きな人間なんかより、ラーメンについて色々語ったり、他の人とお喋りしたいっていう人間の方が圧倒的に多いんだ。うちの店はなラーメンを提供しているわけじゃないんだよ。そういう人間に、好きなようにラーメンについてコミュニケーションできるネタを提供してんだよ。それも好き放題叩いても嫌な気持ち一つしないとびっきりのネタをな。ほら、例えばお前にもよ、あんまりいい接客すんなって言ってるだろ?」


バイト「そうですね。お客さんが呼んでも、一回は必ず無視しろって言われてますし、皿洗いも衛生面でギリギリ問題にならない具合に汚れを残せってうるさいですもんね。言われたことしかやらない主義なんでそれはそれで良いんですけど、いつも不思議に思ってました」


店主「例えばだ。いくらラーメンがまずくても、店員の接客態度が良かったり、店全体にどこか人情味あふれるような雰囲気があったらよ、その店の悪口をいうのに、少しだけ躊躇っちゃうだろ」


バイト「そうですね、味がクソでも、そういう店にはたまに根強いファンがいますし。そういう人ほど、自分の好きなものを攻撃されたら狂ったように反撃してきますもん」


店主「そうだ。わかってきたじゃないか。うちはな、お客様が何の罪悪感も感じず、何のリスクも冒さずに好き放題叩けるサンドバッグを提供してんだよ。お客さんはストレス発散ができるし、みんなから共感を得て承認欲求も満たせる。俺たちはその分、お金を稼げる。WinWinの関係だ。おかげさまでうちの店も笑えるくらいに稼げてるしな」


バイト「私も時給三千円頂いてますから否定はできませんよ。接客は適当でいいし、仕事中にスマホをいじってもいいし、客が多くて忙しいくらいしか文句ありません。こんな割のいいバイト他にありませんよ」


店主「俺もな最近は金が余りすぎて困ってるくらいなんだよ。ほら、俺の目元を見てみろ」


バイト「そういえば、今日は目の上にガーゼを当ててませんね。でも、それくらいしか、特段変わったところは……」


店主「実はだな。この前の休みに、プチ整形をして、二重まぶたにしてみたんだ」


バイト「いいおっさんが何してるんですか」


店主「俺もな、正直金が余りすぎて何に使っていいかわかんねぇんだよ」


バイト「はいはい。お金持ちもお金持ちで大変なんですね。とりあえず、私はお腹が空いたんで、休憩に入ります」


店主「食べログ1.8の糞不味いラーメンならいくらでも食っていいぞ」


バイト「そんなもの食べたくありません。私みたいな純粋なラーメン好きは、向かいの通りにある、本当に美味しいラーメン屋のラーメンを食べに行きます」


店主「おうおう、勝手にしろ。四時からしこみだから、それまでには帰ってこいよ」


バイトが前掛けを外しながら厨房を出ていく。

店主は再び寸動鍋をかき回し始める。

少しして、険しい表情を浮かべたバイトが再び厨房に入ってくる。


店主「どうした、忘れ物か。というか、何だその険しい顔は」


バイト「店長のせいです」


店主「なんだよ、突然」


バイト「向かいのラーメン屋……潰れちゃってました」

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