第三話:しあわせ
「あー! おあー!」
夜の駅構内に若い男の叫び声が響き渡る。
まだ遅くない時間で、多くの乗客が行き交う広大な駅だ。
「もしかすると、保護者とはぐれてしまったのかも知れない」
心配になって呟くと、同行していた部下が様子を伺いに行ってくれた。
「……只の酔っ払いでした」
それならば一安心だな。
最近、目につくのは〈独り言〉を呟きながら歩く若者が増えた事だ。
寒い冬の季節なので、両手をポケットへ入れており、大きなリュックサックを背負っている。
「ハンズフリーですよ」
部下が教えてくれた。
知ってるさ。
リコールが起きた際には、サービスセンターへ応援に行った経験もある。オペレーターは全員が端末を操作しながら通話していたのだ。
小学校の同級生に〈しあわせ君〉が居た。
いつもニコニコしながら、独りで誰かと会話していたのだ。
皆に愛されていたが、中学から見掛けなくなってしまった。
同窓会では誰も彼の話題に触れない。
「俺が一番、失礼なのか……」
いつもエサを食べに来ていた野良猫が、玄関脇にある鉢植えの隙間で冷たくなっていた。
硬直化しているので、随分と前に亡くなっていたのだろう。
せめて最期は家の子として弔ってあげよう。
切ない気持ちで、動物霊園にアクセスする。
続く