第128話 インガの昔話と殺意の行方
「オレークよ、アルヴォってのは黒の団の団長とか言っておったの?」
「おっ.....おう、そうじゃよ!」
「まさかとは思うが、アルヴォの父親ってのは、辺境伯の所の筆頭執事
のエドヴァルドなのか?」
「うっ.....うん、そうそう!」
「アイツが身内になるのか.....あのハナタレ小僧のエドと縁者になる何って
悪夢としか思えないさね......」
インガ婆様、筆頭執事のエドヴァルドさんって方と何かあったのかな?
そうでなければ、此処まで嫌がらないと思うのだが....
俺には関係ない話であるし、此処は話しに触れないでおこうかな.....
「母上よ、エド殿と何かあったのかも知れないが、此処はターニャの
幸せを優先させてはくれまいか?」
「私だって、孫の幸せを優先させたいが、相手の親が問題さね!」
「その問題ってのは何なんだ母上?」
インガ婆様は、少し考えて居たが、オレークさんの問に答える覚悟が
決まったのか、意を決してオレークさんに話し出したのだった。
「実はなエドヴァルドには、黒の団で使う魔法道具を色々と工面して
いたさね、でもね、黒の団って言うか先代の辺境伯の懐は今以上に
ギリギリじゃった」
「今も昔も辺境伯の領地では、ギリギリの遣り繰りで凌いでいるから、
そうなるわな!」
「そうなんじゃ!辺境伯から資金が出なければ、黒の団にも当然、資金
などは無いさね!そんな時に限って色々と面倒事が起きるものさね!」
インガ婆様は、遠くを見るかの様に何事かを思い出して話し出していた。
「あれは、エドヴァルドが黒の騎士団を任されて間もない時じゃったな?
その年は、作物が不作でシーランド本島でも飢餓が起こりかけていたんじゃ
そんな折に、近海を荒らしておった隣国の海賊が、シーランド本島に攻め
込んできよった。海賊とは名ばかりで、実は隣国の小領主じゃったんじゃ!」
《それで?それで?》
「辺境伯は海賊の討伐を黒の団に命じたのだが、黒の団には船などは無く
困ったエドヴァルドは、私に助けを求めて来たさね!」
「母上よ!当時は、私設艦隊は無かったのか?」
「あぁ~私設艦隊は、今でこそ立派な艦隊じゃが、当時はジャック艦長は
居らず、黒の団が海賊の討伐にあたったんじゃ!」
《ほうほう!》
「辺境伯は中型船を3隻を揃えるのがやっとで、船の武装まで手が回らなかった
さね、そこで私にエドヴァルドは頼み込み、船の武装で使う魔力大砲を譲って
欲しいと頼み込んで来寄ったわい」
「今と違って昔ならば、魔力大砲は凄い値段で取引されて居たんじゃろ?」
「そうなんじゃよ!私達家族が食べて行く為に開発した魔力大砲じゃったが
当時は、鍛冶が出来る者が居ないでの.....外注に出して魔力大砲を作っておった
せいで、今では考えられない程の値がしておった。それをタダ同然の値段で
譲って欲しいと言われたんじゃ!」
《タダ同然の値段!?》
「具体的に言うと、1門500ベルクじゃった。それを海賊に勝利したら支払いを
すると言うトンでもない条件まで付いてきたさね。3隻の中型船に積む大砲を
1門が500ベルクとか、今でこその値段じゃが、当時では私達家族に死ねと
言ってる様なものじゃった。じゃが、海賊に黒の団が敗れたら、やっぱり
私達家族は、死ぬしか無かったのも事実!私は考えた末に、1つの決断を
旦那に託したんじゃ!」
「父上って、その当時には死んでいたのでは?」
んっ?確かこの島に遣って来て直ぐに、心労がたたって亡くなられたと
インガ婆様は言っておったな?
「話を最後まで訊け!2人が言うように、旦那は当時は既に死んでしまって
いたが、私には旦那の姿が見えたさね。それで旦那に訊いて決めたんじゃ!」
《本当に!?》
「くどい!私と旦那様は死に別れていても、解り合える間柄さね!」
オレークさんに俺は耳元で囁いていた。
オレークさん、言いたくは無いが、人は大事な者を無くすと心が壊れると
良く聞くが、インガ婆様も当時は心が辛かったのではないか?
「そうじゃな....父上を無くされてから、まだ日が経って居なかったせいかも
知れないの?」
そんな2人の会話は、インガには届いて居なかった様で、インガは当時の事を
思い出しながら話を続けていたのだった。
「旦那に私達家族の事を委ねると、旦那は私にこう言ったさね。」
「何って父上は言ったんじゃ?」
「インガよ!オレークとお腹の子を頼む、殺される位なら殺れる前に殺れ!
と旦那はね私に言ったんじゃ!」
《えっ!それって貴女(母上)の考えでは?》
「そうして私は、黒の団の当時は団長じゃったエドヴァルドに、全ての魔力大砲を
譲ってしまったと言う訳さね!」
《それで海賊は、どうなったのか?》
「そりゃ~当時は魔力大砲などは普及していなかったから、一方的な展開で海賊は
海の藻屑になったさね!そして、お宝も海の藻屑になってしまって、私は戦利品を
貰えずにこんにちまで.....エドヴァルド殺す!」