04:暴漢
お持ち帰りの料理が出来るまで、屋台の店主さん、名前はドランツさんに色々と話を聞く事が出来た。
宿屋も経営しているらしく泊まる所が決まっていないならどうかと勧められたけど、今回は遠慮しておいた。町に放った式に調べさせた感じはアットホームで良い雰囲気なんだけど、面倒事に巻き込まれた場合に色々と対処が大変そうだったので、というか、巻き込まれること前提で泊まる所を考えるのもなんだかなあと自分でも思うけど仕方が無い。
貴族や金持ちがよく利用する宿を紹介してもらいそこに泊まる事にする。そういった宿のほうが面倒事の対処にも慣れているだろうしお金で色々融通も利きそうだからね。
「お嬢ちゃんなら大歓迎なんだがなあ」
「ありがとうございます。今度別の機会があればお邪魔しますね」
「そうか、バラの宿か、確かあそこの経営者は元冒険者だからな、同じ冒険者同士色々と気が利く事もあるかもしれんな」
「元冒険者の方が経営してるんですか?」
「ああ、セバスチャンっていってな、相当なもんだったらしいぜ、おっと、そいうやアイツ自分が宿の主と言う事隠してたんだったな」
「セバスチャンさんですか、変わった方なんですか?」
「ああ、変人だな。身分を隠して受付をやって客を観察しているような奴だからな」
「はあ」
世間話をしながら次々と運ばれてくる料理をアイテムボックスにしまう。
飲み物はどうするか聞かれたので、お酒の入っていないものをひとつ注文して飲んでみる。
「これ美味しいですね」
柑橘系の爽やかな飲み物で、さっぱりしていて後を引かない。
「ああ、本当は酒と割るんだがな、肉のくどさを消してくれるだろ」
「はい、これって割ってないものを売ってもらうことできますか?」
「ああ、持ち帰りようのビンで販売してるぜ、ちょっと高いが大丈夫かい?」
「大丈夫です。じゃあそれも頂きます」
「アイヨ!」
話し込んだ事もあり少し長居をしてしまった。まだ全店制覇をしていない。
さすがに日も落ちて暗くなってきているし、目ぼしい店を後二、三店舗回ったらバラの宿というところに行こうかな。
「まいどあり!」
どうもー、といいながら冒険者のお嬢さんが店を出て行く。えらいベッピンなのに、随分と人当たりの良いお嬢さんだったな。
ローブを着たままだったから体つきはわからなかったが、腕や指先を見る限り戦闘という荒事とは無縁な、傷ひとつ無い綺麗なものだった。
そうするとジョブは魔法使いか僧侶といったところか、後衛職のソロというのはありえない、たまたま仲間と別行動だったというところか。
店内を見ると先程まで埋まっていた席が幾つか空いている。
――俺が騒いだこともあり、いい噂の聞かない男達がお嬢ちゃんに目を付けたのは気付いていた。席に一人にならないよう世間話をしながら一緒にいたんだが、もっと強引に俺の宿を勧めておくべきだったか、それなら店を出た後も誰かを護衛につける事も出来たんだが...
はっきりと忠告しておくべきだったか...いや、仲間がいるなら大丈夫だろう。
そういえば、お嬢ちゃんの名前を聞いていなかったな。
――そうだな、今度来た時には名前を聞こう。
ドランツさんの屋台を出てから誰かがついて来ている。後何軒か店を回りたいんだけどな...
ローブのフードからクロが顔を出す。
(リン)
(ん?)
(なぜドランツの誘いを断ったのだ?)
(誘いって、ブオトの滞在はドランツさんの息子さんがやっている宿にしたらって言うあれ?)
(うむ)
(えーと、なんとなく?)
(迷惑をかけるかも、と思ったのか?)
(――うん、まあそんなところ)
もう無いと思うけど、人の心を折る方法として本人ではなく周りを傷つけるという方法がある。
家族がいれば家族を殺し、友がいれば友を殺し、それもいなければ対象の周り、世話になっている宿の関係者を殺し、ただ言葉を交わしたものを殺す。
全てを守ることなど出来ない。責任感が強いものほど心が追い詰められる。そして、追い詰められた心は間違えた解へと辿り着く。
自分が屈すれば全てを守れるなどと言う愚かな答えに...
「うーん、ヤメヤメ。バカみたい。けどさ、ドランツさん良い人そうだったよね」
(料理は美味かったな)
「そうだね、美味しかったね」
人気の無い路地へ入る。えーと、あそこを右に曲がれば行き止まりかな。
(殺していいか?)
左肩の上に移動してきたクロが聞いてくる。
(えー、別に何かされたわけじゃないし)
クロと念話をしながら、ぼーっと行き止まりの壁を見つめていると、先程曲がった角に数人の男が出てきて立ち止まる。逃げ道を塞いだつもりなのだろう。
(何かする気満々のようだぞ?)
(なんだかなー、殺すとか言ってきたらいいよ)
(殺す)
(いや、クロじゃなくてあちらさんが、ね)
(むぅ!)
ガキンッ!
と、音が鳴り見つめていた壁にナイフが刺さる。
「オジョーさま、遊びましょ」
その下卑た声に振り向くと、道を塞ぐように男が三人立っている。屋台で私をジロジロ見ていた男達の中で危ない目をしていた人達。
「忙しいんで、また今度でお願いします」
「そんな冷たいこといわないでさ、俺達とあそゴンッ!ゴンッ!ゴンッ!」
男達が凄い勢いで壁にたたきつけられ動かなくなる。これはどう見ても念動力さんの仕業です。
左肩のクロ君を見る。じーっ!
「へてっ」
舌をぺろっと出しながら首をちょこんと傾けるクロ君。うん、可愛いね。
「てへっ、じゃなくってさ、最後まで言わせてあげなよー」
「だが断る!」
まあ、殺してないからいいけど。
「リン、仕返しが面倒だから殺しておくか?」
「んー、」
面倒なのは同意だけど。
「ナイフ投げてきたし、殺していいだろ?」
「んー、あれは当てる気のない脅しでしょ」
気を失っている男達に近付き、光魔法を発動する。
「記憶を消すのか?」
「うん、私の記憶を消しとく」
光魔法スキルの高位呪文【洗脳】で記憶を色々といじる。素人は真似をしてはいけません、これを上手く出来るようになるまでには数千数万の試行錯誤が必要になりますです、はい。
「我もやりたいのだ!」
「ダメでーす。クロこの前ひとり廃人にしちゃったじゃん」
「過去に囚われていては先に進めないのだ!」
「過去に学ばないと!」
「ああいえばこういうなー!」
クロがローブの中に潜りこんでくる。ちょっと、暴れないでよー。
念の為、全員の記憶を覗いておく。ゴロツキの一味を装って別の目的を持っている者が居る可能性も……ないみたい。純粋なゴロツキさんでした。
「じゃあ行こうか」
「うむ! てい!」
バキボキベキ!
翌日、体中の骨が粉々になった、生きているのが不思議な状態の男達が路地裏で発見される。