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40:終わり

マルガリータ邸:

 「なんだい?」

 宙に向かい声を放つマルガリータ。

 「ガーレルが町を離れました」

 何処からともなく声が答える。

 「フンッ! 気に入らないねえ」

 ユウキはドランツの屋台で確認されたきり行方を見失っている。ローラン王家のお姫様はまだ宿を出ていない。


 考える。


 「………この町では問題は起こさせない。かねえ?」

 「………」

 「ガーレルが向かったのはカーライルかい?」

 「はい」

 「怪しいねえ、後はつけているんだろうね?」

 「はい」


 大きな音を立てて扉が開く。普段から音を立てずに走るが肝心なところで抜けている無礼者を見る。

 「ファム、ノックをおしと言ってるだろう」

 「迷宮が攻略された!」

 その言葉に衝撃が走る。


 誰が? 

 決まっていいる。


 決まっているのか?

 可能性は二つ存在する。


 いつのまに?

 ガーレルに情報で負けた?


 同時に幾つもの思考が、

 「カッ! どうにもこれはダメさね、」

 一瞬でマルガリータは介入を諦める。

 「結果の収集に専念おし」

 「………」

 声もなく気配が消える。

 「え?」

 「え、じゃないさね、ファムあんたはガーレルを追うんだよ」

 「へ?」

 間の抜けた返事が全て後手に廻ったマルガリータ邸に木霊する。





 ガーレルは、カーライル王国へと続く街道脇の開けた場所にテントを張り休んでいる。街道の南を見ればブオトの町が視認できる。

 馬車を少し走らせれば町へ着く距離でわざわざキャンプをする意味。それはガーレルが商人であり、このローランの地でも商いを続ける気があるからだ。商人同士の約束事は守らねばならない。これは表も裏も関係ない基本中の基本。人を商品として扱う奴隷商、裏の商いに属するこれだが、騙し裏切り人を奴隷に陥れる。これは商品に対しては何をしても許される行為だが商人としての裏切り行為は表の顔に傷がついてしまう。裏でのみ商いを行うのならばそれでも良いのだが、良い商品を仕入れたときに裏のみの顔だけでは高が知れてしまうのだ。

 表の顔が必要な相手とは、カーライル王家、ローラン王家、そう、国を相手取る商い。今仕入れようとしているのはその規模の商品。仕入れたものによってはローラン王国での商いは出来なくなってしまうかもしれないが、その価値はある。最悪、裏のルートに流せばいい。ガーレルはそう思っている。

 この商い、どのように転ぶかは判らないが、どう転んだとしても最低限筋を通しておく相手は一人のみ。この辺一帯を取り仕切っているマルガリータ、あれとの約束さえ違えなければ今後のローランとの商いも問題はない。


 金で雇った者達では何処から足が付くか分からない。確実に秘密を守れる手持ちの駒、つれてきた奴隷のほぼ全てを注ぎ込んだ。何か起きるとしたらここ2~3日と踏んでいる。それ以降は知らせを受けた貴族諸侯が動きだし手を出せなくなるだろう。本来ならば混乱を極めている今、町中で動くことが理想だがそれは出来ん。


 ただ、結果を待つ。





 ローラン王都へと続く街道。

 町周辺は開拓が進み、見晴らしの良い景色が続くが、町を離れるにつれ治安も悪くなる。ローラン王国は周辺諸国よりも比較的治安の良い国だが、それでも旅人を襲う盗賊もいれば、地上を彷徨く魔物も存在する。

 

 街道を三台の馬車が走っている。一見すると何処にでも走っていそうな普通の馬車に見えるが、目の利く者が見れば普通ではないとわかる。普通よりも頑丈に作られている車輪と車体、窓も普通の馬車よりも小さく御者台も視界を極端に遮らない程度に囲いで覆われている。襲撃されることを想定した馬車。見た目こそ普通の馬車に偽装しているがこれは軍の貴人用護送馬車に近い物だとわかるだろう。


 その馬車が向かう先には鬱蒼とした森が広がっている。


 昼でも薄暗いこの森は、街道が開通した今でも盗賊の被害がたまにある。しかしその被害は、夜間に歩行(かち)で森を抜けようとする者達に襲い掛かる程度で、馬車を襲うような大掛かりな襲撃はほぼ無い。その理由は昼間の交通量、ひっきりなしとまでとはいかないが一時間しない間隔で誰かが通る。馬車を止めて襲撃するにも大抵の馬車には用心棒として雇われた冒険者が乗っているし、襲撃が終わる前には誰かが通りかかり襲撃者の撃退に加勢が入る。必然として襲撃対象は、襲撃後証拠を残さずそのまま連れ去ることが用意な歩行の者のみ、しかも人通りの少ない夜間となる。


 その常識を覆す(やから)がいる。

 奇妙な一団だ。

 大剣を背負った戦士が二人、その体躯は闘技場で戦う闘志のように鍛え上げられている。

 クロスボウを持った盗賊が一人、セットされている矢は炸裂弾、その一撃は普通の馬車ならば車体ごと吹き飛ばしてしまう威力がある。そのような高価な武装では利益がでないのではないか? 目的は復讐なのか?

 魔術師とおぼしき者達が四人、どのような術を使うのか。


 まるで冒険者パーティーのようだが、奇妙なことに治療師がいない。

 そして、彼らの首には一様に、

 「使い捨ての奴隷で襲撃か」

 いきなり響く声に武器を構え振り向けば、そこには闇がいた。


 昼でも暗い森の中、それよりもなお暗い闇がそこにいた。

 この闇は言葉を介し、いや、闇の中で怪しく輝く二つの紅い瞳。その言葉を理解する魔物は静かに全員をまるで値踏みするかのように見回し。

 「ガーレル? それがお前達の飼い主か、くくく、素晴らしい!」

 失敗したときのため、武器以外の一切の身元を確認できる持ち物を持たされずにここに来たのに、この魔物はまるで全てを見透かすかのように言い当てる。

 「何か情報があってここで待ち伏せているのか?」

 「……」

 「むぅ、考えていることは読めんのか、直接触ればいけるのか?」

 とてつもないことを魔物が言う。考えていることが読める魔物など存在するのか? そんなものはまるで魔物の王ではないか。

 「どれ、お前で試してみるか」

 魔王が耳元で囁く。

 「ヒッ!」

 動けない!

 「今から質問するぞ、答えなくても良い、考えるだけでな」

 何かが耳から脳に指しこま、、れれれれ、れ

 

 なぜ、誰も攻撃しないのか?

 「ん、周りを見てみろ」

 かかかんがえた、だけなのににに、なななんんでででで、まま周りを見る。


 鋭利な刃物で切り刻まれたような肉片が周りに散らばっている。

 「ハヒッ!」

 「安心しろ、知りたいことが()えたらお前もこうしてやるのだ」

 紅い目をした魔王が耳元で優しく囁く。

 「イヒッ!」

 その声に幸せを感じる。



 (クロ、何してるの? ちょっと早く戻ってきてよ)

 (うむ! 召喚して良いのだ!)

 (無理だって、目の前にヤンさん居るんだから)

 (むぅ)



 馬車の中、ゆったりと三人は座れる進行方向を向いた座席に私一人が座っている。向かいの進行方向と逆を向いた座席にヤンさんが座って話しかけてくる。

 他愛のない世間話。ブオトの町の成り立ちや、美味しいと有名の店、町長の人柄、商人によるギルド等。ドランツさんの屋台は美味しいと有名だったらしい。買い占めておいて正解だったね。

 今回、隣国カーライルとコネを持っている奴隷商が立ち寄っていたことに警戒していたらしい。自分達以外にも組織的に裏で情報収集を行っていた者達もいたので、帰り道の同行を申し出てくれてとても助かったと感謝された。こちらとしては、空間魔法の転移で一瞬で王都に戻ってもよかったんだけど、そのあとどうやって一瞬で戻ったのかとかの推測とか出てきて、無駄に監視が厳しくなったりとか考えて、色々めんどくさそうと判断して一緒に戻ることにしただけなんだけどね。


 馬車の速度が落ちる。

 「ヤン様、」

 御者の隣に座っていた男の人が小窓を開けてヤンさんに話しかけてくる。

 「どうした?」

 「あの、」

 「どうぞ気にしないで続けてください」

 変に気を使われても困るので、会話の続きを促す。

 「構わん、言え」

 「血の匂いがします。ここで止まり様子を見に行かせますか? この馬車を前後で挟んで駆け抜けますか?」

 どうやらこの人は馬車の指揮をする人のようだ、今取れる有効な行動案をヤンさんに示し判断を仰いでいる。

 判断の難しいところだけど、なんか私には思いっきり心当たりがある。

 (クロでしょ?)

 (むふ)

 小窓が空いた瞬間、縮地で誰にも気づかれずローブのフードの中に戻ってきたクロを引っ張り出す。

 (なにしてんのさ?)

 (不埒な悪人を三昧なのだ)

 (ちゃんと確認したの?)

 (うむ、ガーレルという奴の奴隷だったのだ。魔眼凄いのだ、隷属の首輪を鑑定しただけで持ち主がわかったのだ)

 うーん、(くだん)の奴隷商かな?

 (ただ休んでたとかじゃなかったの?)

 (むふふ、ちゃあんと脳ミソに爪を突っ込んで質問しながら確認したのだ)

 (クロ君、脳ミソに爪を突っ込んだらダメだって、その人死んじゃうって)

 (リンもやってるのだ!)

 (いやいや、やってないって、クロ今まで私の何見てたのよ)

 (似たようなことしてたのだ!)

 (してないから!)

 クロ、魔眼が使いたかっただけじゃん。まったくもー。


 (豪華な馬車が通ったら襲ってそこに乗ってる娘を拐えって命令されてたのだ)

 雑な命令だなあ。もしかしてこの馬車なら襲われなかったんじゃないの?

 まあ、その代わり見ず知らずの誰かが被害にあってたかもしれないのかな。

 (狙いは私だったの?)

 (さあ?)

 まあそうだね、そんな雑な命令じゃ特定しようが無いか。もしかしてわざと曖昧な命令にしたのかな? それだったらちょっと怖いなあ。


 「リン様、駆け抜けます。念のため柱にお掴まりください」

 ヤンさんは、私の安全を優先するようだ。

 「はい、わかりました」

 柱に掴まる腕にクロがぶら下がってくる。

 「クロ、重いって」

 「にゃ!」

 「にゃじゃなくて、もー」

 腕にガッチリ掴まっているクロを引き剥がし膝の上に転がす。


 私の手で遊びだすクロ。まあ、襲撃の心配はないしいいか。


 こうして長いような短いようなスキルの迷宮の冒険は幕を閉じる。

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