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03:屋台

 ブオトの町の降車用停留所に馬車が停まる。

 この馬車は折り返しローラン王都へ戻るため一度ここで乗客を全て降ろす。


 「あれ、お嬢ちゃん。たしか黒いローブじゃなかったっけ?」

 「え、気のせいじゃないですか、最初から灰色ですよ」


 一緒に乗っていた客の一人に声を掛けられたけど、サラッと受け流し馬車を降りる。

 声を掛けてきたのは、馬車の中全体を見える位置に陣取っていたちょっとガラの悪そうなおじさん。気付かれないように乗ってきた客全ての身形や所作を観察していたというより物色していた。私のローブの色をワザワザ憶えていたと言うことは多分目を付けられていたのだろう、まあ、おじさんを含めて乗客は全員乗ってからしばらくして気を失い、さらに死にそうになってから永遠じゃない気持ちの良い眠りについて、そのままブオトの町に着く寸前まで寝ていたのだから何かしようと思っていたとしても何も出来なかったんだけどね。


私の手から抜け出しローブに爪を引っ掛けながらちょこまかと移動していたクロが肩に座り念話してくる。

 (リンー、灰色やなのだ!)

 (えー、だって灰色以外は周りに変な効果をばら撒いちゃうからダメだよ)

 (黒がいいのだー!)

 (こんな一般人がいっぱい居る場所で黒にしたら普通に死人が出ちゃうよ、黒はせめて迷宮の中とか敵しかいない状況だけね)

 (じゃあ白でいいのだ! 灰色は半端で恰好悪いのだ!)

 (うーん、白でもいいけど、周りに回復魔法をばら撒いてる状態になるからなあ、教会の関係者に見られたら、神子(みこ)様とか聖女(せいじょ)様とか変な誤解されそうで嫌だなあ)

 (誤解されてもどうせ手を出せないんだからいいだろー)

 (えー、誤解される時点で嫌だよ)

 (むー!)


 そんなに灰色が嫌なのか、クロが私の黒髪に潜りこみながら右の首のすぐ横にくっつきちょこんと座り直す。ぴこぴこ動くクロの耳が私の耳に当たって少しくすぐったい。


 ひら、ひら、と舞い降りてきた紙の蝶が差し出した私の手の平に次々ととまる。

 蝶が見た景色、上空からの町の全体図や冒険者ギルドの場所、町長の館、商店の位置、宿の位置が情報として頭に入ってくる。


 現在位置と頭の中の町の地図を重ねる。

 少し進んだ大通りに屋台が集中している。取り合えずそこで情報を集めようかな。


 (クロ、ご飯食べる?)

 (うむ! 肉希望!)

 (じゃあ、美味しそうなお店の料理を片っ端から仕入れようか)

 (賛成なのだ!)


 私の持っているアイテムボックスのスキルは、持ち主専用の時の止まった異空間に物をほぼ無限にストックできる。

 出来立ての料理をアイテムボックスに入れておけば、いつまで経っても出来立ての状態で保存できるのだ。

 新しい町に来たら取り合えず美味しそうな食べ物を全て買い漁るのはアイテムボックス持ちとしての礼儀というものだよね。

 ちなみにアイテムボックスの欠点というか出来ない事は、生命をアイテムボックス内に入れることが不可能という一点のみ。

 当然アイテムボックスのスキルを持っているのは秘密です。こんなスキルを持っていると知られたとたん悪人さんから狙われてしまうからね。

 なので、買い物をするときは魔法の鞄を持っているという設定にする。まあ、実際魔法の鞄も持っているので嘘ではない。

 魔法の鞄というのはアイテムボックスの劣化版の魔道具、こちらの空間は無限ではなく有限で、しかも時の経過が遅くなっているだけで時は止まってはいない。時間経過の遅さや空間の広さは魔法の鞄の性能で違ってくる。



 屋台や入ったお店の一押し商品、屋台なら最初に目に付く料理、お店はテイクアウトできる品物の売れ筋を聞いてひとつ買う。

 「はい、じゃあこの肉串はクロ君どうぞ」

 「にゃ!」

 がつがつがつがつ!

 (おいしい?)

 (ふつー)

 (じゃあ次の店に行こうか)

 (うむ!)

 「あ、ケーキ屋さんだ。次は私が食べるね」

 「にゅ!」

 (我も食べるのだ!)

 (えー、お肉食べた後にケーキも食べるの?)

 (あまい物は別腹?)

 (はいはい、じゃあクロも一緒に食べていいかお店の人に聞くね)

 (うむ!)

 オッケーが出たので案内された席でケーキをクロと半分こして食べる。


 たまに動物同伴での入店お断りと言う店がある。まあ、ほとんど断られないんだけどね、この世界では一般人のペット同伴はお断りでも貴族は別とかいう変な約束事が存在する。私の恰好は冒険者としての装備なんだけど後衛職のとても高価な装備をしていることもあり一見すると貴族と勘違いする。実際案内された席も少し特別な個室だった。



 クロと端から食べ歩く。結構お店多いなあ。美味しそうじゃないお店は飛ばしていこうかなあ。



 凄く大きな屋台に入る。大きいだけあって品揃えも凄い。どれがおすすめなんだろ?

 「あのー、人気メニューってどれですか?」

 「オオ、お嬢ちゃん、えらいベッピンさんだな。酒は...無理だな、ウチは肉料理が自慢だ、肉煮込み丼と超肉串が人気だな、結構な量だがお嬢ちゃんに食べれるかな?」

 (なぬ! 超肉串だと、リン食べたいのだ!)

 (いいけど、肉煮込み丼は?)

 (それも大盛りで!)

 (凄い熱いと思うけど大丈夫?)

 (冷すから平気!)

 (冷すって、氷魔法とか使ったらダメだよ)

 (つ、つかわないのだ!)

 使う気だったんだ。

 「じゃあ、肉煮込み丼と超肉串を一つづつお願いします。あ、この子も一緒で大丈夫ですか?」

 私の右肩を指差す。クロ、私の髪に隠れててひと目では気付かれない。

 「ん? オオ、そいつはネコかい? 珍しいのを連れてるな、大人しそうだし大丈夫だ」

 「ありがとうございます」

 (リン、大盛りで!)

 「あ、肉煮込み丼は大盛りで」

 「アイヨ! お嬢ちゃん見かけによらず大食いだな、好きなところに座ってくれ」

 う、なんか恥かしいんだけど。

 (クロ君、恥かしいんだけど)

 (大食漢リン!)

 (漢じゃないし! 食べるのクロじゃんか!)


 会話を聞かれていたのか、お酒の出る屋台に私とクロという取り合わせが珍しいのか、他のお客さんからもジロジロと見られる。


 あー、目立ってるなあ。


 恥かしそうに俯きつつ視線の種類を分別する。うーん、よくないのが幾つか混じっているなあ。


 「ヘイ、オマチ!」

 料理が運ばれてくる。おっと、超デカイです、大盛りの域を超えています。


 「にゃ、にゃ!」

 クロ君が催促してくる。

 「はいはい」

 アイテムボックスからクロ専用のお皿を取り出し、超肉串の肉の塊をひとつ串から外しお皿に盛る。


 あーん、と小さな口を目一杯開けてクロが肉塊に(かぶ)り付く。


 がつがつ食べるクロをそれ熱くないのかな、と思いながらもう一つのお皿に肉煮込み丼を取り分ける。

 (クロ、取り分けたから、冷めたら食べてね)

 (がつがつがうむがつ!)

 私も肉煮込み丼をひとくち。……美味しいね。お肉が噛まなくてもほぐれていくほど煮込まれてて、甘辛の味付けが後を引く。

 (美味しいね)

 (うむ絶品!)

 (今日食べた中で一番美味しいかもね、じゃあこのお店の料理全品お持ち帰りする?)

 (うむ、超肉串買占めで!)

 (はーい)


 「あのー」

 クロの食べっぷりに感心している店主さんかな、に声をかける。

 「なんだい?」

 「お皿出すんで、お店の全料理お持ち帰りしていいですか?」

 「全部で、すか、――お嬢様、もしかして貴族様ですか?」

 ありゃ、言葉使いが変わっちゃった。屋台の外を見回す店主さん、お付きの人がいないか確認してる?

 じろじろ見ていた人達も貴族という言葉が出たとたん慌てて私から視線を外す。


 あー、実際の所、私の立場は貴族の上の王族に属するんだけど、そんなことここで言い出しても事態が悪化するだけだし、ぺらぺらと自慢するようなものでもないし。


 「えーと、私は冒険者です。貴族とかじゃないんで安心してください。無礼討ちだーとかは無いんで大丈夫です。大体無礼な態度とか無かったと思いますし」

 「そ、そうかい? 華麗な顔に目を奪われていたが、良く見れば身なりもしっかりしてるし、ペットなんか連れて歩いてるから俺はてっきり貴族様かと思っちまったぜ、全部を持ち帰りなんていう常識ハズレな事を言い出すしよ、いくら屋台っていっても結構な値段だぜ?」

 なんかさらりと酷い事を言われてる。常識ハズレって、そこまで外れてないと思うんだけど。

 「まあ、それなりに稼いでいるんでお金は大丈夫です。それで超肉串を今日この後の営業に支障が無い範囲で全部いただけますか?」

 「は?」

 「はい、全部」

 「はあ?」

 「はい、お願いします。これお皿です」


 何を言ってるのかよく解らないと言う顔の店主さんに前に、ドンッとアイテムボックスから出した大量のお皿を置く。

 「はあぁぁ!?」

 いや、別にここは驚くとこじゃないよね? いや、驚くところかも?


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