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38:決着

 既に部屋全体を覆いつくすほど放たれた糸と糸、迂闊に足を踏み出せない激しい糸の攻防が音も無く静かに続く。

 少し離れたところの地面にちょこんと座るクロ、はたして今起きている全容がわかるのか静かに宙を見つめている。たまに流れてくる糸をひょいと避けるクロ、私コピーが攻防の最中クロへ流れるように意図的に動かしている糸。それはまるで私とクロがやっていた糸遊びのような、自分の糸の動きをクロに教えているかのような...私コピーの顔を伺えば、私の目を見つめながら曖昧に微笑む。


 うーむ、なんというか、やりづらい。何を考えているのか、もし私だったならば考え無しにその様なことをする筈もない。

 何かの前準備だとしてもわざわざ認識できていなかった糸を、見えるようにするなど何の意味も無く、認識外からの超高速な糸の一撃...などもわざわざ糸を見えさせる様にしておくこと自体に意味がない。


 (クロ君、なんか私のコピーなのに、思考が全然読めないんですけど)

 (リン、修行が足りないのだ!)

 (えー、何の修行が足りないの?)

 (肉についてなのだ!)

 (なにそれ)

 (我は今、レアとウェルダンの一口目の噛み心地の違いについて夢想していたところなのだ!)

 (えー、もしかして宙を見てたのって、ただボーッとしてただけなの?)

 (いえす!)


 いえすって、ねえ...ん? 笑った? えっと...


 鉄魔法で創り出した鉄の棒を両手に持ちながら突っ込んでくるユウキコピー、進行方向の私に対してスラッシュを放ち攻撃と進行方向の糸の切断を行っている、が、何もない地面に蹴躓いたようにバランスを崩し進んでいたスラッシュの軌道からずれたとたん、次々と切断される体ごと光となって消え、私コピーの横に現れる。

 クロの念動力によって足を掛けられ私の糸によって切断されても無傷で復活。まあ別にいいのだけど、既にユニークスキルは迷宮に吸収されているのだから両手に剣を持っていても二刀流がない以上スラッシュは片方でしか発動できないし、運悪く転びそうになっても悪運がない以上起死回生のラッキーは起きずそのまま転ぶだけ。

 怒りの感情を顕にしているユウキコピー。頭で理解できていても体がその戦い方を覚えてしまっているせいでの猛進なのか、その類い稀なスキルに頼りきってしまった故の、いや、これは誰でもそうなるのかもしれない。

 それはある意味スキルという名の落とし穴。スキルが使えなくなる場での戦闘というのはあるのだろうか...


 糸と糸の攻防。


 やはり自分と同じ実力の糸使いとの実戦は凄い、想定していた、想像していた事の確認。間違っていた事の修正、私と違う動きをしてくる私の新しい発想、この短時間で確実な成長を感じる。


 ユウキコピーが放つ雷魔法の電撃。糸を伝いこちらに迫るそれを小指のひと弾き、糸の振動だけで進行方向を逆転させる。


 先端の尖った鉄の棒を弓術スキルで投擲してくる、ファイナルシュートだったかな、狙いは正確でも必中スキルが掛かっていない以上糸で軌道を少し変えるだけでいい。


 おっと、投擲は囮でこっちが本命ですか。鉄の棒を槍と見立てて槍術スキルで突っ込んでくるユウキコピー。確かに槍ならば自身の手による軌道修正が可能、失敗したら死ぬ前に召喚されて即復活。ある意味良い連携といえる。


 目の前に迫るユウキコピーの前で両手、五指を交差する。


 私に到達する寸前でミリ単位に切り刻まれる鉄の棒。そしてそれを持つユウキコピーも...


 「…え!?」

 思わず声が出る。


 その驚きの声は、召喚されずに朽ちていくユウキコピーにに対してであり、何もしなかった私コピーに対してでもあり。なにより、私コピーの肩にちょこんと座り私コピーをじーっと見つめているクロに対しての驚きである。







 それは一瞬の、思考と呼べるものかは定かではないけど。思わず漏らした声と共に頭と体が別々の生き物になったかのように勝手に考え勝手に動く。


 ひとつの思考が状況を判断する。

 ユウキコピーが召喚されなかった理由。それはユウキコピーが切り刻まれるその瞬間私コピーの注意が肩のクロへと移ったから、なぜならそこには私コピーの肩にちょこんと座りじーっと見つめているクロ、その視線を首を曲げ真正面から見つめている私コピーがいる。そのタイミングを計ってクロがそこへ移動したのか、それともただの偶然なのか。


 魔眼がクロへと忍び寄る糸を写し出している。

 それは私コピーが放った糸。クロは気づいていないのか、気にした風もなく、次の瞬間身体を絡めとられ肩に固定される。

 「召...」

 (大丈夫なのだ!)

 クロに召喚を止められる。

 (何が大丈夫なのさ!)

 動けなくなったクロに対し私コピーの手がのびる。


 私は何をしているのか。

 違う。

 なぜ召喚を中断したのか。

 解っていたから。

 この結末も私は受け入れているのだろうか?

 判らない。


 ちょん!

 私コピーの指がクロの頭をつつく。

 ぐりぐり!

 その指にぐりぐりと頭を押し付けるクロ。

 「可愛い」

 私コピーがクロの頭を撫でながら言う。


 こちらを向いた私コピーの首がズレ、落ちていく。


 何とも言えない感情がわき上がる。


 落ちていく私がこちらを見て言う。

 (私の瞳を、あげて)

 それはクロと私だけに通じる念話での願い。


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・


 消えていく私。

 「クロは気づいていたの?」

 念話が聞かれていたこと、クロを攻撃する気がなかったこと、今考えれば最初のあれもクロを守るように糸で電撃を防いでいた。そしてなにより、私がクロに危害を加えることなど無いのだ、そもそもこれは戦闘だったのか?

 色々とあるが、何を、の言葉をのせずにクロに質問する。

 「なんとなく?」

 「なんとなくかぁ、うーん」


 「あれでよかったのかな?」

 全てが一瞬に起こったので糸を止めることができなかった。

 「受け入れたのだから良いのだろう」

 そう、あれは確かに無意識で仕掛けた改心の攻撃だったのだけど、私と共に技術の上達していた私コピーならなんとか防げたはずだった。


 「うーん...」

 死を受け入れる私、複雑な気持ちだ。

 「リン、よく考えてみるのだ。召喚して我ではなくあんなのが出てきたらリンも死にたくなるのでは?」

 あんなの扱いの勇者ユウキ様はおいといて。

 「うーん、それってクロがこっちにいた時点で勝ってたってこと?」

 「当然なのだ!」


 クロがいなかったら。どうなっていたのか?

 

 「リン!」

 「ん?」

 「早く! 宝箱なのだ!」

 「はいはい」

 私に向かって飛び込んでくるクロを抱き上げ宝箱へ向かう。


 うん、ここにいるから大丈夫だよね。


 なんか、もしかして私って精神的に大ダメージを受けているっぽいとか、これが私コピーの狙いだったら実質負けなんじゃとか、私ならやりかねないとか思い少しへこみながら宝箱を開ける。

 「じゃ、拝見しますか」

 「うむ!」


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・


 「うーん」

 「ぬーん」

 スキルリストの先頭にこれ見よがしに表示されている魔眼のスキル。あなたユニークスキルの激レアさんですよね。

 「どうすんのクロ」

 「うぬう!」

 「私コピーさんの遺言でクロに魔眼あげてとか言ってたけど」

 「むう!」

 「まあクロも魔眼あれば色々見えて便利だと思うけど、鑑定もできるし」

 「むむむ!」

 「魔眼発動すると目が紅く光って格好いいとか言ってたね」

 「むにゅ」

 「クロが鑑定できるようになってたらフジワラ君悔しがるかもね?」

 「けっていで!」

 それが決定打になるのね。


 魔眼かあ、んー、特にこれといった運用方法が思い浮かばない。まあ、クロは特攻タイプの戦闘行動をとるしクロ自身が魔眼で色々見れた方が安全度が増すかな。おそらく私コピーも今後を踏まえて魔眼を残してくれたのだろうし。


 一応スキルリストを一通り確認していく。けど、なんだろう、魔眼を抜かせば前回と変化がない。おかしいな、最低でもユウキ君の持っていたユニークスキルもここに加わっていると思っていたのだけど、なんでだろう、あれほどのコピーを造り出しておいて報酬は魔眼のみ?

 いや、魔眼は確かに激レアなんだけど、うーん。


 「どうしたのだリン。悩み多き年頃か?」

 「んー、いやー、まあいいか、魔眼取ろっか」

 「うむ!」

 私コピーさん、ほぼ自殺みたいな負け方だったし。そのペナルティとかかなあ。


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