34:リスク
ここで運命の選択です。
「さて、クロ君」
「うぬ?」
「ここで選択肢が出ました」
「むむ?」
「選択肢その壱。昨日決めた通りに最下層に後三回挑戦して、特に変化無ければ錬金か忍術をじゃんけんで決める」
「うむ」
「その弐。ユウキ君の死体を迷宮に吸収させ未知数の成長を促してから最下層に挑戦する」
「そっちで!」
「えー、即決なの?」
「魔王と戦いたいのだ!」
「ぇー、何が起こるかも理解した上で即決なの?」
「くくく、尻尾が鳴るのだ!」
鳴ってないけどね。
私達が冒そうとしているリスク。それは迷宮の変化、これは確実な検証とか出来ない事なので推論と結果論になってしまうのだけど、迷宮はある一定のレベルというのが正しい表現かは微妙だけど、それに達した後に起爆剤の様な物を得ることで変化する。
ローラン王都の管理迷宮ならば、準備が整った事で特別な隠し部屋への転移カードがドロップし始め、狂乱という特殊なスキルを吸収した事によって魔王が誕生した。
それをスキルの迷宮に当て嵌めた場合はどうだろう?
倒すとしばらく部屋自体が閉じてしまうと言う特殊な最下層のボスの出現。これを準備が整ったと判断するのは間違ってはいないだろう。そして狂乱と同じかそれ以上の特殊なスキル悪運。ついでに二刀流というのもおまけまで付いたら?
これを使うことによりローラン王都の管理迷宮と同じような変化を起こそうという試み。つまり一足飛びに私と同等か、もしかしたらそれ以上の魔物を最下層のボス部屋に創り出すと言う危険な賭け。
「今回は捨て駒の老いぼれも居ない! まさに命懸け! 燃える!」
「ギルバートさんは捨て駒じゃなかったけどね」
「リン、嘘はダメなのだ! 小僧じゃなく老いぼれなら死んでもいいか、と思っていたのはバレバレなのだ!」
「まあ、否定はしないけど」
「リン、とうとう悪辣のスキルに目覚めたのだな!」
「目覚めてないけど」
あの時は相手が不明だったから攻撃も出来て死にそうに無い前衛として、魔人であるギルバートさんが適任と思っただけなんだけどね。まあ、たしかにテレスさんやフジワラ君を誘わなかったのは死んでほしくないと思ったからで、その点では死んでも良いかと思って無かったとは言えない事になる。
「それよりクロ解ってるの? これ結構危険な賭けなんだよ」
「見返りはユニークスキル?」
うーん、だよね。
「やっぱりそう思う?」
「当然なのだ!」
これを試す理由はまさにそれ、おそらく悪運、二刀流、鑑定の三つは確実に報酬の中に追加される。そしてスキル強奪。これも報酬に追加される可能性が高い。正直スキル強奪はどうなの? と思うところはあるけどレアな通常スキルのどれを取るか悩むならばスキル強奪を取っておいたほうが早いし、悩んだ通常スキル全てを取得する可能性が出てくるのだからお得だ。ま、スキル強奪はこれしか増えてなかったときの選択肢なんだけどね。
「けど、迷宮が限界突破して私達のコピーで留まらず、本人より強いのを創り出す可能性だってあるんだよ」
「望むところなのだ!」
「望まないでよ」
「死と紙一重の戦いこそが我をさらなる高みへと押し上げてくれるのだ!」
「はいはい、そんな戦いするつもりないけどねー」
「死ぬ寸前まで行くことで我はスーパーなあれになる事が出来るのだ!」
「なにそれ、おいしいの?」
「おいしい展開?」
「はいはい、そういう展開いらないから」
危険だから止めておく。
この選択をし、将来後悔しないかを考える。
強くなれたかもしれない機会を危険だから止めておいた時、後一歩強さが届かなく終わってしまう将来を考える。
なんてね、後一歩や二歩は工夫次第で何とかなる。それ以前にそういう状況を作らないことに苦労を費やした方が良い。戦いという行為の後には勝ちか負けの二択しかない、極論すると戦うという行為に及んだ時点で半分負けているのだ。戦わずに勝つ、これが一番。そのために手に入れたのがローランという名。面倒な柵も増えたけどこの名が通用する場では戦う必要が無くなった。
その点、迷宮という生き物は報酬を用意する事で確実に二択を迫ってくる。圧倒的優位な状況を自ら作りだしている強者。そんな強者にパワーアップの餌を与える愚か者が私。このスキルの迷宮の特性と規模から考えられる限界の強さここまでは許容範囲。不安要素は与える餌が豪華過ぎる事。ああ、そうだ、常にそばに居たから認識していなかったけれど、スキル強奪というのは悪運よりも希少なスキルなのではないか? そんな考えが頭を過ぎる。
とか、まあ、どう言い繕っても選択肢を出した時点で選択は決まっているのだ。失敗したら私とクロが一緒に死ぬだけ。
迷宮に吸収されていくユウキ君を見る。
「どうなるのかどきどきだね」
「うむ、我ワクワクすっぞ!」
あっと、魔法の鞄だけ回収しておこう。必中の剣とかちょっと興味ある。
「リン、容赦ないな! イカスのだ!」
「え、だってもったいないじゃん」
「うむ、まさにその通りなのだ!」
幸い魔法の鞄には本人認証のロックとかは掛かっていなかったため、中身は自由に取り出せる。必中の剣を一本取り出し観察する。
「てい!」
パキンッ! クロの爪の一撃で必中の剣が折れる。
「ちょ、何すんのクロ!」
「脆弱ぅぅぅ!」
「そういう問題じゃないでしょー、もー」
折れた部分をくっ付けてみるが一定レベルのマジックアイテムに備わっている自動修復、それが発動する気配は無い。特殊な武器のようだ、どこかの迷宮でしかドロップしない類のレア武器なのかな、謎だなあ。これ、強化値を+5とかにすれば剣としても使い物になるのかな? もしくは錬金で他の武器とかに合成する事で必中だけどうにか移したりできないかなあ、けど、そんな実験なら既に試されているかもだしなあ、うーん。
そうこうしていると、メイド長さんがボス部屋から出てくる。
「御待たせ致しましたお嬢様」
「お疲れ様」
回りの気配を探っているメイド長さん。
「あの...お嬢様...」
「あ、うん。終わったんで、残ってもらったメイドさん達呼んでも大丈夫だよ」
置き去りというわけにもいかない。今ならまだギリギリ各層のボス復活はしていない、かも知れないから合流可能だ。
「では、連絡いたします」
そういいつつメイドエプロンのポケットから何かを取り出すメイド長さん。連絡用の魔道具のようだ、あれは結構貴重品らしい。魔法の一族だから所有出来ているといったところかな、迷宮内は魔法を遮断する力も働いているからあまり離れ過ぎると連絡が取れなくなるらしいし。
「あ、ボスが復活してたなら無理しないで脱出するように言っといてね」
多分、私をつけてきた冒険者達が脱出用アイテムを持っているはず。
「問題ありませんお嬢様。では先に進みましょう」
「え、待たなくていいの?」
「お嬢様をお待たせするなど滅相も御座いません」
んー、まあいいか。イレギュラー要素を吸収させた以上早めに最下層に挑戦したほうが良い。下手したら他の層のボスにまで変化が起きる可能性もあるし、最悪通路に魔獣が出現する可能性も無くはない。
「じゃあ、行こうか」
「畏まりました」
最下層へ続く階段へと歩き出す。
 




