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33:目覚め

 スキルの迷宮へと進む。


 私の少し後ろを歩くメイド長に目配せすると直ぐに隣に移動してくる。

 「気付いてる?」

 「はい、気配察知スキルを持つ者が後方に控えています。正確な位置までは判りませんが大体の位置へ範囲攻撃をすれば特定できます」

 ふむ、対処法まで提案してくるなんて、察しがいいと色々と楽だ。気配察知スキル持ちは隠密で姿を消して離れていったメイドさんの中に居るのね。いい判断というか運が良かった、気配察知スキルは強奪できるしユウキ君持っていなかったよね。鑑定されてたらその場で何か行動を起こしていた可能性があった。


 気配察知スキルで大体の位置を特定しそこへ範囲攻撃で攻撃をあて隠密スキルを解除しメイド達の連携した暗殺術でって感じか、けど、どうだろう、勝てるかな?

 ユウキ君、剣術5に二刀流、パッシブでHP回復5、MP回復5、それに上級魔法も全てMAX、対多に優れているし回復5のおかげで継戦能力も抜群、おそらくこの通路、それに広さの限定される迷宮内では難しい、というか無理かなあ。


 まあどのみち、こんな人目のある場所で行動を起こす気は無い。

 「私が指示を出すのでその通りに行動してね」

 「畏まりました」

 礼をし私の少し後ろに移動するメイド長さん。隣に居てくれたほうが指示出しやすいんだけど...


 (クロさ)

 (うむ?)

 (私、魔眼使うんで、色々フォローしてね)

 (うむ)

 (うむって、具体的にどうするつもりなの?)

 (確殺?)

 (何を?)

 (目撃者?)

 (ダメだよね?)

 (うむ?)

 (うむじゃないよー)


 迷宮の三層に来たあたりで、ぞわり、とする歪んだ空気がユウキ君から放たれる。皆殺しにしようかとか思っているんだろうな、なんだかなあ、冒険者の人達も尋常じゃない空気とメイドさん達の威圧感に耐えかねて視線をこちらに向けてないし、そろそろいいか。


 魔眼を発動しユウキ君を見る。あっさりと意識を奪えた。…………ダメでしょ。今までよく生きて来れたね。

 (我の出番は?)

 (無し)

 (ぶーぶー!)


 四層、五層、六層、私の魔眼の支配下に入ったユウキ君は隠密したまま大人しく着いて来る。そろそろ人を減らしていこう。同行するのはメイド長さんだけ。懐から人型を取り出し形だけのメイドのコピーを作成する。暗殺弐を持ったニアさんだけ特別に同行させる...わけも無く当然彼女もここに残ってもらう。わざわざ不確定要素を増やすような愚を犯す意味は無いからね。



 七層ボス部屋前。

 メイド長さんを同行させるのはボス部屋を攻略してもらうため。さすがに形だけの紙で出来た人形にボス部屋の攻略は難しい。

 「じゃあ、魔法をかけるね」

 「有難う御座います。お嬢様」

 七層のボスに挑戦するメイド長さんに各種バフ魔法をかけてパワーアップする。確率は低いけどレアボスが出る可能性も考慮しての完全防護。

 「頑張ってね」

 「はい、直ぐに戻ります」

 ひらひらと手を振って見送り。ユウキ君の妄想を魔眼で確認し、辿ってきた通路を見る。



 七層通路を音も無く進む冒険者が二人。

 ふと見ればメイド達が通路を塞ぐように立っている。当然それは先ほど見かけた火の一族の戦闘メイド達。

 「…………」

 「…………」

 両者共に戦闘間合いの外で無言で睨み合う。

 痺れを切らせたか冒険者が口を開き言葉を発しようとした瞬間、首筋に短刀を突き付けられた三人目の冒険者とメイドが姿を現す。

 声を発することで意識をこちらへと向けた瞬間に隠密を発動した冒険者がメイド達の囲みを抜ける算段だったらしいが、残念ながら失敗したようだ。メイド達は姿を認識する前から気配察知スキルで相手の人数を把握済みだったのだ。

 止む無しと判断し戦闘へと移行しようとした冒険者達へメイドが告げる。

 「お嬢様からの命令です」

 「なに?」

 「これ以上の追跡は許可しない。合図があるまで私達とここで待機する事」

 「…………」

 黙り込む冒険者達。

 「この意味が理解出来ないならば、今ここで排除します」

 このメイド達は我々が只の冒険者ならば、ここで殺すと言っているのだ。言っている事が滅茶苦茶だが本当に殺すつもりなのだろう。

 「……了解した」

 リン様の命令に従えと命を受けている。ただ問題は、非常時の...


 通路の奥で扉が開く音がする。ボス部屋に挑戦するのか、挑戦が終わったのか、気付いているはずなのにこの場を動く気配の無いメイド達。大人しく待てということか。





 そして、


 九層ボス部屋前。

 目の前で楽しそうに人の形をした紙切れに剣を突き刺すユウキ君。

 それを見ているクロと私。最後の不確定要素であるメイド長さんはまだボス部屋挑戦中だ。

 そしてなぜか嬉しそうにこちらを見るクロ君。

 「リン、これがスキル強奪持ちの末路なのだ! ばばーん!」

 「なになに?」

 「こうなる前にあいつも殺しとくべきなのだ! ばばばーん!」

 「えー、これはスキル強奪と鑑定を持ってる人の末路じゃない?」

 「鑑定が無いほうが無差別感が二割増で危険なのだ! じゃーん!」

 「えー、なんか説得力がある!」

 そんなことは無いと思っているが、実際目の前の壊れたユウキ君を見ているとなんともいえない気持ちになる。多分、それは彼だけではなく私も一人だけだったなら、と思うとこうならなかった自信が無いから...ぐりぐりぐり、とクロが私の頬に頭を押し付けてくる。

 「取り合えずこいつは殺しとくのだ!」

 「……そうだね」

 悪運。これを持っている以上どのみち相容れない。



 「後はそうだなあ、これとこれだったかな」

 そう言いながら別の人型に剣を突き立てるユウキ君。

 「いつも、こういうことをしているの?」

 その楽しそうな顔に質問する。

 「ん? 当然でしょ、強奪できるか無くなるまでやらないと」

 「そう...」


 黙々と人型に剣を突き立てるユウキ君。


 「いつからそうなったの?」

 「ん? そりゃリザレクションを覚えてからだよ、それまでは効率アップの為に光魔法を持っている僧侶や司祭を集中的にやったかなあ」

 嬉しそうに壊れていった過程を話す。

 「スキルは使用していれば自ずとレベルが上がるのは知ってる?」

 「いつ上がるか分からないそんな方法より、鑑定で見れば確実に上がるスキルを持っている者が解るんだよ、しかもそれを強奪できれば一瞬でレベルが上がるのも分かっている、それなのにそんな効率の悪いことする意味ある?」

 スキル強奪というスキルは本当に救いが無いなあ。いわゆるソシオパス、シリアルキラー製造スキルだよね。


 「そんなお前が生きている事に意味はあるのか?」

 クロがユウキ君の肩に乗り、鎖骨と肋骨の間に爪を立て心臓へと伸ばしていく。


 心臓へと爪が達する瞬間いきなり何かにつまずき倒れる。つまずくものなど何も無いのに倒れその拍子に手から離れた剣が残りの人型を貫く。

 「凄いね」

 「凄いな」

 剣もそうだが、倒れた拍子にクロの爪が心臓から逸れたのだ。つまずいた拍子にこのような偶然が重なるなんて運が良いとしか言いようが無い。


 しかし、運と言うものは尽きるモノなのか...


 「――――」


 つまずいた拍子に首に巻いてあった糸により胴から離れたユウキ君の頭部が胴体の横に転がっている。

 何か呟いているようだ。


 自分が絶命している事に気づいていない彼は運が良いのか...


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