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32:外野

 ある程度のリスクを許容しなくては先に進めない。そこは私とクロだけの問題、まずは準備を始めよう。


 アイテムボックスからある言葉が書かれた紙を取り出す。ある言葉というのは【だが断る!】なんだけど、これで通じるのかというか何故こんな言葉が書いてある紙があるのかという理由から、筆記の練習というかなんというか自動翻訳と言うスキル、喋る言葉も書く言葉も自動的に変換してくれる優れ機能なんだけど、ある本で多様な生き物の人生を読み見た時に言語が統一されているわけではないのを知り発する言葉は録音でもされなければ残らないけど記述した言葉はどうなるのかという疑問を持つ。

 検証すると回答ならば設問の言語に準じ、何もない白紙に記述する時は変換が機能しないことが判明した。これは検証が不十分で近くにいる人によって書かれる文字は自動変換される事が分かった。というかこれも不十分でイメージした言語に変換も可能な事が判明したけどまずその言語自体を理解していないとイメージ自体が曖昧になって複数言語の混じった暗号が完成したりして、これ自動翻訳持ってる人しかすぐに解けない暗号だねとか、設問で複数言語で書かれた物出されて普通に答えを書いたら暗号が完成してしまいアウトだよねとか色々問題が浮き彫りになったりして。

 長くなってしまったので結論を説明すると、基本記述時は自動変換スキルを発動することなくローラン公用の言語で書く練習をしている時にクロに何でもいいから書く言葉をいってもらった時に書いた言葉の一つなのです。


 (クロ君)

 (うぬ?)

 (これヤンさんに届けてきて)

 (だが断る!)

 (はいはい、だが断るを届けてきてねー)

 (ぬう、ならばしょうがない)

 ぱくっと小さく折りたたんだ紙を銜えるクロ。その姿は私の黒髪に潜り込むように移動した瞬間消える。




 ヤン率いる王国特殊部隊はリンを中心に周りを取り囲むように展開している。その一箇所、全体を見渡せる物陰からリンを視認しながら報告を聞いているヤン。

 「火の一族ではないのだな」

 お姫様周辺で確認出来る異様な気配の原因の確認だ。

 「はい、火の一族はリン様と友好関係にあります」

 「ではなにかが居るということか?」

 「おそらく、隠密か何かで姿を認識できなくしているものかと」

 我等に確認出来ないほどの隠形(おんぎょう)術の使い手となると可能性は限られてくる。

 「……勇者か、クソが!」

 報告に上がっていたユウキと言う奴だろう。碌な噂を聞かないコワレモノだ。


 目が合う。


 手で小さくバツを作っているお姫様。おいおいマジか、規格外なのは認識しているつもりだがこの状況で俺の場所も把握済みというわけかよ。

 「にゃ!」

 「「ウオッ!」」

 場に居たもの全てが思わず声を上げてしまう。


 先ほどまでお姫様と一緒に居た猫が目の前にいる。クロとか言ったか。

 「…………」

 「…………」

 互いに黙って見つめ合う。


 ぺっ! と何かを吐き出す猫。

 「…………」

 ぺしぺし! とその小さく折りたたんだ紙の様なものを叩き。

 「にゃ!」

 「……読めと?」

 「にゃ!」

 猫と会話しているのか俺は、と自嘲しながらその唾液でべたべたな紙を拾い上げ開く。


 【だが断る!】


 「………………………………は?」

 「にゃ!」


 落ち着け俺。考えろ俺。

 ぺしーん、ぺしーんと尻尾を地面に叩きつけながらこちらを見つめる猫を見る。

 「……助力不要と?」

 「にゃ!」

 正解のようだ。俺は何故猫と会話しているのか。と思った瞬間に猫の姿を見失う。


 まさかと思いお姫様を見れば、その肩に座りお姫様とともにこちらを見ている今ここに居たはずの猫。

 わかった? と言っているかのようなお姫様の視線に小さく頷く。



 しばらくすると移動を開始するお姫様達。迷宮へと向かうようだ。冒険者ギルドの管轄する管理迷宮、姿を隠しながらの追跡は難しいだろう。助力不要といわれた以上ノコノコと付いて行く訳にもいかない。冒険者として迷宮へと潜入している者達を動かすか。助力ではなく護衛としてだ。

 「管理迷宮に潜入済みの者達に連絡を取れ」

 「ハッ! 任務はいかがいたしますか?」

 「お姫様の安全が第一、勇者ユウキが存在したならば生死は問わず確保。装備はフルだ、迷宮脱出用アイテム、麻痺、静寂、睡眠、猛毒全ての巻物の使用を許可する」

 「指揮はいかがいたしますか?」

 「各自の判断、もしお姫様に気付かれたならその指示を最優先とする」

 我々はローランの為に動いている。首輪の無い勇者がローランをフラフラしているなど許容できない。しかも壊れているとの噂が絶えない勇者だ、当然ローランの利益になる様に行動する。しかし彼女も名目上ローランだ、たまたま迷宮に居た我等の手の者が独自の判断で護衛をしていたとしてもその場で彼女に命令されれば当然逆らえない。


 連絡を取るために動き出す部下達を見つめながら一息つく。


 お姫様が行方不明または殺されでもしたなら俺を含めここに居る全員の命は無いだろう。その死体でも回収できれば、いやどのみち死体回収の事実を知ってしまっている時点で秘密を守るため部下達の命は消す事になるだろう。

 勇者などというバケモノは基本不意をついて倒す相手、ふと寄った店の食事に毒を盛ったり、泊まった宿自体に睡眠魔法をかけたり、犠牲を度外視しそれらを繰り返す事で精神的に疲弊させ仕留める。正面から仕掛けてどうにかなる相手ではない。向こうから攻めて来た時は逃げの一手しかない相手だ。


 今の状況はどうだ? 確実に向こうが攻勢に出ていてしかもどうやら標的は我等の守るお姫様らしい。


 まさに最悪の状況だ。


 それなのにそれほど心配していない自分がいる。

 にへら、という表現がしっくりくる。親しい者だけに向けるそのとぼけた笑いを浮かべるお姫様の顔が浮かぶ。最初見た時はこんな能天気なお姫様の護衛かと思ったものだ。


 ふと気付く。ああ、そうか、あの笑いはあいつと似ているのか。

 王都を守るヤン、何もかも見透かしたようなあいつの笑み。素直に名乗り出て指示を仰げ、だったか、まあいい、これで最悪の結果が出たならあいつに俺の首を斬らせよう。最高の嫌がらせだ、その時あいつがどんな顔をするか見物だ。


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