02:ブオトの町
スキルの迷宮。
その最下層を攻略すると、望むスキルが手に入るという。
数年前に攻略され、閉ざされたままであったその扉が最近開放された。
と言う事で、私とクロはその迷宮が存在するブオトの町というところに向かっています。
地理的な話をすると、ここはローランという王国で、ブオトの町もローラン王国の一部になります。
ローラン王国の首都であるローラン王都から伸びる主要街道の一つ、隣国のカーライルへと続く街道の途中にブオトの町が存在しています。
えーと、目的ですね。
なんかいいスキルがあればいいなーって感じです。
聞くところによると、レベルの存在する通常スキルしか出ないという事なので取り合えず錬金スキルを手に入れようかなあって感じで来ました。
(あ、そういえばクロは忍術が欲しいんだっけ?)
(うむ、チャクラを廻すのだ)
(なにそれ?)
(だが我が求めるのはただの忍術に非ず、超忍術!)
(そんなの無いと思うよ)
(否! 諦めたらそこで終わり! 信じるものは救われず!)
(はいはい、救われなかったらダメなんじゃないの)
(むぅ!)
と言いつつ、かぷっ! と私の指を噛んでくる。
クロとスキルについてもう少し詳しく説明しておこうかな。
私の持っているスキル、召喚魔法(式神)。召喚魔法には幾つかあるみたいなんだけど、私の持っているのは式神で人や動植物などを模した紙を依り代に式神を呼び出すものなの、例えばそうだね。
アイテムボックスから式紙を取り出し馬車の外に放つ。
ひら、ひら、ひらと形を変え数十、数百の紙の蝶が空へと舞って行く。行き先は今向かっているブオトの町。あの蝶は私の指揮に従いブオトの町の全てを監視し私に報告する。
これが、あらかじめ行動の指揮を与えられた式。
このほかに、意思を持つ存在を降ろす式神。対価を必要とする式鬼の召喚などがある。
式神は、私と契約した人ならざるものを召喚して色々とお願いする事が出来るもので、契約の深度の深いモノは己の意思で考え行動し、それほど協力的でないモノは強制的に使役し命令したりすることも出来る。
式鬼は神様とか鬼とか、私の場合は無理をすれば鬼神の類まで出来るのかな、ちょっと別次元の存在を召喚する事で、けどまあ、色々危険なので早々使えるものではない。
で、召喚魔法スキルは常時召喚として使い魔を一匹召喚する事が出来るの、それで呼び出したのがクロ君。
黒い毛並みにエメラルドグリーンの目の可愛らしい子猫。本人は子猫じゃないって言うけど女の子である私の肩の上にちょこんと座れて、両手の平で包み込めちゃう大きさじゃ子猫だよね。
性格は、何となくわかっただろうけど、何かを拗らせているみたい。
我は魔王の生まれかわりだぁとか、真理を読み解く者だとか、神とか、なんとか。
ぐりぐりぐり!
といつの間にか私の肩に移動したクロが頬に頭を押し付けてくる。
(なあに?)
(へんなことかんがえてるだろー!)
とその可愛らしい目でじーっと見つめてくる。
(ううん、考えてないよ)
言いつつ、わざとちょっとだけ視線を逸らす。
(我は全てお見通しなのだぁぁ!)
ぐりぐりぐり!
(はいはい、凄いね)
(すごいのだぁ! えっへん)
クロの頭を撫でる。嬉しそうに目を閉じてもっと撫でろと頭を押し付けてくる。
うん、ちょろい、というか撫でて欲しかっただけだね。
まあ可愛らしい子猫の姿をしているけど、クロは実際凄く強いです。
通常スキル、後ろに数字のついたスキルはほぼ私と同じ物を待っていて、そのほかに念動力と魔闘技というユニークスキルを持っている。
スキルは私とクロ別々の物を持っているけど、体力や魔力は召喚主の私と同等なので、んーとここで私自身がどれだけ強いのかって話しになってしまうけど、まあ、魔王を倒せるくらいには強いってことですかね。
ユニークスキルの念動力はその名の通り、テレキネシスといわれる手を使わずに物を動かしたりする事が出来る超能力の様なもので、まさに見えない手で何でも自由に操れるというもの。クロ君、たまに念動力で自分をふよふよと宙に浮かしたりして遊んでます。
魔闘技は、クロは猫なので剣術スキルや槍術スキルは使えなくというより覚えられなくて、ネコ格闘術のみだったんだけど、これはそれの進化版で格闘術のユニークスキル化の一つで、何か色々超スピードで移動出来たり、なんか色々出来たり、色々ななんか凄い感じかな。
(リン)
(ん?)
(また適当な説明してないか?)
(え、してないよ?)
(本当に?)
(うん、クロってイケメンネコだよって説明してたとこだよ)
(キラン! 我に惚れると焼け死ぬぜ!)
(死んじゃうの!?)
イケメンネコポーズのつもりらしい体勢でじーっとこちらを見つめてくる。指を出すとぱくって甘噛みしてきそうなポーズだ。
そ~っと、ぱくっ! あむあむ!
……まあいいや、それよりも問題がある。
私とクロ以外の馬車のお客さんが意識を失って死にかけている。ちょっとよろしくない、いや相当よろしくない状況だ。
原因は解っている。
当然何の影響も受けていない私達が原因で、今私の装備している魔王のローブから死の波動っぽいものが出ているからだ。
これ、魔王を倒した本人しか装備できない専用装備という事で、装備する事で付加される状態異常耐性も毒や麻痺など全ての状態異常を無効化してくれる優れものなので早速装備してみたところ、色々とカスタマイズが出来る事が判明した。
その一つがローブの色を漆黒から純白まで好きな色に調整できる事、今まで私、白のローブをずっと着てた事もありトレードマークみたいになってた事もあるんだけど旅をするのに白は目立つのでこれは便利かもと思い、今回はクロが恰好良いからという理由で黒にしてみていたのです。本当は漆黒がいいと駄々をこねていたクロだけど、漆黒にするとまるで闇を纏っているみたいになってしまい、どう見てもアウトな見た目になるので黒に止めておいたのだけど、正解だったみたい。
甘噛みに飽きてローブのフードに潜りこみ、寝る気満々だったクロに声をかける。
(ねえクロ君)
(うむ?)
(魔王のローブの色、白にするよ)
(却下!)
(いやいや、このままだと魔王のローブから出てる変な効果で他の乗客の人達が死んじゃうよ?)
(問題無し)
(大問題だよ)
(すやあ~)
と狸寝入りをするネコさん。
(なにそれー、ま、寝たんならいいよね)
(だめすやあ~)
(なにそれえ~)
寝たふりをするネコさんの意見は却下して魔王のローブの色を白にする。
すると一転、ローブから癒しの波動っぽいものが放出されているような気がする。いや、回復効果っぽいものが確実に周囲に拡散されている。
うーん、迷惑な装備だなあ。
灰色にすれば何の波動も出なくなるのかなあ? やっぱり色と効果は連動しているのかなあ、それは困るなあ。
それに、装備している本人に判らない効果っていうのは困っちゃうなあ。まあけど、死の波動とか装備者本人に降りかかってきても困るけどね。
しばらくすると、死にかけていた乗客達から安らかな寝息が聞こえてくる。
(すやあ~)
フードの中からも安らかな寝息が聞こえてくる。
――平和だなあ。
流れる景色を楽しみながら、うつらうつらしているとブオトの町が見えてくる。
何事も無く町に着きそうだ。手を背中にまわしフードの中を探ると、ガシッと私の手にクロが抱きついてくる。
(つかまえたのすやあ~)
寝ぼけているのか、起きているのかわからないクロが私の手に抱きついたまま指を甘噛みしてくる。
そのままフードから手を出しクロを腕の中に抱き頭をツンツンとつつく。
「ほらクロ、もうすぐ町に着くよ」
「はむはむはむ!」
私の指を噛み続けるクロ。もう、おねぼうさんだね。