23:後始末
ポゥ、と闇の中に黒い炎が浮かび上がりガロッチだったものを燃やす。
不思議な光景だが、闇の中で闇色の炎が燃えている。それを見つめる闇色の獣。
全てが燃え尽きるのを確認して、とぅ、と扉に向かってジャンプし器用にドアノブにしがみ付くとドアノブが下がりガチャと音が鳴り扉が開く。
「さささっ、きょろきょろ、お腹空いたのだぁぁ!」
自分で効果音も発しながら開いたドアの隙間から廊下に飛び出す器用な獣。
開いた扉の隙間から廊下の灯りが部屋へと漏れる。
主を失った部屋。静まり返った部屋に入る明かりに照らされ光る折れた剣。
ただの折れた剣。
剣としてもう役に立たないと思えるものだが、しかし、ここにあるモノは魔剣なのだ。
マジックアイテムはある一定以上の物になると自己修復機能を持っている。例えば魔法の鎧。戦闘で傷ついたとしてもある一定時間、例えば翌日にはその傷が修復され無くなっているのだ。剣に関しても刃こぼれ程度ならば連戦でなければ次の戦闘に入るまでには修復され元の切れ味を取り戻す。ただし折れたとなると話が違ってくる。レア度の低いマジックアイテムならば折れた時点で魔法効果が霧散し使い物にならなくなるし、レア度の高いマジックアイテムであっても自己修復には時間が掛かる。
しかしここにあるモノは幾人もの人の命を吸ってきた魔剣。並のモノではない。
溢れ出る炎とともに魔剣の柄が宙に浮かぶ。そして、柄から溢れ出た炎が折れた刃を包み込み宙に浮かび上がらせる。
魔に属するこの剣は吸い取った命の数だけ復活する。それは一体幾つになるのか?
宙で元の姿を取り戻した魔剣は、新しい使い手を欲する。
魔に魅入られる者。次にこの部屋へ入って来た者を魅了し新たな宿主とする。
ただ待てばいい。
既に刀剣が黒く染まるほど命を吸ってきた魔剣には使用者の技量は必要ない。剣を持てるものならば誰でもいい。逆に剣を持つことに意外性があればあるほど真価を発揮できる。
ただ、次の犠牲者を待つ。
ピキンッ!
突然、魔剣が縦に二つに裂ける。
いや、横にも四つ、八つ、次々と...
ゴゥ!
魔剣が炎を吹き上げる。
ひぅん!
その風を斬る音とともに青白い線が、いや、糸が魔剣を縦横無尽に数え切れないほど、それこそ魔剣が吸ってきた命の数の数十、数百倍の、まさに金属片になるくらいの細かさに魔剣を斬り刻む。
修復しようとした魔剣の炎が一瞬で消える。そう、一瞬で魔剣であったものがただの鉄屑となったのだ。
突然扉が閉まる。
闇が部屋を支配する。もう既に何の危険も無いただの闇がこの部屋を支配する。
かりかりかりかり、かりかりかりかり!
(リーンー、あけてーなのだー!)
扉の向こうでクロがカリカリと扉を引っ掻いてる。
(念動力使えば開けられるでしょー)
といいつつクロ君、カリカリを楽しんでる感があるので糸で扉を開ける。
開いた扉の隙間からさささっと入ってきたクロが元気にダイブしてくる。
「お腹空いたのだー!」
バンザイダイブしてきたクロのお腹を手でキャッチしてベッドに転がそうとしたら、ガッチリ手を掴まれてしまった。
「むふふー、放さないのだー、あむあむあむー!」
「もー、どこで遊んでたのさ?」
「ひみつなのだー!」
別に秘密でもいいけど、詰めが甘いぞキミわー。
「秘密のある子はご飯抜きでーす」
「なぬー!」
甘噛みしてた親指から口を離したタイミングで両手でクロをわしゃわしゃにする。
「やーめーるーのーだー!」
嬉しそうに嫌がるクロ。
クロと一緒にご飯を食べてお風呂に入って、こうして色々あった一日が終わる。




