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21:暴力

 蝋燭(ろうそく)の炎がユラユラと揺れている。


 ゴルジフ家に雇われ、剣を振るってきた。

 スキルの迷宮に必要以上の冒険者を入れないために貴族どもが実施している試験。

 その最終試験の対戦相手として俺が立ち塞がる。行われるのは真剣による実戦形式の戦闘。


 相手の心を折る程度に痛めつける事と言われていた。


 しかし、俺のこの魔剣。炎を司る剣には生贄が必要だ。よって、挑戦者どもを有無を言わさずに焼き殺してきた。

 遠まわしに殺しすぎだと忠告してきていたが、俺に代わる実力の持ち主などそうそういない。それに、蘇生不可能なまでに焼き尽くされる様を見た冒険者達は二度と試験を受けようなどと思わない。完全に利害が一致していたはずだ。それを反故(ほご)にしてきた。


 先ほど見た女を思い浮かべる。


 冒険者、それも後衛の恰好を装っていたが、傷ひとつ無い整った顔と手入れされた美しい黒髪、何よりその苦労をした事も無いような笑顔。

 変装しているつもりだろうが、この様な貴族専用の宿を利用している時点で既に失敗している。


 「…………」炎を見つめながら考える...


 先ほどは短絡的にゴルジフと結び付けてしまったが、無関係の可能性もある。

 冒険者の真似事をしてみたかったどこぞのお嬢様が、冒険者の恰好をしてこの宿に泊まっているだけの可能性もある。

 しかし、そのお嬢様がどこぞの大貴族の縁の者とゴルジフが知っていて、あれが滞在している間だけ俺の存在を切り離しにきた可能性もある。


 ……考えていても答えは出ない。剣を手に取り抜き放つ。


 傷ひとつ無い黒い刀身がテーブルに置いてある蝋燭の炎を赤く映し出す。


 無造作に剣で蝋燭の炎を横に薙ぐ。すると、まるで炎が剣に吸い取られたかのように薙いだ剣先に移り、蝋燭はただの蝋の塊と化す。

 剣先の炎をしばらく見ていると、まるで炎を吸い取るかのように剣先が炎色に染まりそこに炎が吸い込まれていく。炎の魔剣は人の血を吸い、人の命を吸い、炎を喰う。

 手に入れた当初は、銀色であった刀身が血を吸い、命を吸い、それらを炎として燃やし、その炎を喰い。その吸い取った命が十を超えた辺りから徐々に黒く染まってきた。炎のみをその刀身に映す黒に染まったのは何時からだったか...


 初めは魔物を狩っていた。

 強い魔物を狩ると、剣も自分も強くなっていく事を実感できた。魔剣が吸い取った命により己の傷も癒えていく事からソロで魔物狩りを行っていた。

 しかし、魔物のレベルが上がってくるにつれ、ソロでの限界を感じ場当り的にパーティーを組むようになっていった。狩れる魔物の数は増えたが、人員補充で入ったパーティーなどで命令される事に嫌気が差す。ある時、つい、口うるさいリーダーを斬った。するとどうだ、魔物を斬るよりも多くの力を吸い取る事が出来た。


 そして理解する。

 剣とは人を斬る為の道具であるという事を。

 そして感じる。

 人を斬るという事はなんと心地の好い事なのかと。


 結局その場にいたパーティー全員、男二人と女二人を斬り捨てた。


 そしてさらに理解する。

 強い冒険者を斬る事で魔物を斬るより効率的に魔剣が力を得ることに。

 そしてさらに感じる。

 女を斬る事とはなんという快感なのかと。苦しみ身悶えるそれを楽しみながら更なる絶望を与える愉悦。


 その日から人斬りとしての道を歩む。そして辿り着いたのがここ。

 昼は公式に一対一で冒険者を焼き殺し。夜は宿に呼んだ商売女を焼きながら楽しむ。やりすぎて死んでしまっても俺のバックに楯突く事は出来ず秘密裏に処分してくれる。


 圧倒的な力に絶望しながら燃えていく冒険者達を思い浮かべる。


 己の肌がジュウと音を立て焼けていくのを恐怖しながら見つめる女達を思い浮かべる。


 「楽しかったな、クヒヒッ!」


 十分楽しんだ。また流れ歩くのも一興。

 先ほど呼んだ商売女で派手に楽しみ、その後、あの女というにはまだ幼い少女の所に乗り込んで殺さない程度にじっくり楽しもう。そして...全てを諦めた頃にこの町にいる奴隷商の所に連れて行き奴隷契約を結ばせる。上手く事が運べばこの町でもっと楽しむ事も出来る。


 「ケヒッ!」

 思わず笑いがこみ上げる。


 「楽しそうだな?」


 不意の言葉に、飛び退き間合いを取る。手にした魔剣から炎が吹き上がる!


 「……」

 何時からいたのか、人の気配など微塵も感じなかった。現に今も何の気配も感じない。まさかゴルジフからの暗殺者! 無言で声のしたほうを睨む。


 そこには闇が(わだかま)っていた。

 魔剣の炎に赤々と照らし出される室内にただ一つ、そこだけが炎の光が届かない闇のように黒く、暗く、漆黒に...


 その闇に向かい問いかける。

 「お前は何だ!?」


 「何だ? か、そうだな、お前を殺す者というところか」


 それが目を開けこちらを見上げる。

 「ケヒィッ!」

 思わず笑いが漏れる。何かと思えばただの喋る猫だ!!!


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