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19:噂

 光が溢れ、軽い浮遊感の後、隠密を発動する。


 転移魔法陣の周りに人だかりが出来ている。誰を待っているのかは容易に想像出来る。注目は彼等に任せて私はそっと、人だかりを抜け帰路につく。こうでもしないとゴルジフさんとメイド長さんが自分達の屋敷に来てくださいとか言い出しそうだし。断ったら今度はバラの宿までついて来そうだからね。



 スキルの迷宮からの脱出用魔法陣の出口。

 そこに現れた奇妙な組み合わせの一団を黙って見つめる野次馬達。通常ならば、質問攻めが始まるのだが、さすがに口火を切れる馬鹿者は存在しないようだ。


 ひとりはゴルジフ卿、今現在のこの施設を実質的に取り仕切っている大貴族。軽口を叩こうなら問答無用で即殺だ。

 次は火の一族の戦闘メイド達、いわずもがな、実力主義の魔法の一族、迷宮内でメイドと侮り軽口を叩いたものが多数問答無用で殺されている。

 そして、

 「ええい! 散れ散れ!」

 冒険者ギルドのギルド長セザール。

 迷宮管理の実権の大半を貴族に奪われてしまっている。己の不甲斐無さと貴族に対して忸怩(じくじ)たる思いを抱いているはずであるがなぜかその貴族の象徴とさえいえる者達と行動をともにしている。。


 互いが相容れない存在。それが揃って迷宮から出てくる。

 当然皆、それを可能とした存在を探すがどこにも見当たらない。


 「……屋敷へ戻るぞ」

 ゴルジフ卿と騎士が、魔法陣から出る。


 「……」

 続いて、メイド達も無言でその場を離れていく。


 一人残ったセザールに冒険者から質問の雨が降る。

 「黙れ黙れ! ワシは疲れてるんだ!」

 近付いてくる野次馬に対し戦斧を振り回しながら応戦する。





 黙って歩くゴルジフに騎士がおずおずと声を掛ける。

 「若様、あの御方は、」

 「我々に構われるのを煩わしく思われたのだろう。実際迷宮内で我々は足手纏いでしかなかったからな」

 褒めて頂いたが火の一族やセザールと同列に評価されただけだ。しかも実際は盾として多少役に立っていたに過ぎない。正式な騎士があの程度と思われるのは貴族としての名折れ。

 「…………」

 黙り込む騎士達。実際、自分達が命懸けで挑戦しても勝てるかどうかが半々以下の最下層のボス部屋を易々と攻略してしまうあの御方。火の一族の話ではその類稀な実力からローランを名乗ることを許されたと言う。そのようなこと、どんな偉業を成し遂げた英雄や勇者だとしてもありえない。異例中の異例だ。

 「ローランの名を背負った上で単独行動を許されている御方だ、護衛云々を我々が申し出てもリン様の行動を制限してしまうだけになりかねん」

 しかも英雄殿の花嫁や、まして王の、などと邪推をしてしまった。事に依ればリン様の指揮の下、我等ローランの騎士が集うということもありえるのだ。

 「…………」

 「このままではゴルジフの名折れだ、明日は完全装備で行くぞ」

 「ハッ!」


 騎士が気付いたように質問する。

 「若様、戦力という点だけでなら秀でているあいつも呼びますか?」

 「ガロッチか、あの様な者をリン様の前に出せるわけが無いだろう。最低限の礼儀も知らん無法者だ」

 「確かに、最近益々粗暴な態度が目立っています」

 「奴との契約は切れ、リン様がこの町に滞在している間に何か問題でも起こされては我が家名に傷がつく」

 「ハッ!」





 人気(ひとけ)が無くなったのを見計らい、メイド長様に質問をする。。

 「メイド長様、お嬢様は隠密スキルを発動なさったのでしょうか? まったく気付きませんでした」

 「ニア、お嬢様に比べれば我々メイドの実力などゴミの様なもの、今日はその至高のお力の一端を拝見できただけでも恐悦なことなのです」

 「は、はい、その通りです!」

 メイド長様の表情、とてもお幸せそうだ。


 メイドの一人が質問する。

 「お嬢様のご宿泊先を探し護衛を配置しますか?」

 「必要ありません。私達の存在がお嬢様の邪魔になる可能性があります」

 「かしこまりました」


 そういえば、お嬢様は火の一族ではない。私達メイドは今後どのような立ち位置になるのか。

 「あ、あの、メイド長様。私達の仕える主というのは、」

 「当然、お嬢様ただ一人です」

 「で、では。」

 「お嬢様は、我等メイドが命を賭して仕える真なる存在。お嬢様が望まれるなら火の一族全てを殺すことも是とします。しかしお嬢様が望まれているのは火の一族としての戦闘メイドです」

 「そ、それは、どういう意味なのですか?」

 「魔法の一族の一翼を担う火の一族。火の一族だからこそ出来る働きというものが存在します。魔法の一族が共有している情報網や行使できる権限、魔法を使った情報操作や権力の行使...」

 「た、たしかに、別の立場からなら実力的にお嬢様に劣る私達でも出来る事があるという事ですね」

 「その通りです。しかし、この町でお嬢様に会えたことはまさに天啓。ニア、貴女も至高にして究極の存在であらせられるお嬢様と行動を共にすることでお嬢様の偉大さを再認識するのです」

 「は、はい!」


 「もしお嬢様の覇業を邪魔するものがあれば、わかりますね?」

 「問答無用で排除、ですね」

 メイド長様が微笑まれる。





 「くしゅん!」

 (リン、風邪か? 我の光魔法の出番か?)

 (え、違うよ。誰かに噂されてるんじゃないかな)

 (うむ、確かに町中の噂になってるな!)

 (だよね!)

 昨日回れなかった屋台を回っているんだけど、私の噂で持ちきりです。

 まあ、噂の域なんで、大貴族のご令嬢とか神子さんとか、容姿も金髪碧眼とか見当外れのが結構混じっていてまだまだ平気そうだ。けど、そう長くはこの町にいられないかもしれないな、と思う今日この頃なのです。


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