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16:間違いだらけ

 閉じたボス部屋の扉を前に激昂するセザールとゴルジフ卿。

 「キ、キサマァ、自分が何をしたかわかっとるのかぁ!」

 「はい、お嬢様のご希望のままに」

 当然と言う顔で返答するメイド長様。でも、本当に大丈夫なのだろうか、先ほどの話では攻略不可能なことを言っていた。


 険悪な雰囲気の中、聞きたいという思いに負け口を開いてしまう。

 「あの、メイド長様」

 「なんですか、ニア」

 「あの御方が、お嬢様なのですか?」

 「……そういえば、貴女はお嬢様とは初対面でしたね」

 「は、はい」

 凄くお美しくそしてお強いのは理解できました、けど、あの御方は火の一族ではないのではという思いがある。

 「あの御方が我々メイドがお仕えする真の主であらせられる、リン・ローラン様です」

 リン・ローラン様、え? ローラン? お、王族の!?

 「え、えぇぇえ!? ローラン王家の方なのですか?」

 「そうです。お嬢様は先日ローラン王家の一員とならせられました」

 「せ、先日、ですか?」


 私達の話に興味があるのか、激昂していた二人が耳を傾けている。

 「く、詳しく」

 「……なんと、火の一族には通達が来ていたのか、いや、魔法の一族ならば当然か、」


 「お嬢様はその類稀なお力を国王に認められ、フレデリック王自らの名でローランの加護を御受けになりました」

 「王様自らですか、そんな前例聞いた事...あ、あの、その類稀な力というのは?」

 「全てです」

 「え、すべて?」

 「そうです。例えば戦闘力」

 「た、たしかに、とてもお強いのは理解できます。しかし、だからといって、同じ強さを持つという相手に、」

 「いえ、解ってませんね。お嬢様と同じ強さなど再現できるはずがありません」

 「え、でも」

 「そうじゃ、同じ強さのコピーが出現する事は確認されておるのじゃぞ」

 横合いからセザールが言葉を発する。

 「……その確認された強さとは、ここにいる全員を一瞬で殺せるほどの強さの者ですか?」

 「? 何を言っておる。ボス部屋はソロ専用じゃぞ、ソロでここに居るものを倒せる強さの者など、」

 「私達は一度お嬢様に殺されました。全員一瞬で」

 「え」

 「え」

 「え」

 信じられない告白に私とセザールとゴルジフ卿が固まる。しかし、メイド長様を含めた先輩方全員を一瞬で殺せるなら騎士と引退した冒険者が増えたところで結果は同じだろう、つまりここにいる全員を一瞬で殺せる力をお持ちという事になる。

 「そして、そのお優しい御慈悲によって蘇生されたのです」

 「え」

 「え」

 「え」

 信じられないが、信じるしかない。メイド長様はこういうことに対して絶対に嘘はいわない。

 「ベラボーに強いだけじゃなく、蘇生魔法まで使いこなせるのか?」

 「当然です」

 「そんな人材、ああ!!!」

 そんな人材がいたとするなら、誰でもどんなことをしてでも手に入れたいと思う。

 「理解できましたか?」

 「あ、だから国王自ら?」

 「その通りです」

 凄い、凄い! そんな御方のために働けるなんて、あれ?

 「でも、そんなにお強いのなら、護衛など必要ないのでは?」

 私達より強い御方を、弱い私達が守るなんて。

 「ニア、解ってませんね。私達のやり方を覚えていますね?」

 「あ、」

 理解した。搦め手。周りの弱いものから徐々に落としていく。

 「そうです。私達の真の役目は裏から手をまわしお嬢様に不快な思いをさせようとする者達の排除です」

 言うことを聞かせるために、本人ではなく本人が大事に思っているものを傷つけたり、攫ったりして強制的に服従させる。これは、私達が最も得意とする手法。得意とするからこそ防ぐことも可能となる。

 「はい!」

 あれ? でも、ならばなぜローラン王国はその手を使わなかったのだろうか?





 唐突に扉が開く。





 私が私と戦っている間になにやら交流があったみたいだ。メイド長さんと新人さん、多分私を襲ってきたメイドの中にいなかったと思うから新人だと思うんだけど、つまりあの子は洗脳してないんだよね、けどなんか洗脳済みのメイドさん達と同じ視線を送ってきてるし、さっきは「お嬢様、素敵です」とか言っていた。まあ、メイド長さんが上手い具合にやってるのだろう。


 扉が開ききる前にセザールさんが飛び込んでくる。

 「無事かぁぁ!?」

 「あー、はい無事です。ご心配をかけました」

 「ウ、ウムウ」

 怒ろうとしたけど身分が上の私を怒れないジレンマに言葉を詰まらせるセザールさん。

 「お嬢様、お時間が掛かりましたが、何か問題が発生したのでしょうか?」

 「え、別に、普通の魔物が出て倒しただけだよ」

 「レアボスではなかったのか?」

 「うん、ほら、レアボス倒したらこの扉開かないでしょ?」

 「ム! 確かに」

 本当はレアボス倒しても宝箱のスキルを選択し取得しなければ倒した事にならないってだけなんだけどね。


 「脱出用の魔法陣もあるし、今日はもう帰りましょうか」

 ここでボス部屋周回しますとか言ったら卒倒しちゃいそうだし、色々と検討すべき事もある。おそらくここからは未知の領域、あの場面でスキルを選択しなかった者などいないはず。本来なら自分と同じ力を持ったものとの対戦など二度としたいと思うものではない、経験と感情という優位事項があったとしても、いや、感情に関しては不利になる可能性さえある。つまり勝つこと自体に運が絡んでくるような戦闘を、しかも目の前にある好きに選べる、ここでしか手に入らないようなスキル群を選択しない、しかも選択しなかったらクリア扱いになって迷宮が閉じてしまうかもしれないという危険を冒してまでそれを試してみる。そんな愚か者など私が最初でおそらく最後だろうから。


 私が手に入れた知識。ファウストの書の中にいる、数千年生きたエルフや魔人の知識の中にもそのような挑戦をした者の名は出てこなかった。


 はたして次の私はどれほどの力を持っているのか?

 さらに強くなっていた場合、宝箱の中は?

 強くなった私からまったく同じスキルリストしか出ないというオチがあるのか?


 それならそれでもいい。その場合はスキル強奪でしか手に入れる事が出来ないとされている忍術を取るというのも一案だ。しかし違った場合はどの程度の強さの私まで挑戦するのか、運が絡むような戦いはするつもりはない。やめるべき線は事前に決めておかなくてはいけない。


 考える事、決めておく事がたくさんある。


 「じゃあ、帰りましょうか」

 言いつつ魔法陣に向かって歩き出す。

 

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