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15:私vs私

 何か叫びながら、こちらへ向って駆け出すセザールさんとゴルジフさん、それに騎士達。


 私の意図を理解しその通りに動いてくれたメイド長とメイド達、見ただけで意思疎通が出来てしまったことになんだかなあという思いもある。


 約一名を除いて絶対の信頼の目でこちらを見、同じ仕草でメイド達が頭を下げる。


 「お嬢様、ご武運を」


 その言葉と共に目の前の扉が閉まる。


 無音...そして、背後が輝く。


 目を閉じ命じる、一瞬で灰色から漆黒に染まる魔王のローブ。


 するするとフードからクロが抜け出し、尻尾を私の髪に絡ませながら肩に立つ。


 背後に気配が出現する。これは、なかなか...ぞくぞくするね。


 振り向く。


 自分に対する表現として正しいのかは不明だが、神秘的な、超然としたモノがそこに佇み、何の感情も無くこちらを見ている。


 綺麗なお人形さんみたい。誰に言われたのか忘れてしまったけど、赤と白の神秘的な服を纏うその姿は不意にその言葉を思い出させる。


 あの私は、どのような思考で私に仕掛けてくるのか。そのようなことを頭の片隅で考えながら私を見つめている。と、私の体が崩れ始める。魔王のローブから放たれる死の波動に耐えられていないのだ。このまま朽ちるのかと思いながら私を見ていると...


 私が鑑定してくる。そう、ただ自身の体が朽ちるのを受け入れながら私が私を鑑定してくる。

 「リン」

 「うん」

 「戦うまでも無い、か」

 「そうみたいだね」

 戦うまでも無い。その意味するところは、まず、鑑定してきている私には自分を確実に蝕んでいる魔王のローブが無い。


 そして、クロがいない。


 さらに、鑑定が魔眼ではない。


 そう、朽ちていく私は私をほとんどコピー出来ていないのだ。


 そして今、迷宮が五層でコピーしきれなかった結果の私を使い、再度私を分析してきている。


 魔眼を発動し、私も私を()る。


--------------------------------------------------------------------

名前:――

スキル:(特殊)鑑定

    (技) 隠密5、罠解除1

    (魔法)召喚魔法(式神)、空間魔法5

        炎魔法2、氷魔法4、雷魔法5、鉄魔法3

        光魔法、闇魔法5

    (自動)HP回復、MP回復、クリティカル

        魔法耐性、統率4


装備:聖魔の糸:HP回復、MP回復

   陰陽浄衣:魔法耐性

   ウサギの尻尾:クリティカル

--------------------------------------------------------------------


 ユニークスキルの言語翻訳、アイテムボックス、魔眼が無く換わりに鑑定がある。

 装備は、魔王のローブが再現できていない。そのため状態異常耐性が付与されていない。死の波動で急速に朽ちているのはこれが主な原因か。


 あと、聖魔の糸も強化した+5がない。これはコピーできなかったのか、もしかしたらそこまでコピーしないということかもしれない。

 まったく同じ自分には、たまたましか勝てないかもしれないけど、強化分がコピーされていない自分になら確実に勝てるかも...この辺りが攻略のキモかもしれない。


 あの私は、糸を操れるのだろうか? ふと、そう思ってしまう。私は糸使いと戦闘した経験が無い。当然だ、私以外の糸使いに遭った事が無いのだから、しかしもし、私と同等の技量を持つ敵と戦闘できたなら、その経験は私の糸使いとしての技量をさらに引き上げてくれるかもしれない。そしてもし、今後同じ糸使いにあったとしたらこの戦闘経験は確実にアドバンテージとなる。しかしそれは僅かながらに確実に危険との対峙となる。そのような危険を冒す価値はあるのか?

 「リン、足りないのだ」

 「なにがさ?」

 私の考えを読んだ様にクロが耳元で(ささや)く。

 「わかっているのだろう?」

 「そうしたら、今日で終わらないよ?」

 肩からこちらを見つめるクロと視線を合わす。

 「かまわんのだ!」

 「何も手に入れられないかもしれないよ?」

 「かまわんのだ!」

 「負けるかもよ?」

 「ありえんのだ!」

 クロのおでこに私のおでこをあてる。ふふ...



 私が朽ち果て、豪奢な宝箱が出現する。



 宝箱を開ける。

 「リン、開けていいのか?」

 「えー、やっぱり確認だけはしないと、このまま迷宮クリアになる可能性もあるんだしさ」

 目の前にスキルの一覧が表示された。初めて見るタイプの宝箱だね。

 「お、選択式か」

 「だねー、どんなスキルがあるか見てみよう」

 「うむ!」


 魔眼を発動し、表示されるスキルを写しながら見ていく。今しているこれは瞬間記憶能力みたいなもの、ここで全ての考察が出来るわけではないので表示されたスキル全てを憶えておき、その表示の並びなどからスキルの関連性などを後からクロと考える。

 「あ、忍術あったよ」

 「いらーん、我が欲しいのは超忍術なのだー」

 「あ、錬金だ」

 「これを覚えるとカーサ不要説が浮上するな!」

 「えー、カーサは友達だから必要だよ」

 「そうだな、大事な下僕だしな!」

 「空間魔法だ、これも欲しいよね。転移先設定足りてないからね」

 「ううむ、しかし空間魔法は戦闘の役に立たんのだ」

 「えー、けどクロも空間魔法持ってれば合計八個転移先設定できて行動範囲が広がるよ」

 「むむむ、取り合えず保留なのだ!」

 「んー、いいけど」

 たしかに空間魔法は今後普通に手に入れられることもありえそうだしね。


 「結構色々あるね」

 「うむ、ユニークスキルの劣化版みたいなのも多いな」

 「うん、多分これって極めるとユニークスキル化する元のスキルなんじゃないかなあ」

 「そういう考えもあるな」

 「ほらこの死霊魔法とか、ネクロマンサーだっけ? お化けとか呼び出すあれでしょ、多分これを極めれば召喚魔法(死霊)とかになるんじゃない?」

 「使い魔は腐ったネコか?」

 「それはちょっと嫌だなあ、あ、骨のネコじゃない?」

 「微妙だな」

 「だね」

 骨を撫でても仕様が無い。クロの綺麗な毛並の頭を撫でる。


 飽きてきたのか、クロが座りこんだ私のひざの上に移動して丸くなる。

 スキル一覧を操作していない手でクロの丸くなった背中を撫でると気持ちよさそうに喉をごろごろと鳴らす。


 最後まで見たが、確かにユニークスキルは無かった。宝箱と共にスキルの一覧も段々と薄くなり、消えていく。


 はたしてどうなるか、確か迷宮クリアでボス部屋の扉は開かなくなり、扉の前に脱出用の転移魔法陣がでるんだっけか。

 背後の扉は閉まったままで、私の目の前には脱出用魔法陣が輝いている。このまま扉が開かなければ私はただ希少なスキルを取り逃したおバカさんという事でこの町ともお別れだ。


…………

……


 扉が開く。ふぅ、よかった。

 「クロ、再戦出来るみたいだよ」

 「すやぁ~」

 まあいいか、寝息を喋るクロ君を灰色に戻したローブのフードにしまう。


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