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13:注目の的

 朽ち果てる虚ろな影を見つめる。

 「この魔物が戦った相手のスキルを分析して、同じスキルを持ったコピーを迷宮が作り出すみたいね」

 「装備もコピーするのか?」

 「うん。するみたいだけど、これまでコピーできるのかなぁ」

 両手を少しあげ灰色に戻した魔王のローブを見る。

 「うむ、これまで再現するようなら要注意だな」

 「そうだね、その場合は全力で戦おうかね」

 「うむ、それに我の存在がどう扱われるかもだな」

 たしかに、大図書館で手に入れた私の知識の中にも使い魔同伴で挑戦の前例は無い。最下層ではクロがクロとして出てくるのか、それともクロのスキルも持った私が出てくるのか、その辺は実際遭遇してみないと解らない。


 魔王のローブは、ローラン王都にある管理迷宮の最下層のさらに先、魔王の間にいたナベリウスの戦利品。

 それに私の魔眼とクロの念動力、さらにはアイテムボックスの中身、十層しかない迷宮がとてもコピーできる代物ではない。

 もし、これら全てをコピーしてきたならこの迷宮はローラン王都にあるモノを遥かに凌ぐ迷宮という事になる。

 しかし、まあ、攻略されたらしばらく最下層が閉じてしまうということを考慮すれば、それほど凄い迷宮とは考え辛い。


 迷宮の戦利品というのは基本そこで朽ちた冒険者の装備とスキルがベースとなる。後は迷宮にポップした魔物に関連したもの。

 この迷宮はおそらくスキル以外のものは魔素に還元してしまい、虚ろな影が分析したスキルを巻物として排出している特殊な迷宮だ。とても自然に出来たモノとは思えないけどそれを考えると(きり)が無いので置いておく。


 注目すべき点は、通常スキルの巻物しか排出しない事。私の知識、ファウストの書に載っていた話しでは出現する魔物はユニークスキルも持った状態で現れるのに、とても矛盾している。ただ単に排出物として生成する事が出来ないと見るべきか、それとも...



 下層へ下る階段が現れ、背後の扉が開く。

 六層、七層と順調に、じろじろ見られながら進み。八層へと降る。じろじろ見られるという事はボス部屋は常に攻略されている状態なのでボス戦自体が無い。



八層:

 「魔物がいるね」

 七層のボス部屋から階段を降りると、少し先に人型の冒険者風の魔物が徘徊している。


 「リン様、お任せください。我がゴルジフの騎士が魔物を排除します」

 「ファイアランス!」

 「ファイアランス!」

 「ファイアランス!」

 メイド軍団による魔法の合唱と共に、魔物が火の槍に貫かれて消える。

 「んな!」と大口を開け固まるゴルジフさん。

 「お嬢様の歩みを邪魔する魔物は、私達が目に付き次第排除いたします」

 私の後ろに控えるメイド長さんがゴルジフさんを見下しながら宣言しつつ鼻で笑う。

 「フッ」

 「グヌヌ!」

 なにこれ!


 魔物が現れた!


 「我が騎士達よ行きたまへ!」

 「オォ!」

 「ファイアランス!」

 「ファイアランス!」

 「ファイアランス!」

 バシュー!

 「フッ」

 「グヌヌ!」

 (ドエスメイドだな!)

 (うーん、別にいいけどね)


 八層のボス部屋に到着する。先客無しでボスも攻略されていない。

 「リン様、ここは我が騎士に」

 「お嬢様、私がまいります」

 おっと、ゴルジフさんは騎士でメイド軍団はメイド長さん本人かぁ。

 (リン、ゴルジフ弱いのか?)

 クロが聞いてくる。鑑定しよう...うーん。

 (弱くないけど、強くもないって所かなぁ)

 (騎士より弱いって事だな、メイド長はどうなんだ?)

 (騎士より強いね、というか、メイド長>セザール>騎士=メイド達>ゴルジフという強さかな)

 (メイド達も騎士と同じ強さなのか、なかなかやるな! というか黙ってついてきている老いぼれも強いんだな)

 (だねえ、まあセザールさんはボス部屋挑戦するとは言わないね、ギルド長という責任ある立場にいるんだし、その辺はわきまえてるよね)

 私が行くと言ったら止める気なのもわかってるんだよね。



 ま、けど、道中で私の実力を見せるというのも出来そうにないし、既成事実と言うものを作るしか無さそうだなあ。



 「ちょっと、セザールさん。二人を止めてきてくださいな」

 「ヌッ! ワシ?」

 「はい。お願いします」

 「気が進まんのだが...」

 しぶしぶと睨み合っている二人を仲裁に行くセザールさん。


 そっと、ボス部屋に入る。

 「じゃあ、私が行くんで、ちょっと待っててね」

 閉まりつつある扉の隙間から皆の驚いた顔が見える。



 戦士が現れた!

 盗賊が現れた!

 魔法使いが現れた!



 魔物は三体。


 人差し指を横に、魔物の首に線を引くように動かす。


 ひぅん!


 微かな音と共に魔物の首が三つ落ちる。

 「リン、ずるいのだ!」

 「はいはい、じゃあ次はクロが()っていいよ」

 次の層のボス戦はクロに譲る。

 「うむ!」

 消えた魔物の代わりに出現した宝箱を魔眼で鑑定する。

 「ふーん、本当に罠も鍵も掛かってないんだ」

 「無用心だな!」

 「そうだね!」


 リンは、火魔法の巻物を手に入れた!


 背後で扉が開く。


 開いた入り口から皆の驚いた顔が見える。

 「……行きましょ?」

 驚いた顔で固まったままの皆に声を掛ける。


 セザールさんが間抜けな声で聞いてくる。

 「倒したの?」

 「はい」


 ゴルジフさんが、驚いた顔のまま言う。

 「さ、さすが、リン様。お見事です」

 「どーも」


 メイド長さん。

 「お嬢様、素敵です」

 「はあ」




九層ボス部屋:

 「えーと、私が行くけど良いですよね?」

 「……」

 「……」

 「お嬢様、お気をつけて」

 メイド長さんにひらひらと手を振り、ボス部屋に入る。



 戦士が現れた!

 盗賊が現れた!

 魔法使いが現れた!

 僧侶が現れた!



 魔物は四体、僧侶が増えただけ、芸が無いと言うかなんというか。

 「じゃあ、クロ君どうぞ」

 「うむ! 殺ってやるぜ!」

 ボス部屋、ソロというのはいいね。クロと気兼ねなく話せる。


 私の肩からクロが消え、次の瞬間戦士の肩に現れる。振り上げられた右足の爪は一本だけ伸びている。


 斬!


 戦士の首が飛んだ瞬間、盗賊の肩に現れるクロ。


 斬!


 魔法使い。


 斬!


 僧侶。


 斬!


 トントントントン、と続けざま地に首が落ちる。


 全ての首がクロに刈り取られるまで約一秒以内。

 「どやぁ!」

 「クロ君すっごーい!」

 「どややぁぁ!」

 私の肩でドヤ顔をするクロ。

 魔物の肩に縮地で移動し鉄魔法で強化した爪で首を刈る。それを四回。

 「私より時間かかったけどね」

 「に、に、」

 「に?」

 「にゃんだって~!」

 扉が開く。はい、クロ君黙ってねー。


 セザールさん。

 「……」


 ゴルジフさん。

 「……」


 メイド長さん。

 「お嬢様、素敵です」

 「お嬢様、素敵です」

 「どーもー、ん?」

 だれ? まあ、いいか。


 静かになった供を連れ、最下層へと降りる。


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